第二部:秋本夢美 14
そっと身を屈め、あたしは足元に寄り添う子猫を抱き上げる。
警戒心もなくこちらを見つめてくるその瞳を真っ直ぐに見据え、あたしは小さな声で謝った。
「あなたには申し訳ないけど、ごめんね。あたし、どうしても確かめてみたいことがあるから。……許して」
二ィ……。
こちらの言葉なんて、絶対わかっていないだろう。
子猫は、グイッと伸ばした顔を、その鼻先をあたしの鼻にくっ付け無邪気な鳴き声をあげる。
そんな小さな白い塊を、あたしは優しく穴の中へと放り投げた。
子猫は驚いたように身を固くしながら、放物線を描いて黒い闇へと吸い込まれ――ドヂャッという鈍い音を立て底へと落ちた。
微かな鳴き声が聞こえたような気がしたけれど、それは空耳ではと思えるような曖昧さで終わりすぐに元の静寂が周囲を満たした。
「……どうしよ。とりあえず、帰りのタクシーが勝手に迎えに来てますように」
その静謐の中で、あたしは適当に思いついた願いを口にしてみる。
普通に考えて、あり得ないような内容。
でも、子猫一匹を代償にした願いなら、これくらいがきっと妥当だろう。
自分をバス停まで届けてくれたタクシーが、呼んでもいないのに迎えに来てるなんて絶対に起こりえない。
でも、これでもしタクシーがいたら……。
願い通りの結果が出れば、いよいよをもって病み移しの信憑性は増すのではないだろうか。
「……」
この場で何かが起きたりはしないかと、暫くジッと様子を窺うも特に変化は見受けられず。
あたしはそっと踵を返し、外へと出るためこの場を離れることにした。




