太陽接近中
1番窓側の、1番後ろの席。
先生達は後ろの席の方がよく見えてる
なんて言うけれど、
当の本人は黒板と教科書に視線を行ったり来たり。
ただ単に先生と生徒が
教室に詰め込まれただけみたいな1時間弱。
今年の夏は例年よりも気温が高いらしい。
天気予報で毎年聞いているセリフを
今日の朝も聞いてきた。
暑さのせいで集中出来ないし
クラス内もなんとなくだらけている。
完全に机に突っ伏して寝る人半分
教科書をうちわ代わりにして仰ぐ人半分。
私は後者に入る。
お世辞にも涼しいとは言えない
生温い風を自分に送って、ぼ一っと前を見ていた。
否、厳密には"前"ではなく、"斜め前の席の人"。
佐藤くん、
私が密かに想いを寄せてる人。
太陽みたいに明るくて、男女問わず人気者。
あまり話したことないし、
なにかきっかけがあって、とかじゃないんだけど
なんとなく惹かれてる、それだけ.。
それを恋と呼んでいいのかわからない。
何せ初めてなもので、こういう気持ちが。
一体私は佐藤くんの何が好きなのかな、なんて、
突っ伏してる彼の背中を眺めながら考えていたら、
不意にその背中が動いた。
急にキョロキョロしている。
どうかしたのかなと思っていると、
後ろを振り返った佐藤くんとバッチリ目が合った。
心臓が飛び跳ねる。
そりゃずっと佐藤くんのこと見てるんだもん、
こっち向いたら目合っちゃうよね。
なにか言いたそうにしてから、
思いついたように体を前に戻して
何か書いているように見える。
少ししてからまた振り向いて、
私の机の上に手を伸ばして
4つ折りの紙切れを置いた。
なにか書いてある。
早く読んでほしいと佐藤くんの目が言っている。
見られながら何かするのって緊張するんだけどな、
とか思いながらぎこちなく紙を開く。
"次の授業の課題を見せてほしい"
と走り書きしてあった。
なるほど、確かによく見たら佐藤くんの周りの席で
起きてるの私だけか。
机から数学のノートを出して
課題のページを確認したあと、
先生が黒板に顔を向けているのを見繕って
熱烈な視線を送っていた彼に渡した。
声を出さなくても分かるくらい嬉しそうな顔をし、
口をぱくぱくさせた。
たぶんありがとうって言ったんだと思う。
すぐに私がやった課題をノートに写し始めた。
佐藤くんに、ありがとうって言われちゃった、
ってめちゃくちゃレベルの低いことに喜んだ。
でも私にとっては大きなことで、
佐藤くんと少し仲良くなれたかなとか
口が緩むのを隠すために机に突っ伏した。
長かった授業も終わり、
私の隣の人が席を外したのを見て
佐藤くんが隣の席に座った。
「さっきはありがとう、助かった一」
とノートを私の前に出した。
「ううん、役に立てて良かった」
再び早く動き出した心臓を押さえ込んで受け取る。
「高橋さんて字めっちゃ綺麗じゃん、見やすかった」
「本当?なら良かった」
「ほんとほんと。俺のノートと高橋さんの
ノート並べるの恥ずかしかったもん」
「いやいや、佐藤くんそんなに字汚くないでしょ」
緊張してるのに意外と会話は
普通にできるもんだなと頭の中は冷静で。
こんなに佐藤くんと話したこと、
今まで無かったなとか
変な顔してないかなとか思っていると、
さっきよりも前屈みになった佐藤くんに驚いて、
一瞬仰け反る。
「そうだ、なんかお礼させて?」
「え、お礼?
そんな、お礼してもらうようなことじゃないし…」
「何言ってんの、課題写させてくれた上に
ようやく高橋さんと話せたんだから
何かしないと気済まないし」
「え」
ようやく私と話せたって、え?
まるで今まで私と話したかった
みたいな言い方じゃ…
なんて言えばいいのか分からずに
とりあえず視線を戻すと、
すこし照れたような顔が前にあって。
「その、ずっと話してみたかったんだよね、
高橋さんと」
「え、なんで、」
「うーん、なんでだろ?なんとなく、かな」
「そ、そっか」
「あ、こういうこと言われるの嫌だった?
むしろ俺とは話したくなかったとか、そういう…」
「そんなことない!
逆に、私も佐藤くんと話したかったというか、その」
「え、ほんとに?」
「うん、えっと、なんとなく、だけど」
「なんだよ、なんとなくってー」
「さ、佐藤くんもなんとなくって
さっき言ってたよ !」
「えーそうだったー?」
覚えてないな一と大裂裳に首を傾げて
教室のドアに目をやり、
あ、帰ってきた、と小声で咳いた。
ちょっと席借りてた、と戻ってきた私の隣の
席の人に言い、
そのまま自分の席に戻ってしまった。
が、すぐにまたこちらを向いて何か差し出した。
「お礼したいとか言ったけど、
今これしかあげられる物ないや」
ごめん一と伸ばす手に握られていたのは
赤い包み紙の飴。
「ふふふ、十分だよ、ありがとう」
すると満足そうに笑い、ん、と
今度は本当に席に戻った。
こういう優しいところがあるから、みんなから
好かれるんだろうなとまた背中をぼ一っと眺める。
さっき貰った飴を頬張り、口の中で転がせば
甘酸っぱさがいっぱいに広がる。
なんとなく。
そんな適当な言葉で始まった関係が、
いつか特別なものに変わるなんてこと、
この時の私たちはまだ知らない。




