第二部:秋本夢美 20
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(クソッ――!)
秋本 真美の妹、秋本 夢美。
カフェでの一件以外、会話はおろかまともに接したのも角田にとっては今日が初めてだった。
姿くらいは、遠目に何度か見たことはある。
真美と一緒に歩いているのも見かけたし、仲が良かったことも知っている。
比較的小柄で愛嬌のある笑みを浮かべて真美に寄り添っているのを見たとき、チャンスがあれば抱いてやろうかと思ったりした少女だったが、たった今目の前に現れたのはまるで別人の如くがらりと雰囲気が変わっていたように角田には見えた。
過去に目にした愛くるしい表情と、今まで眼前にあったゾッとしそうになる冷たい表情。
迂闊だったと、後悔する。
あのとき、あんな店に立ち寄ったりさえしなければこんな面倒事にはならなかったはずなのに。
(ちくしょう……そもそも愛たちがくだらねぇ話大声でしやがるから悪いんだ。どうする? いったいあいつ、何を企んでやがるんだよ)
渡されたメモ用紙を開き、読んだばかりの文字を再読する。
書かれているのは、隣町の住所。
特に興味もないエリアなので行ったことはないが、大体どんな所かくらいはわかる。
角田が知る限り、この辺りは山や古臭い民家がある程度で目ぼしいものなどないはずなのだが。
「……」
秋本 夢美の行動が読めない。
あの秘密をネタに一人で来いと言われた以上、不用意に逆らってはいざと言うとき窮地に陥るのは自分だ。
ここは素直に従い、刺激しない方が無難だろうか。
「あれ? 早かったじゃん。安達の奴何だって? 疑われてる?」
教室へと戻った角田を見るなり、夏純が声をかけてくる。
口調は呑気だが、その吐き出す台詞には真美自殺の進展を気にしているニュアンスが窺えた。
「いや、特に何でもねぇよ。そのこととは無関係だから気にすんな」
なるべく素っ気ない風を装いながらそう答え、角田は席に座る。
(……まずは、相手の出方を様子見だ。隙を突いてスマホ奪って証拠消せば、まだごまかせる余地もあるかもしれねぇ)
事情を知らない仲間たちは、きょとんとしたように角田を見ている。
「じゃあ、何か説教でもされてきたの?」
「別に。大した用事じゃなかった。どうでも良いことだ」
軽く肩を竦めてそう告げながら、角田は舌打ちをしそうになるのを口に力を込めてごまかした。




