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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第二部:秋本夢美 ②
19/91

第二部:秋本夢美 5

 そういった文字の他には、ホラー映画のタイトルだろうか、更にどうでも良さそうなサイトもいくつか散見できる。


「ふーん……」


 予想通りと言うべきか、正直つまらない。


 信憑性のありそうな呪いはおろか、復讐の参考になりそうな書き込みも見つけられそうにない。


 落胆しながら肩を落としスマホを放ろうとしたとき、


「――?」


 ある一文が目に留まり、あたしは指を止めた。


<願いを叶える禁忌の儀式・病み移し>


「……願いを叶える?」


 コックリさんとか、よくあるような都市伝説みたいな話だろうか。


 胡散臭い。どうせ、これも何かの噂や事件が元ネタになって作られたつまらない与太話同然の内容じゃないのか。


 期待しないまま、あたしは画面の文字をタップした。


 画面が切り替わり、白い背景が黒く変わる。


 真っ黒で何も表示されていない状態の画面に、数秒遅れて


<病み移しの起源>


 という、赤い文字が浮かび上がってきた。


 そっと画面をスライドさせて下へ進ませると、それに合わせまた赤い文字が浮かび上がる。


 オカルトマニアが管理しているサイトだろうか。


 すごくシンプルな作りだけど、逆にそれが薄気味悪さをうまく演出している。


<病み移しとは。


 江戸時代、現在のT県植染町山神地区に天水田(あまみだ)と言う名の村が存在した。


 今ではもう廃村となりその面影はないに等しいが、天水田と言う名の通り稲作を中心とした農業が盛んで山間部の村としてはかなり多くの村民が生活をしていた場所であった。


 いくつか残っている文献によれば、自然豊かな土地ならではの恩恵に恵まれ、山から流れてくる水は不純物を含まず透明に澄み、作物を育てる土壌は養分を豊富に持ち実る野菜は高く買い取られていたらしい。


 また、家畜も健康に育ち他の村が不作に悩まされていた年ですらこの天水田は誰一人飢えることもなく裕福に暮らしていたと記されている。


 しかしある年の夏、その平穏な村にあまりにも奇妙な異変が起きる。


 突如村人たちが謎の奇病に襲われ、次々と命を亡くし始めたのである。


 病気になった人々は、身体中に黒い斑点が浮かびあがり高熱にうなされ、僅か数日の内に全身が黒く染まったような状態となり絶命していった。


 皮膚だけでなく、舌や歯、眼球までもが黒くなり死ぬその姿は、まるで異界の物の怪を思わせるおぞましさがあり、村人たちはこれを山神の怒りによるものではないかと恐れ囁き合った。


 その考えに至る根拠となったのが、山の祠に祀られていた村の守り神――山の神でもあったらしい――の存在。


 当時この天水田の村長であった男、(くら)竹丸(たけまる)は父の死後、村を治める立場でありながらも信仰心に乏しく、山神を敬うために行ってきた祭事などもまともに執り行うことをせず、村が豊かなのはあくまで自然の恩恵と自分たちの知恵が成しているもの。山神などとは所詮迷信に過ぎない


 というような価値観をもって、数年間に渡り村の指揮を執り行ってきていた。


 そこへ、謎の奇病の蔓延が起きた。


 この奇病に真っ先に襲われたのが村長一族であり、竹丸本人とその妻、十七歳になった長男、三歳下の長女が皆全身を黒く染め亡くなったという。


 その後、止まることなく被害の広がる状況にいよいよをもって耐えきれなくなった村民たちが放置していた祠を清め供物を供えた後、丁重に祈りを捧げ許しを請うも、一向に災いが収まる兆しはなく村民たちは次々と黒い死体へ変えられていった。


 そうして万策が尽き、もはやどうすることもできなくなったと村民全員が諦めかけたとき、村に旅の僧と名乗る一人の男が現れる。


 そして、村が抱える問題を知った男は生き残っている村民たちを集めこう助言した。


「この村には、とてつもなく邪悪な気が充満している。このままではそう遠くないうちに貴方たち全員、病み憑きとなり命を奪われることになるだろう。もし、この邪気を鎮めたければ、生贄を捧げる他にない。神を祀る祠の側に深淵の如き深き穴を掘り、そこへ黒き死体へと堕ちた者たちを集めなさい。そして、その穴へは一年に一度、生きた若い命を供物として捧げるように。そうすれば、その命が身代わりとなり黒き邪気の放出を抑え神の怒りを鎮めることができる。また以前のような、平穏で栄えた暮らしを取り戻すことになろう」


 それを聞いた村民たちは、藁にもすがる思いで言われた通りに行動へ移した。


 奇病で死んだ者たちの死体を全て掘り起し、山の祠近くに掘った深い穴へと次々に落した。



そして、村で一番若い命。まだ生まれて間もなかった赤ん坊を穴へと捨て、災厄が鎮まり平穏な日常が戻ることを祈った。


 すると、その日を境にして今までの悪夢が嘘であったかのように奇病は収まり、村には穏やかな生活が戻った。


 それ以来、この天水田では毎年初夏の頃になると村で一番若い者を穴へと落とし生贄とする風習が続いたという。


 神の怒りを鎮め病み憑きとなって死んだ者たちを弔う儀式であり、その病を生贄に移し村を守る、病み移し。


 この風習は、そう呼ばれて何年も続けられた。


 しかし、その後巻き込まれることになる戦により村からは人が途絶え廃村となると、天水田は地図からも人々の記憶からも消え去っていった。

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