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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第二部:秋本夢美 ②
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第二部:秋本夢美 12

 誰かが歩いたような痕跡は、ここで途絶えている。


 まるでそこにだけ不思議な力でも作用しているかのように、不自然に開けた小さな空間。


 鬱蒼と伸びる木々の枝葉もそこだけを避けるように回避し、上からはどんよりとした空の光が落ちてきている。


 その空間には、地面が盛り上がり木の根が隆起している部分がありそこにポッカリと黒い小さな入口が無言で口を開いていた。


(……これって、何だっけ。前にテレビで観たことある。樹海の地下に続く穴があって――)


 風穴。


 その単語を思い出すのに、一分近くかかってしまった。


 ずっと前、テレビで観た。小さく狭い入口をレポーターが入っていき奥へ進むと、洞窟みたいに広い地下空間が広がっているという自然が作り出した神秘の空間。


 その入口に、ここは酷似していた。


(人工的に作られたってこともあり得るよね? かなり年季が入ってそうな雰囲気はあるけど、これ……入って大丈夫なの?)


 そっと近づき中を覗くも、先は暗くて良く見えない。


 それほど急斜面になっているわけでもなさそうなので入ってはいけるみたいだけれど、どうしたものか。


(さっきから迷ってばっかり)


 自虐的に苦笑を浮かべつつ胸中で呟き、あたしはそっと穴の中へと身体を滑り込ませた。


 中腰になりながら慎重な足取りで奥へと向かうと、徐々に天井が高くなりはじめる。


 スマホの明かりだけでどうにかなるかと心配もあったけれど、道自体は大人一人が通れる程度の幅しかないため見通しは悪くない。


 更に穴の中はひたすら一本道で、迷路みたいな道に迷うような構造をしておらず帰り道を気にせず歩けるのも有難かった。


 しっとりと湿った土壁に手を付きながら先へ進んでいくと、小さな人工物が視界に映り込んできた。


 手にしているスマホをかざして、その姿をより明確に照らし出す。


「あ……!」


 そこにある物の正体を知り、あたしは息を飲んだ。


 疲労に軋む両足を急かすように動かし、すぐ側まで駆け寄る。


「これ、ひょっとして……」


 信じられないような心地で、その物体へ顔を近づける。


 そこにあったのは、外で見た神社をコンパクトサイズに縮小したような小さな社殿。


(いや、社殿って言うよりこれ……、祠、だよね?)


 黒ずみ、腐りきったような色をした高さ一メートル程の建築物。


 屋根部分は崩れてぶすぶすになっていて、もう何十年と手入れされていないような有り様だ。


 元は紙重をぶら下げていたのであろう紐は腐って千切れ、ブラリと垂れ下がってしまっている。


(これ、昔祀ってた神様の祠? 本当に残ってたってこと? いや、でもまさか――)


 望んでいたはずなのに、予想外の展開に直面したような何とも言えない感覚が込み上げてくる。


 信じられない。


 半ば呆然となりながら対面する祠を凝視しているあたしの耳に、ピチャンッ……という水滴の落ちる音が入ってきた。


 それは暗い空間に反響し、ゆっくりフェードアウトして消えていく。


(水……? どこかから染み出してるのかな?)


 音がした方向へ見当をつけ、明かりを向ける。


「あれ、まだ奥がある……」


 祠に気を取られ過ぎて気づかなかったけれど、その後ろにまだ先へと伸びる通路が続いていた。


 これ以上先に、まだ何かあると言うのか。


 ゴクリと喉を鳴らし、肺に溜まった空気を吐き出す。


 祠に触れぬよう注意しながら横を通り、あたしは更に道を進んだ。


(……?)


 距離にして、大体五十メートルくらい。


 狭い道を歩いていると、すぐに開けた場所が現れた。


 通路から見た感じでは、広がる闇が濃すぎて特に何もないように思える。


 いったい何を目的としてできた空間なのかと考えながら歩を進め、ふと足元へ視線を下げた瞬間――。


「――ひっ!?」


 あたしは、反射的に身体をのけ反らせ動きを止めた。


「な、何よこれ。危なかった……」

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