第一部:秋本夢美 11
顔をしかめながらスマホを覗く夏純を、下卑た笑いを浮かべて見やる角田。
(あのスマホ、気になるな……)
ここまでの短い会話から、何となく不快なイメージが脳裏に広がる。
この頭の中に漂うイメージを形にしたなら、かなりえげつない真実が完成してしまいそうな。
そんな予感があたしの中にわだかまり、胸の辺りをモヤモヤさせてきた。
だけど、ここで怖気づくわけにもいかない。
あたしはお姉ちゃんの身に起きていた真実を暴きださなければいけないのだ。
「んなことよりよ、これからマジにどうする? 真美のやつが死んじまったんじゃ、今までみてーに金は入ってこないぞ。バイトでもすんのか?」
半分ほどに減ったコーヒーを飲んで、岩沼がつまらなそうに仲間たちを眺めた。
「はぁ? バイト? そんな面倒臭いこと、わたしはやりたくないわよ。誰かさ、真美に代わる手頃なカモに心当たりないの? また適当に弱み握っちゃえば、すぐにでも言うこと聞きそうな奴」
「バーカ。そんな簡単に見つかるかよ。大抵はヤッた途端に訴えられるかされて終わりだろ。まぁ、楽にできんなら願ったりだけどよ」
「そうでもないよ。気が弱い子は何も言えないで泣き寝入りとか多いし。実際、真美がそういうタイプだったんだから。あぁ……本当に誰かいないかなぁ、大人しくお金稼ぎそうなの」
そんな夏純と角田のやり取りの合間に、軽快な電子音が鳴り響いた。
「あ、ごめん。親から電話だわ」
そう言ってスマホを手に立ち上がったのは箱沢で、そのまま人のいない所へと移動していく。
「……でも、真美があのタイミングで自殺した理由って何だろうね?」
数秒間の沈黙の後、新中がポツリとそんな呟きを漏らした。
「あ?」
その呟きの意味することを汲み取れなかったのか、角田が片眉を吊り上げる仕草をしながら新中を見やる。
「いやさ、今まで散々な目に遭わせてきたんだよ? 死ぬんなら、もっと早い段階で死んでてもおかしくなかったんじゃないかって思うんだ。ここ最近、特に過激なことをしたわけでもないしさ。それなのに、どうして今さら死ぬことを選んだのか、オレ、その理由がちょっと気になってて……」
「んなもん、さっきも言ったように妹の件だろ。妹の話題出してからはかなり切羽詰まったような態度になってたし、表情にも余裕なかったのはお前だって見てたはずだ」
無機質な岩沼の声が、新中の言葉に答える。
「うん、絶対そうだよね。角田くんが妹ともヤラせろとか脅したときの真美のあの顔、蒼白ってレベルじゃなかったもんね。その要求だけは取り下げてくれって、滅茶苦茶必死になって懇願してたしさ。あのときは笑えたけど、死なれた後じゃね……。死ぬ三日前くらいだったよねあれ」
愛もまた、相槌を打ちながらそう会話を引き継いだ。
「え……?」
無意識に、あたしは声を漏らしていた。
(愛って人、今何て……?)
「そうは言ってもなぁ、あいつの妹前に何回か見かけたことあんだけどよ、結構可愛かったんだぜ? たぶん処女だろうし、姉貴利用して丸め込めばできるかなーとか期待しちまうだろ普通よ? 姉妹でかなり仲良かったって話だし、二人まとめてとか想像しちまってたわ」
「貴秀、女子いる前でよくそういうこと平気で暴露できるわね。いつからそんな女好きに成り下がったのかずっと不思議だわ。間違ってもわたしに手ぇ出そうとかしないでよ?」
ヘラヘラ笑う角田に顔を近づけ、夏純が睨む。
「当たり前だろ。お前とは付き合い古すぎて全然そういう感情湧かねぇよ。でもな、知っとけよ? 男ってのは例え彼女がいたとしても、他の女とヤッてみたくなんのが普通なの。そーいう生き物なんだよ」
「最低」
忌々し気に顔を背け、夏純は角田の太ももを叩く。
その乾いた音に全員が笑い声をあげていると、
「――ごめん。私今日これから用事ができたから帰らせてもらって良いかしら?」
電話のやり取りを済ませたらしい箱沢が、再び仲間の元へと戻ってきた。
しかし、座るつもりはないらしく椅子に置いていた鞄を手に取るとそのまま肩へかけてしまう。
「何だ、帰っちまうのか?」
「家の側まで送ろうか?」




