第二部:秋本夢美 19
「はい。あたしの言うことを一つ聞いてくれたら、今回の件、誰にも言わずにおいてあげますよ。もちろん、あたし自身今後一切先輩たちには関わりません。……まぁ、そっちがあたしに構ってこなければの話ですけど」
「何もしねぇよ。何だ、その取引ってのは?」
追い詰められ、すがるようにあたしを見つめてくる角田の態度におかしくなるのを堪えつつ、ポケットから一枚のメモ用紙を取り出す。
「今からじゃ不自然でしょうから、今日の放課後、ここに書いてある場所まで一人で来てもらえますか? 誰にも言わず秘密にして」
あたしが差し出したその紙を、恐る恐る手を伸ばして受け取る角田。
そこに書かれているのは、先日あたしが向かったバス停の住所。
「……何だこれ? おれに何をさせるつもりなんだよ?」
角田だってこの地域で育ってきた人間だ。記されている場所がどのような所なのかくらいは大体の見当がついているだろう。
「細かい説明はそのときになったらします。余計なことは詮索しようとしないで、とにかくあたしの指示に従って下さい。先輩に主導権なんてないんですから」
「…………」
きっぱりと告げられ返す言葉もない角田へ
「それじゃあ、よろしくお願いしますね」
とだけ最後に告げて、あたしは一人階段を下りていく。
(これで良い)
最初の布石は無事に打つことができた。
あの様子なら逃げる心配もないだろうし、計画の初動はうまくいくはず。
早退するため職員室へと歩きながら霧雨で湿る窓を一瞥し、あたしはずらしたままでいたマスクを元に戻した。




