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病み憑き  作者: 雪鳴月彦
第一部:秋本夢美 ①
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第一部:秋本夢美 9

 煙草を咥えて歩く大柄の男は、岩沼と呼ばれた。


 とすれば、彼が岩沼 竜次だ。昼間教室で見かけた記憶がないため、あのときはいなかったのだろう。


「ねぇ、ちょっと寄ってこうよ」


 夏純と呼ばれていた女子が、前方にあるカフェを指差した。


「マジか。今金欠だから、奢らねぇぞ?」


「えー? ケチくさい」


 嫌そうに告げる角田へ、発した言葉とは裏腹に甘えたような声音で夏純が擦り寄る。


 雰囲気からして、あの二人は恋人同士にでもあるんだろうか。


 お互いのやり取りを眺めている限りでは、それなりに深い関係にあると推測することもできるのだが。


 上機嫌な声をあげながら六人が店の中へ入っていくのを見届け、あたしも少し間を空けてから中へ足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ」


 笑顔で迎える店員へメニューの中から適当に目についたバナナ味のラッシーだけを注文して、ざっと店内を見回す。


 ここへは過去に数回来たことがある。


 紗由里とも来たしお姉ちゃんと二人で入ったこともあり、そのときの思い出が脳裏を掠めた。


 そこそこ広い店内には学生の姿が多く見られるけれど、それでも全体の半分くらいは空席だった。


 そんな中、一際大きな声を響かせている空間へ意識を向けると、案の定六人の姿が確認できた。


 他校の制服を着た大人しそうな男子が、読んでいた文庫本を鞄にしまうと迷惑そうな視線で六人を一瞥し、席を立ってこちらに歩いてくる。


 それと入れ替わるようにして奥へと進み、あたしは会話が聞き取れる距離に席を確保し腰をおろした。


 ちびちびとラッシーに口を付けつつ、ただひたすら六人の会話へ神経を集中させる。


 誰なのかわからない知人の悪口や、説教をしてきたらしい教師への愚痴。そんなどうでも良いやり取りがひたすら続く。


(やっぱり、簡単に進展は望めないか……)


 二十分近くの時間を無駄にして、弱々しいため息を鼻から漏らす。


(六人が店を出たら自分も帰ろうか。情報を掴むチャンスはまだまだある)


 そう思い、張っていた気を緩ませそうになったとき、


「――そう言えばさ、皆聞いた?」


 突然、それまでの話題をぶつ切りにするようにして、唯一違うクラスだと言われていた新中 晴樹がそう言葉を割り込ませてきた。


 僅かに瞼にかかる髪を薄い茶色に染め優しそうに笑うその顔は、アイドルにいてもおかしくないイメージがあった。


 実際、ここまでの話を聞いている限りでは異性にかなりモテているらしく、ついさっきまでバレンタインに貰ったチョコはほとんど弟へ渡し、残りは捨てたと自慢していた。


 そして、この新中。彼はどうやら市長の娘である箱沢 茜の恋人でもあるらしい。


 今年の夏休みは二人で旅行へ行く計画を立てているようで、さっきまで仲間から野次を飛ばされていた。


「聞いたって、何をだ?」


 訝しそうに片眉を上げ、岩沼が問う。


「例のアンケート。今日たまたま先生が話してるのを立ち聞きしたんだけどさ、来週また実施するらしいよ」


 その言葉に反応し、あたしはピクリと頭を揺らす。


「はぁ? またぁ? 面倒ってか、くだらな。何回やったって、結果は同じだっての。あんなの、知りませんで終わりじゃん。学校も無駄なことばっかよくやるよね。さっさと諦めちゃえば良いのに」


 うんざりしたような、夏純の声。


「どうせならさ、てきとーなこと書いてみない? 他校の生徒にお金取られるとこ見ちゃいましたーとか。先生たち真に受けて混乱するかも」


 テーブルへ身を乗り出し、ヘラヘラしながらそう提案したのは青柳 愛。


 六人の中で一番落ち着きなさそうに話す彼女は、メンバーの中ではムードメーカーみたいなポジションだろうか。


 小柄にショートの黒髪も相まって、高校生と言うよりも中学二年生くらいに見えてしまう。

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