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高円寺ほるもん短編小説集  作者: 高円寺ほるもん
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大阪人よ。永遠なれ

 大阪に数年住んでいたことがある。


 関東人の俺にとって、大阪に来た当初は、何もかもが珍しかった。


 そしてすぐに、大阪人には2つの気質があることに気づいた。


 一つは、目の前の損得にこだわることである。


 例えば、買い物をするときには、まけてんかー、と必ず値切る。


 もう一つは、笑いを取りに来ることだ。


 他人を笑わせることは、大阪人としての義務であると考えている。


 この2つの気質によって、彼らの言動はユニークなものとなる。


 少しずつ大阪に慣れてきた俺に、一つの(ひそ)やかな楽しみができた。


 俺は毎朝、JR中央線の森ノ宮駅で、鶴見緑地線に乗り換えて、勤務先の心斎橋に向かう。


 上りの列車が森ノ宮駅に到着し、最後尾の車両から降りて、プラットホームの(はし)にある階段まで歩いてくると、列車の発車ベルが後ろから聞こえてくる。


 その列車に乗りたい大阪人たちは、ベルの中を必死になって階段を駆け下りる。毎日のことであるので、だいたい見覚えのある人びとがまじっている。


 関東人である俺は、そんなに急がなくても、数分待てば次の列車が入ってくるのに、と思うのだが、そこは目の前の損得勝負にこだわる大阪人のことである。そんな論理は通用しない。


 そしてベルが鳴り止み、プシューという音とともにドアが閉まると、階段を駆け下りてきた大阪人が一様に、ああっ、という声を漏らし、ガッカリした表情をありありと見せ、そのとたんに歩調が緩くなるのである。


 毎朝、この大阪人たちの豊かな表情と、オーバーリアクション気味なしぐさを見るのが楽しみだった。


 俺はその後、転勤で東京に戻って、よくこの話を同僚に聞かせ、一緒に笑ったものだ。


 しかし、ある時、ハッと思った。


 もしかしたら、あの森ノ宮駅で俺とすれ違った大阪人たちは、気がついていたのではないか?


 毎朝、同じ時間に到着する列車を降りて、こちらに歩いてくる濃紺のブレザーにベージュのチノパンをはいた地味なサラリーマンが、笑顔を押し隠して、自分たちを見ていたことを。


 それに気づいていた彼らは、俺の笑いを取ってやろうと、そういう表情やリアクションを、意識的にしていたのではなかろうか?


 いや、きっとそうに違いない。


 彼らの方が、一枚上手(うわて)だったのだ。


 いつ、いかなる場面においても、目の前の勝負に勝ちに行くこだわりを見せ、かつ貪欲に笑いを取ろうとする大阪人たちを、俺は心から尊敬したい。


 どうかその気質を、いつまでも大切にしてほしい。


 大阪人よ、永遠なれ。


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