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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第二部:秋本夢美 ②
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第二部:秋本夢美 4

         3


「ごちそうさま」


 カチャリと静かな音を立て、あたしは持っていた箸を茶碗の上へ置いた。


「あら、もう食べないの?」


 正面に座っていたお母さんがどうしたんだろうと言いたげにあたしを見つめてきたから、素直に頷きを返しておく。


「うん。あんまりお腹空いてなくて。食べられそうなときは後で勝手に何か食べるから」


「……そう」


 心配そうに僅かに目を細めるお母さんは、特に何かを言うでもなく頷いてくれる。


 お父さんが死んでから、ずっと女手一つであたしたち姉妹を育ててくれたお母さん。


 夜勤のある工場で仕事を始め、どうにかギリギリで生計を立ててくれているのは本人が口にしなくともあたしたちはずっとわかっていた。


 だからこそ、欲しいものもねだらないし塾に行きたいとかも思ったことはない。


 お母さんは、お姉ちゃんが死んでからは覇気がなくなり、あからさまにため息が増え口数も少なくなってしまった。


 あたしが話しかければ笑顔を見せてはくれるけど、それも今までみたいな自然な笑みではないとわかってしまうため見ていて辛い。


「…………そういうの、何年か前にもあったわね」


「え?」


 テーブルの上に置きっぱなしにされていた広報へ視線を向けたお母さんが、ポツリと声を漏らした。


 つられる様にしてあたしもそれを視界に入れる。


「……?」


 書かれている記事を簡単に目で追うと、この町で最近飼い犬が連続して行方不明になっているといった内容の知らせが掲載されていた。


 家の庭に繋いでいた犬らしいが、勝手にいなくなった可能性は低く何者かにより鎖を外された形跡が残っていたらしい。


 記事の隣にはいなくなったという柴犬とラブラドールの写真も白黒で載せられていた。


「……前にもあったっけ?」


 それほど大々的に伝えられるようなニュースとも思えないし、実際そんな記憶もない。


「ええ、確か三、四年前にも大型の飼い犬がいなくなって、それっきりって事件があったのお母さん覚えてるけど」


「へぇ。きっと悪質ないたずらとかだろうね。ペットとか売ってお金にしたりするのかな。柴犬がそんな高い値段になるとは思えないけど」


 我が家でペットはいないため、無関係な話だ。


 被害にあった人は大変だろうけど、あたしとお母さんの置かれた立場に比べればまだ幸せだろうし。


「ごめん、あたしちょっとやることあるから部屋に行くね」


「ええ。明日はお母さん仕事で少し遅くなるかもしれないから、朝のうちに晩御飯も用意もしていくわね。適当に食べといて」


「うん、ありがとう」


 食べ終えた食器をキッチンへ持っていき、洗って片付ける。


 肌に浸透するかのように静かな空気の中に、テレビとあたしが流す水道の音だけが響いた。


 ほんの一ヶ月前なら、まさか自分がこんな悲しい生活に落されてしまうなんて微塵も予想していなかった。


 お姉ちゃんはいない。お母さんも憔悴から立ち直りきれず、弱々しい。


(全部、あいつらのせいで……)


 あたしの家庭を壊した元凶。


 奴らはきっと、今この瞬間ものほほんとして普通の日常を堪能していることだろう。


 モソモソと食事を続けるお母さんをおいて、あたしは部屋へと戻る。


 疲れをごまかすときみたいに鼻から大きく息をつきベッドへ座り込むと、スマホを取出し電源キーを押した。


「……」


 日中に紗由里と交わした会話を思い返しながら、画面をフリックしていく。


 特に有益な情報など得られるわけがないと確信を持ちつつ、<呪い・死・殺人>のワードを打ち込み検索をかける。


 友人が聞かせてくれた呪われた家の話。


 どういうわけか、あれがずっと頭から離れない。


 ズラリと検索結果が並び、胡散臭い文字の羅列が目に飛び込んでくる。


<呪いで殺人は可能か?>、<呪術サークル紹介>、<呪いと関連があると噂される事件まとめ>、<全国の呪われた土地・建物一覧>

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