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高円寺ほるもん短編小説集  作者: 高円寺ほるもん
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北鎌倉駅から乗ってくる女

 以前、会社勤めをしていた頃、鎌倉から都内へ電車で通っていたことがある。


 JR横須賀線の鎌倉駅から横浜駅まで行って、私鉄に乗り換える。


 朝の鎌倉駅の横須賀線上りは、混んでいるものの、ぎゅうぎゅう詰めと言った感じではなく、座席はもちろんいっぱいだが、つり革はまあまあ埋まっている感じ。


 俺は決まった車両に乗り、ドア付近に立っているのだが、ある時、面白いことに気がついた。


 小太りのおばさんが、隣駅の北鎌倉から乗ってきて、すぐにまわりをキョロキョロと見始めるのだ。


 気がついた当初は、誰か知り合いを探しているのかと思っていた。


 しかし、どうやらそうではない。お目当ての人を見つけても、別に会話するわけでもないのである。


 そのお目当ての人は、毎日必ず座っている。ということは始発の久里浜駅から乗っているのだろう。


 初老のサラリーマンという感じである。


 おばさんは、初老を見つけるとにんまりして、半ば強引に初老の前の人の間に割って立つのである。


 おばさんを不快そうに睨む人など、まるで気にかけない。


 一体何をしているのだろう? と思っていたところ、隣の大船駅で疑問が解けた。


 初老は、必ず大船駅で乗り換えるために席を立つのである。


 自然、その前に立っている人が、その席に座れるというわけだ。


 おばさんは、初老が必ずこの車両のどこかに座っていて、そして大船駅で降りることを知っていたのである。


 しばらく経った、ある日のこと、北鎌倉駅から乗って来たおばさんは、例によってキョロキョロし始めた。


 だいたい同じようなところに初老は座っているはずなのだが、今日に限って見つからない。


 おそらく初老は、休みか何かだったのだろう。


 その時のおばさんのがっかりした顔を見て、俺は心の中で密かに爆笑した。


 その後まもなく、俺は鎌倉から引っ越したのだが、おばさんは今も初老の前に立っているのだろうか?

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