第二部:秋本夢美 1
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六月二十三日。木曜日。
蒸し暑い風が入り込んでくる教室の窓。
その向こうに見えているのは、灰汁のように濁った分厚い雲が覆う暗い空。
天気予報では夕方くらいから晴れるようなことを言っていたけど、果たして本当かどうか。
「――みたいなことがあったから、それ以来わたし……って、ねぇ夢美、聞いてる?」
昼休み。
お弁当を広げるあたしの正面に座っていた紗由里の呼びかけに、意識が現実へと引き戻される。
「……え? 何?」
「しっかりしてよ。朝からぼーっとしちゃって。様子おかしいけど、どうかしたの? 昨日もなんかよそよそしい感じしてたし」
そう言って、こちらの顔を覗き込んでくる友人から僅かに身を引いて、小さく首を横へ振る。
「別に何でもないよ。ちょっと寝不足でぼんやりしてるだけ。気にしないで」
「気にしないでって言われてもねぇ……」
嘘はついていない。昨夜は本当に寝ることができなかった。
お姉ちゃんの自殺の原因、あの六人のことを考えていたせいで。
あいつらのしていたことを思い出す度に頭の奥が締め付けられる感覚に襲われ、とてもじゃないけど眠気が入り込む余地など作れなかった。
どうやってあいつらに復讐をすれば良いのか。必死になってそんなことを考え続けていたけれど、結局まだ妙案は浮かんでいない。
警察へ訴えれば、何かしらの処置を取ってもらえるかと真っ先に思いつきはしたものの、それで逮捕されたとしてもあたし個人の気が晴れるものでもない。
どうせ大した罪にもならず、せいぜい数年程度で戻ってくるのかもしれないと考えれば、到底復讐になんてなりはしないし。
(もっと徹底的な罰が必要。全員が死ぬまで後悔するするくらいの……)
本音を言ってしまえば、正直この手で殺してやりたい。
一人ずつ順番に、いたぶりながらじっくりと。
でも、そんなことは難しいのも承知している。
あたしみたいなただの高校生が警察に捕まることなく殺人なんてできるはずがないし、全員を裁く前に刑務所へでも送られてお終いだ。
(本当に、何か良い手段はないかな……)
「そう言えばさ、昨日の夜にやってたテレビ観た?」
「テレビ?」
沈黙に馴染みかけた空気を振り払おうとしてか、紗由里がわざとらしいくらい唐突に話題を変えて振ってきた。
「そうそう。七時からやってた怖い番組。呪いをかけられた家族が、次々に事故とか病気で死んでいくっていう」
「観てないけど……何それ? どうせやらせとかじゃないの?」
呪いとか幽霊なんて、今まで気にしたこともない。
別にそれ自体を否定するつもりはないけれど、興味を持ったところであたしには縁のない世界だと切り離していたジャンルだ。
「さぁ。海外の話だったしね。でも、すごくない? 二歳の男の子が階段から落ちて死んだのをきっかけに、そのお姉ちゃんが交通事故、お母さんが病気でお爺ちゃんが通り魔に殺されて、残ったお父さんは自室で自殺……壮絶だよね」
「――え?」
紗由里が吐き出した最後の言葉に、あたしはつい素で反応してしまった。
「あ……違うごめん!」
そんなこちらの反応を見て即座に悟ったのだろう。
表情を硬くした紗由里は慌てたように腰を浮かせ謝ってきた。
軽率なことを口にした。
そんな思考が顕著に表れた友人へ微笑みを返し、あたしは即座に顔の前で両手を振った。
「平気だよ。そんなに取り乱さないで。何だかこっちが悪いことしたみたいじゃん」
「本当にごめん……」
ぎくしゃくした動作で再び席に座る紗由里を見つめたまま、あたしはお弁当の中に入っていたミニトマトを摘まみ口へと入れる。




