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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第二部:秋本夢美 ②
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第二部:秋本夢美 11

 どけられた子猫が少し戸惑ったように目を大きくしてこちらを見上げてくる。


「残念だけど、あなたのことは連れていけないよ。あたしも暇じゃないから。ごめんね」


 最後にもう一度だけ頭を撫でて、あたしは子猫から視線を外した。


(さて……と)


 取りあえず、これからどうするか。


 日が暮れるまで時間があるとは言え、余裕ぶってもいられない。


(ここから先、もう道ないもんなぁ……)


 期待はしないまま、神社の裏手へと回ってみる。


 群生する雑草が神社を囲むようにして隙間なく生い茂り、ズボンに虫が付くのではないかと胸がゾワゾワしてしまう。


 裏手を見ても特に気になる箇所もなく、戻るしかないかと落胆しかけたとき、あたしは何か違和感を覚えて動きを止めた。


「ん? ここ、何かおかしいような……」


 下草が広がる一角に、最近誰かが通ったような草を掻き分けた跡があるのを発見した。


 その跡は神社の更に奥、深く暗い木々の中へと伸びている。


 その奥に目を凝らしてみるも、鬱蒼とした空間には光がほとんどなく薄闇が終わりなく続いているだけ。


(何だろう……。この先に何かあるってこと?)


 付いてきてきていた白猫が、足にまとわりつきながらウロチョロと歩き回る。


 どうしようか。


 ここから先はまともな道ではない。これで何もなければ無駄骨になるだけではなく、最悪方向感覚をなくして道に迷うリスクも含まれてくる。


(……行くだけ行ってみる? どうせ他に当てもないし)


 普段のあたしなら、こんなことは絶対思わなかったと断言できる。


 たった一人でこんなうら寂しい所まで来て、まして行きつく先のわからない山の奥へ進んでいくなんてあり得ない行動だ。


 それが、今は何故だか気持ちが積極的になっていた。


 せっかくここまで来たのだからと、自分でも気がつかないうちに意地になってしまってるんだろうか。


 人は興奮するとアドレナリンが出るとか言うし、そういう類のものが作用しているのかもしれない。


「……よし」


 意を決して、密集する木々の奥へと足を踏み入れる。


 どんなに慎重に歩いてもガサガサと大きな音を立ててしまうが、どうせ誰に見つかるわけでもないと高を括り遠慮などしない。


「……あなたまで付いてこなくて良いのに。危ないから戻った方が無難だよ?」


 健気に後を付いてくる子猫へ首を曲げて振り向き苦笑する。


 どうやら、懐かれてしまったらしい。


 邪魔になるわけでもないから一緒にいるのは構わないけど、家にまでは連れていけないしどこかでお別れをしなくては。


 またしても滲み出てくる汗の粒を手の甲で拭いながら、その後はひたすら無言で歩き続ける。


 きっと三十分くらいは歩いたはず。


 そう思って時間を確認すると、二十五分が経過していて少し惜しかったなとくだらないことを考えた。


 誰かが歩いたような草を掻き分けた跡は、まだ先へと続いている。


(まさか、こんなに奥まで来ちゃうなんて……)


 復路の時間を考えると、これ以上先へ行くのは少し抵抗が出てくる。


 ここまでの道は覚えたし、日を改めもう一度、今度はもっと早い時間に来てみようか。


 それとも、ここにはもうきっぱりと見切りをつけ新しい場所を探すか。


 あたしの脳に、そんな悩みが浸食してくる。


 足元にはまだ子猫がつきまとい、一生懸命身体を擦りつけてきていた。


(……もうちょっと。あと、五分くらいは進んでみよう)


 何だかんだでここまで来たんだし。後になってからもう少し調べておけばとか後悔するのも癪だ。


 フッと短く息を吐き出し気合を入れ、あたしはそのまま歩みを続行。


 スマホを取り出して電波を確認すると、まだアンテナのマークが一本立っているのを見て安堵する。


 薔薇か何かの棘がズボンに刺さり、その度にチクチクとした痛みに堪えながら進んでいくと、前方に視界の開けた空間が現れ、そこに小さな穴が見えた。

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