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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第二部:秋本夢美 ②
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第二部:秋本夢美 9

         5


 六月二十五日、土曜日。


 学校や会社が休みでテンションの上がる人が飽和するこの日に、あたしは適当な理由をつけて家を出た。


 最寄駅から電車に乗り、隣町である植染で下車。


 それから駅の中にあるお店でパンとジュースを買い、客待ちのタクシーを掴まえた。


「山神地区にあるバス停までお願いします」


 ドアを開けてくれるのを確認するなり即座に乗り込み、開口一番にそう告げる。


 バス停の有無を含めた簡単な情報は、昨日紗由里から教えてもらっているのでこの辺りのやり取りはスムーズにこなせる。


「はい」


 バックミラー越しに柔和な笑みを浮かべた初老の運転手は優しい声で告げて、静かに車を発進させる。


「お嬢さん一人であんな何もない所へでかけるのかい?」


 出発して間もなく、運転手からそんな質問を投げかけられたけれど、


「はい。来月に友達とキャンプをしようと思って、その下見に行くんです。皆用事があるからって、あたし一人に押し付けられちゃって」


 予め用意していた言い訳を口にして、その場を凌ぐ。


 来月になれば、夏休みがある。理由として特におかしいことでもないだろう。


 二十分程走って、タクシーはバス停の前に到着した。


「ありがとうございました」


 終始笑顔で声をかけてくれた運転手へ礼を言い、タクシーが走り去るのを見送る。


 やがてその姿がカーブの先へと消えるのを待って、


「さて、と。それじゃ行こっかな」


 あたしは改めて木々と雑草ばかりが目立つ周囲の景色を眺め回した。


 風の音と、雀の鳴き声。そして、蝉の声。


 そんなものしか聞こえてこない。


 ここまで来る途中の景色には、いくつかの民家も確認できた。


 そのほとんどが不在のようで、家の中は薄いカーテンで遮られ庭には車も止まっていない様子だった。


 若干気温が高く、蒸し暑い。


 これから山道を歩き回るとなれば、汗による不快感を味わう覚悟を決めなくては。


 スマホを取出し、地図を表示させる。


 大きな道路はこれで把握できるけれど、山林へ続く道、特に細い横道みたいな場所まではさすがに調べようがなさそうだ。



“山神地区の祠? うーん……それはちょっと聞いたことないけど、神社ならあるよ。山神神社。バス停のすぐ近くの細い道をずっと行くと建ってるの。一度見たことがあるけど、すごい寂しい場所で面白いことも何にもなかったなぁ。……夢美が言ってるのは、それのことなんじゃないの?”



 昨日、例のサイトで知った情報について紗由里へさり気なく問いかけたときの返答を思い返す。


(山神神社。昔の祠の名残って可能性はあるよね。たぶん、この地区の守り神的なものなんだろうし)


 バス停近くの細道とやらをキョロキョロと探して歩き始めつつ、あたしは胸中で自分の考えを再確認していく。


(これ以外に有益な話は聞けなかったし、今日はその神社に的を絞って調べてみないと。何か些細なことでも収穫があれば良いんだけどな……)


 梅雨の影響なのかは知らないけれど、空は朝からずっと分厚い雲に覆われ、本来なら降り注ぐはずの強い日差しをカットしてくれているのがありがたい。


 車一台すら通らないアスファルトの上を五分ほど進んだ頃、すぐ左手に山中へと入れる細い道を発見した。


 車で侵入するにはあまりにも狭く、地元の人間くらいしか出入りする者はいないだろうことは素人目にも想像がつく。


 見た限り、それほど頻繁に往来があるようでもなさそうだし、きっと春先に山菜を採りに入る人がいるくらいの、その程度の役割しかない道なのかもしれない。


「……」


 足を止め、黙考したのは僅かに五秒。


 あたしは周囲に人がいないことを確かめると迷うことなく細道へと足を踏み入れた。


 左右から伸びる下草が狭い道を更に圧縮している。


(スカートなんて穿いてこなくて良かった)


 足元に落ちていた木の枝を拾い、頭上に張られた蜘蛛の巣を巻き取ることに利用しながら、ひたすら長い一本道を歩いた。

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