第一部:秋本夢美 1
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六月五日、土曜日。
穏やかな日差しに恵まれたその日は、何の変哲もない平穏な空気で朝を迎えた。
特に部活もしていないあたしにとっては、土日祝日は常に自由な時間。
友人やお母さんには何でも良いから部活はやった方が自分のためみたいなことをたまに言われたりもするけれど、聞く耳なんて持つつもりもない。
ほんの三ヶ月くらい前まで通っていた中学校ではソフトボール部に入っていたけど、正直楽しいと思えた瞬間なんて一度もなかったし。
大体、授業が終わってまで学校にいるなんてあたしには考えられない。
学校を終えたら家に帰り、同じ帰宅部のお姉ちゃんとくだらない話をしたりゲームで遊んでる方が何十倍も有意義に感じる。
自分で思うのもおかしな話かもしれないけれど、あたしは小さい頃から根っからのお姉ちゃんっ子だった。
遊ぶのも、寝るのも、おやつもお風呂も、小学校五年生くらいまでは何でも一緒じゃないといられないくらいに。
さすがにそれ以降はお姉ちゃんも中学生になりお風呂やベッドは別々にされちゃったけど。
それでも、あたしの少しでも長い時間をお姉ちゃんと一緒にいたいと思う気持ちは萎むことはなく、夕食後のテレビも休日も余程の用事がない限りはお姉ちゃんの側を離れることはしなかった。
だからこの日も、あたしはいつものように二人分のコーヒーを用意してからまだ寝ているであろうお姉ちゃんの部屋へと向かったんだけれど。
コンコンと少し大きめのノックをしながら、
「お姉ちゃん、朝だよー! おはよう!」
笑顔でドアを開け部屋へ足を踏み入れたあたしは、浮かべたばかりの笑みを貼りつかせたまま表情を凍りつかせることとなった。
閉められた黄色いカーテンのすぐ前に、ピッタリとくっ付いたようにしてお姉ちゃんが立っているのかと、最初は思った。
だけどそれは違うと即座に気がつく。
立っていたのではなく、浮いていたというのが正確な状態だった。
カーテンレールに括りつけたベルトに首を引っかけ、だらりと舌を伸ばしてぶら下がるお姉ちゃんの姿は、まるで精巧にできたホラーハウスの人形の如き異質な存在感を示し、昨夜まで当たり前に生きていた姿とは似ても似つかない非なるものに思え言葉にし難い奇妙な感覚を味わわされた。
だけど、目の前にぶら下がるのは間違いなくお姉ちゃん本人。
「……お姉……ちゃん?」
あたしは、呆然となりながらふらつく足取りで室内へと入り、お姉ちゃんの側へと近づいていく。
「……」
生きている気配は感じない。
お姉ちゃんはもう、完全に動かないものになっている。
そう悟りながら、漏れたのであろう尿で濡れたパジャマと床へ目を移し、その足元に一通の封筒が置かれていることに気づいた。
それをそっと拾い上げ、中に入れられていた一枚の手紙を抜き取り文面を開く。
「……何、これ?」
見慣れたお姉ちゃんの字が、そこには並んでいた。