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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第三部:風岡夏純 ①
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第三部:風岡夏純 7

         3


 六月三十日、木曜日。


 穏やかに晴れた昨日を帳消しにするかのように、今日は朝から激しい雨が降り出していた。


 明日からは七月だというにも関わらず、気温は下がり肌寒くすら感じる。


 この時期にストーブなんて道具を連想してしまったのは、記憶にある限り生まれて初めてかもしれない。


「えー、皆さんには昨日の時点で先生方から簡単な説明を受けているかと思いますが、三日前のお昼休みを境にして一年四組の秋本 夢美さんが家に帰らなくなっています」


 昨日の朝安達が言っていた通りに、今朝は一時限目の授業をカットして全校集会が開かれた。


「皆さんの中に、夢美さんについて何か知っていることや目撃情報など話せる人がいましたら、誰でも構いません、担任でも顧問の先生にでも良いのですぐに知らせるようご協力をお願いします」


 冷気の漂う体育館に響く校長の声は沈んでいて、重苦しく床へと堆積していく。


 秋本 真美の自殺問題が落ち着かないタイミングで、今度は失踪問題。


 それも、よりによって自殺した生徒の妹だ。


 学校側だって穏やかではいられないし、ましてや責任者である校長の立場ならその心境はかなり苦しいことだろう。


 わたしにはよくわからないから関心もないけど、PTAとかからも色々言われたりするのかもしれないし。


 体育館の壇上、校長の横には、先生たちで用意したのか家族から提供されたのかは定かでないが、秋本 夢美の写真が大きく引き伸ばされて置かれている。


 情報提供を呼びかけるために役立つことを期待しているのは明らかで、事実、周囲の生徒たちは興味深そうにその写真を眺めていた。


 激しい雨と校長の暗い声。そんな鬱々とした音だけが響く中で、わたしの耳は小さな囁きを聞き取った。


「――ねぇ、あたしあの写真の子見かけたかも。三日前に階段で一組の角田くんと話してた。たぶんあの子で間違いないよ」


「――っ!」


 間髪を入れず、わたしの首はその音源を探して動いていた。


「え? 本当に見かけたの?」


「うん……。昼休みだったから、ひょっとするといなくなる直前?」


「嘘、それ後で先生に伝えた方が良くない?」


 それほど遠くない。女子二人の会話。


(――いた)


 自分から見て、斜め後ろ。


 列からして二年三組の生徒か。何となく見覚えのある気がしないでもないけど、名前まではわからない。


 ラッキーだ。そう心の中で呟く。


 まさか、こんな形で貴重な情報を持つ存在に出会えるとは。


 彼女がそこでどんなやり取りを目撃したのか。話している内容を少しでも聞いていたのか。


 それをすぐにでも問い質したい衝動をグッと堪える。


(仮に会話の内容がわからなくても、これで貴秀に接触したのが真美の妹だってことははっきりした)


 それから約三十分近く、わたしは校長や教頭たちの長話に耐えた。


「――万が一のこともあり得ます。皆さん登下校の際には不審人物などに注意し、声をかけられたりしても無暗に関わったりしないよう気をつけてください」


 まるで小学生を相手にするような文句で締めくくる校長の言葉を最後に、全校集会は終了した。


 館内が一気にざわめき始め、前方を向いたままだった生徒たちの頭が好き勝手に動きだす。


 その中に紛れて、わたしはさっきまで小声で話し合っていた二人組の元へと歩み寄っていく。


「ねぇ、ちょっと良い?」


「え?」


 突然声をかけられた相手は、驚いたようにこちらを向いた。


 身長はわたしより若干低い。百六十三センチくらいか。おかっぱ頭で少し地味なイメージはあるけど、人見知りするような感じではなさそうだった。


「さっき、秋本夢美と角田くんが会ってるの見たって話してたよね? その話、もう少し詳しく聞かせて」


「詳しくって言われても……、あたしそんなにじっくり見てたわけじゃないよ?」

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