第一部:秋本夢美 10
「馬鹿。んなことしたらすぐに嘘だってばれるだろうが。余計なことしようとしてねぇで、大人しく振る舞っとけ。このまま黙っときゃ、どうせ最後までばれねぇだろうからよ」
「えー?」
隣に座る岩沼に睨まれ、愛は不服そうに唇を尖らせる。
「どうせばれないと思うけどなぁ~。証拠ないじゃん」
「そういう問題じゃないでしょう。無駄にリスクを背負わず、皆このまま無難に終わらせたいっていう話よ」
子供みたいにぼやく愛へ冷静な声をかけたのは箱沢 茜。
そのまま視線を全員に巡らせ、言葉を続けてくる。
「でもまさか、自殺されるなんて思わなかったわよね。さすがにやりすぎだったんじゃないの? 最後のあれは」
「まぁなぁ……。やっぱ妹にまで手ぇだそうとしたのはまずかったか。少し脅せば、素直に言うこと聞くと思ったんだけどな」
参ったというように頭へ手をやりながら、角田が苦笑いを浮かべる。
「何だかんだで、角田くん一番楽しんでたもんね。鬼畜だよ鬼畜。姉妹二人を毒牙にかけようと企むなんて。キングオブ変態」
「あ? ふざけんなよ。そう言うお前こそ、ちゃっかりおこぼれに与ってただろうが。いくら儲けたんだよ今まで」
(……?)
愛と角田の交わす意味深なやり取りに、あたしは表情を固まらせる。
「いやぁ、それはそうかもだけどさ。でもあたし実行犯じゃないし。まだセーフだよ。夏純に比べたら、雀の涙程度の額しかゲットしてないし」
「愛、そういう言い方やめてよ。関わってた以上、同罪じゃない」
「いやいや、罪の重さが桁違いじゃん」
「それならわたしだってまだセーフでしょ。発端は茜が真実に目を付けたせいなんだし」
いったい、この会話は何だろう。
(今、真美って言ったよね? この人たちが話してるの、間違いなくお姉ちゃんの話題だ)
頭の芯から背中にかけて、ピンと突っ張るような感覚が走る。
「しかしなぁ、本気でもうこの世にいねぇんだもんな。もったいねぇなぁ。せめてもう少し遊んどけばよかったぜ」
「貴秀、まさか真美としてるときのことでも思い出してる?」
「うるせぇな」
「そう言えば前に言ってたよね、身体の相性はなかなか――痛っ」
からかうような口調で口を開く新中の頭を、角田が小突くようにして叩く。
「つまんねぇこと覚えてんじゃねぇよ。――つーか、これもう使い道ねぇよな。削除しちまうか。脅す本人がこの世から消えちまったんじゃ何の価値もねーし」
テーブルに置いていた自分のスマホを操作して、何やらつまらなそうに目元の笑みを薄めた角田。
(……?)
そこに何が映し出されているのか、さすがにこの位置からでは覗き込むことはできない。
「え? ちょっとそれまだ消してなかったの? 早く削除してよ、わたしぶっちゃけそれ見る度に嫌だったんだから」
「マジ? じゃあもうちょい残しとくか。夏純からかうときに便利そうだし」




