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ゴブリンにボケ


 さかのぼること対戦時間が始まる10分前。

 俺は対戦時間が迫る中、一つの不安要素に襲われた。


 そういえば、スマホ機能はチートとして使えるが、ツッコミとボケは果たして本当に使えるのか?

 

 神様が授けたという、スマホ機能、そしてツッコミとボケ。スマホに関してはわかりやすいが、ツッコミとボケの現象を起こせるとはどういうことなのか。さっぱりわからず、試してみようとスマホ片手に森に戻る。


「手ごろな敵、手ごろな敵」


 ゴブリン一匹か、スライム一匹なら恐らく、何とかなるんじゃないかというよくわからない自信でマップを開く。


「お、流石マップ先生。徒歩1分圏内で、ゴブリンを見つけるとは」


 経路通りに走っていき、あっという間にゴブリンを見つけ草陰に隠れる。小柄な中学生くらいの大きさだで、余り肉付が良くはなく、姿勢も猫背で、何よりも目につくのは叩くといい音がしそうな禿げ頭と、緑色の肌をしていることだ。

 

見つけた、はいいもののこのまま飛び出して大丈夫なのか、こちらが一方的にボコられるのではないか、最悪死んでしまうんじゃないか。


 そうした不安が一気に襲ってくるが、色んなお笑いを頭に思い浮かべながら、自分を鼓舞しゴブリンと対峙する。


「どもー。佐藤郁斗でーす」


 どんなテンションでゴブリンと向かい合えばいいかわからなくなった結果、考えていたお笑いの王道的な登場で飛び出てしまう。出てしまったのだ。この後どうすればいいのか。佐藤もゴブリンもこの状況を客観的に見た人ですら分からなくなっていたであろう。


「ぐぎゃあああ!」


 しかし、流石はモンスターといったところで、気まずい空気をものともせず、手に持つ木の棒で佐藤に襲い掛かる。俺は避けながらスッと手を上げ。


「何言うとるかわからんねん。日本語喋れ!」


 スパーン、と気持ちい音が鳴り響き、ゴブリンの禿げ頭を叩いた。まるで、流れるように自然な動きで敵の攻撃を避け、ツッコミを入れた自分に驚く。

 そうか、これが、ツッコミとボケのチート能力か。相手の攻撃をボケとして避け、こちらの攻撃をツッコミとして当てる。うーん、扱いづらいー。もっとシンプルに身体強化するとか、チート武器用意するとかの方が良かったー。


「痛いわボケコラー!」

「えっ?」


 振り向きながら、ゴブリンが日本語で叫ぶ。先ほどまで、知能は猿程度のものかと思われたが、まさか喋れたのを隠していたのか? 驚き思わず目を見開いたが、ゴブリン自身も口を開けたまま驚いている。


「なんか喋れてんだけドー!?」

「元から喋れたんちゃうんかい!」

「んぎゃぎゃああああ!!!」


 思わずツッコミを入れてしまうと、ゴブリンは言語能力が失われて叫んでいる。

 これが、まさか、俺のツッコミとボケの真の能力なのか? ただ、相手の攻撃を避けながらツッコミを入れるだけではなく、ツッコんだ事を現実に出来る。...これは、漫才で天下とれるんちゃいますかー!?目指せ、M1!!...じゃなくてー。


「ごめん、もっかい日本語喋ってもらえる?」

「さっきからそうしようとしてるけど、喋ることが、出来てるんだけドー!?」


 俺が言葉を発した瞬間に、獣のようにわめくだけだったゴブリンが流暢な日本語で叫ぶ。


「ずいぶんノリええやーん。俺らコンビ組んでみん?」

「あー、いいねぇ。俺らで世界を笑顔に...ってなるかボケー! 俺はモンスターでお前は人間。敵同士なんだよ! おとなしくぶっ殺されロ!」


 ブンッと振り下ろされた棒を横に避けると、追撃で、棒をブンッと横薙ぎで攻撃してくるが、それも難なく躱し、それでもあきらめずにゴブリンが振った棒はブンッっと空振りをする。一呼吸おいてから、ゴブリンはまたも攻撃を仕掛けてくる。

ブンブンブン。俺はすべて避ける。ブンブンブン。避ける。ブンブンブン。避ける。ブンブンブン。避け———。


「ぶんぶんぶん、蜂が飛ぶか!」

「いや何ガ!? グヌヌ、やってらんねーよ、こんな変な奴がいる場所なんていられるカ!」


 パンとゴブリンの頭を叩いた俺のボケを綺麗にツッコミ返したゴブリンに、漫才の才能あるんじゃないかと感じたが、ゴブリンは最後に言い捨てて逃げ出してしまう。俺は追いかけながら、呼びかける。


「待て、ゴブリン。その言い方はまずいで!」

「待てと言われて待つゴブリンがどこに———」


 走って逃げながら、そういったゴブリンが急に目の前から消える。俺はゴブリンが消えたところにつくと、そこには誰が、何のために掘ったのかわかない深い落とし穴があり、ゴブリンはそこに落ちていた。


「ぐっ、俺は、もう駄目ダ」

「そんなこと言うなや! ゴブリン、今助けるからな!」

「来るナ! 来ないでくレ。...最後に、これヲ」


 先ほどまでゴブリンが使っていた棒が投げ渡される。俺はそれを何とか受けとると、穴の底にいるゴブリンが口を開く。


「これを、俺だと思って、大事にしてくレ」

「...わかった。お前の事、腹を抱えて忘れへんから!」

「笑ってんじゃねーカ!胸に抱えてくレ」

「どうも、ありがとうございました」


 棒を貰ったお礼を含んだ漫才の締めでもあるセリフを残し、俺はゴブリンと別れる。初めて出会ったとは思えない掛け合いが出来たことを胸に、急いで目的地だった対戦場所へと向かった。

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