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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第三部:風岡夏純 ①
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第三部:風岡夏純 6

         2


 一度、皆で集まり今後の話をするべきかもしれない。


 そう思ったから、わたしは昼休みに他の四人へ声をかけ旧校舎にある使われていない教室へ集まるよう指示を出した。


 ここは日中に関してはほとんど人が寄り付かないため――放課後は一部の教室が部室として使用されているので別だけど――こっそり集まるには最適な場所だ。


 とは言え、事務員が仕事をする部屋もあり完全な無人ではないため、騒ぎ過ぎれば見つかってしまうリスクも多少はある。


 付き合っている男女がこの校舎で密会しているなんて甘ったるい噂もあるけれど、生憎そんな場面を目撃したことはないため信憑性は低い。


「一応、茜から簡単な説明は受けたよ。ひょっとしたらまずいことになりそうなんだって?」


 もう随分の間掃除をしていないのだろう。


 カーテンの閉められた窓から薄く入り込む光に照らされた埃がキラキラと舞うのを見つめながら、わたしは晴樹が口にした言葉に頷いた。


「うん。まだはっきりはしてないんだけど、場合によってはかなりやばいことになるかも。てか、なってるかも」


「……朝、黒川に訊いてた話だな?」


「そう」


 腕を組み仁王立ちしている竜次を横目で見て、また頷く。


「黒川が会った一年の女子。特徴的に考えて真美の妹って確率高いと思うんだよね。この間、カフェでわたしたちの話聞いてたんだよ。そしてたぶん、貴秀のスマホも調べた。そうだとすれば、あの妹が真相を確かめるために何かしらの行動を起こしてても不思議じゃないし」


「何かしらの行動って、例えばどんな――うわっ」


 近くにあった机へ座ろうとし、積もっていた埃に慌てて尻を離す愛。


「例えば、そうね……仕返し、とか?」


 告げた瞬間、室内の空気が歪んだようにその性質を変えたような錯覚を覚えた。


 わたしを見つめる全員が、うまく言葉にできないような感情をその目に浮かべている。


「角田くんを監禁して、私たちを脅迫しようと考えてるとか思ってるの? できるかしら、そういうこと。相手は私たちと同じただの高校生。しかも一年生でしょう?」


 そう指摘してきたのは、茜だ。


 半信半疑で聞いているみたいだけれど、わたしはそんな彼女へ首を横に振る。


「まぁ、難しい話かもってのはわかるよ。そもそもわたしの言ってること自体が勝手な想像の域を出てないし。でも、絶対ないとも言えないでしょ? 真美をいじめてたことがばれてるなら、貴秀やわたしたちにとって致命的な弱味を握られてることになるんだし、やり方次第では簡単に相手のペースに乗せられちゃうかもしれない。それに、茜は監禁って言ったけど、それ以外の可能性だってある。……殺人、とかさ」


「あはは、まさか。それはさすがに考え過ぎだよ、風岡さん。テレビドラマじゃあるまいし、殺されたりなんかするもんか。……でも、風岡さんの心配する気持ちはよくわかるよ。本当に二人がいなくなったことに共通点があるなら、オレたちのしてきたことが明るみにされるリスクを孕んでるのは確実だろうし」


 殺人という単語をなかったことにするかのように、晴樹は努めて明るい声でそう言葉を紡いでくるけど、その目元は強張っていてうまく笑えていない。


「晴樹の言う通りだわ。夏純の不安な気持ちはわかるけど、現状私たちにできることなんて思いつかない。まして、監禁や殺人って言ったら完全に犯罪でしょう? 下手に動いて警察に目をつけられたらそれこそどうなるかわからないし。今はもう少し、成り行きを見ていた方が無難な気がするけど……」


「だよねー、あたしも茜に同意見。案外さ、今日の夜とかにひょっこりメールかLINE来ることもあり得るんじゃない?」


 慎重な面持ちの茜と楽観的な愛の声が順番に続き、それらに同意するようにして竜次が頷く。


「風岡、少し神経質になり過ぎだ。あんまり良い状況じゃなさそうなのは俺も認めるが、ここは箱沢の言うようにもう暫く様子を見て、慎重に行動を判断しといた方が無難だろ。黒川の言ったことだって、秋本 夢美本人と断定したわけでもないんだしな」


 そう諭され、わたしは返す言葉が思い浮かばず僅かに目を伏せ沈黙する。


 竜次や茜の言いたいことはわかるし、それが間違っていないのも認める。


 だけど、わたしの内側に広がるこの胸騒ぎとしか言えないような焦燥感はモヤモヤとひたすらに渦巻き続けて収まる気配はない。


 本当に、自分たちは様子を見ながら指を咥えていて良いのか。


 もしそれで取り返しのつかない局面に追い込まれてしまった場合、それこそできることなんてなさそうだけど。


(一度で良い。せめて、電話だけでも繋がってくれたら……)


 落ち着かない気分のままに吐き出したわたしのため息は、空中を彷徨う埃を無秩序に掻き見出しながら音もなく静かに消えて行った。

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