プロローグ
ふわふわ、ほろり。
視界に入った白に、少女は考え事をしていた意識を引き戻され空を見上げる。まだ少しだけ明るい灰色の雲から、音も無くゆったりと降りてくる雪。まるで、優しく背中を押して応援してくれているように。
彼女にはやらねばならないことがある。大学で先生から、家でいとこから助言を受け、今、心臓を激しく動かしすぎてミンチになりそうなくらいバクバクとさせながら目的地へ向かっている。
別に不安ではないのだ。ただ緊張しているだけで。
最初はただ提案に乗っただけだった。バイトなんて面倒くさい。面倒くさいことは極力やりたくない。何より、人と関わるのは怖い――そう思っていたはずだったのだ。
だが、大好きなあの人の下でなら。尊敬してやまないあの人の力になるのは。……それもありだと思ってしまった。
冬が訪れる。雪が降る。しかし雪はいつしか雨となり、大地に花が咲く。そんな春の到来を心のどこかで待ち望んでいたのだろうか? 今の彼女にはわからない。
だが、もし彼女が後にこの日から数ヶ月間の出来事を思い出すことがあれば。その時はきっと、“臆病者なりの大冒険”と笑い飛ばすのだ。