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こちら、勇者救出部隊

ある新入隊員の入隊動機

作者: 一条柊

一年三組、平 サチさん、森川先生がお呼びです。至急職員室まで来てください。一年三組、平 サチさん、森川先生がお呼びです。至急職員室まで来てください。



自分が幸運だったなんて、私は知りたくなんか、なかった。舌足らずな妹がおねぇちゃんって、学校から帰ってきた私に一番に走ってくるとか、最近生意気な弟が私に歯向かってくるとか、それが幸福なことだって、知りたくなかったよ。クソヤロウ。校内放送で、職員室に呼び出された時は、なにかやらかしたかな?いや、でも、何もしてないしって思ってた。友達も、面白がって何したの?って笑って聞いてきて、早く行ってこいって、後で報告してね、なんて送り出してくれたから、気づかなかったし、私も思い当たらなかった。あとから、聞いたら、私の周りにいた子以外のほとんどが、顔を強張らせてたって。職員室に行って、お母さんとお父さんと、もう一人知らない人がいるのを見て、そこで初めて、血の気が引いた。ねぇ、あの感覚、分かる?指先から冷たくなっていくのに、心臓はやけにドクドクいって、口の中はカラカラで、どこか自分の体じゃないみたいな感じ。たぶん、同じ立場になった人じゃないと、わからないんじゃないかな。だって、私だって分かったようなふりして本当のところは知らなかったから。私はここで初めて、本当に理解した。勇者召喚で、家族を誘拐された側の気持ちが。



現場より報告。太陽くん発見。ひなたちゃんの姿は確認できず。別々に捕らわれている模様。これより二班に分かれ、ひなたちゃん捜索を続行します。



お母さんはずっと泣いていて、お父さんはじっと何かを耐えているみたいだった。私たち家族に出来たことは、勇者救出部隊の本部基地で、妹と弟が無事に帰ってくることを祈り、待っているだけだった。



現場より報告。ひなたちゃん発見。意識錯乱あり。精神異常をきたしている模様。洗脳痕跡あり。救護班、高度精神療法班、帰還に備え準備願います。



弟が見つかった。ひどい怪我もなく、元気みたい。よかった。本当によかった。嬉しくてホッとして涙が出てきた。妹も一緒ですよね?って聞いたら、報告してくれた隊員さんの顔が一瞬曇った。でも、すぐに笑顔になって、見つかったと答えてくれた。それから、お父さんだけ隊員さんに呼ばれて、泣きじゃくるお母さんと私だけが部屋に残された。お母さんは何度も、よかった、よかったって言って、泣いていたけど、私は素直に喜べなかった。報告してくれた隊員さんの、一瞬だけ曇った顔が頭から離れなかった。弟が無事なのは、本当だと思う。でも、妹は……。隊員さんは見つかったとは言ったけど、無事だとは、言ってない。もしかしたら、妹は、妹は、もう、生きていないかもしれない。



現場より報告。太陽君、ひなたちゃん、奪還成功。これより報復活動及び、第一次通告開始します。



隊員さんに支えられて戻ってきたお父さんの顔色は真っ青で、足元もおぼつかないみたいでフラフラだった。お母さんは、まだ泣いていて気付いていないみたい。私と目があった隊員さんは、安心させるように大丈夫だよって声をかけてくれたけど、それが嘘だって、小さい子供じゃないんだから、私にだって分かる。隊員さんは、私たち家族にここで待機するように指示を出して出ていった。この基地で勝手をしてはいけないってことは、分かってる。それぐらいの分別は、ついてるつもり。でも、でも、私はもう嫌だった。自分の妹が生きているか、死んでいるかもわからない状況のまま待つなんて耐えられなかった。あんな状態のお父さんから、話は聞けない。今にも倒れそうなお父さんに追い打ちをかけることなんてできなかった。だから私は、隊員さんから話を聞こうと部屋から勝手に抜け出した。今思えば、これが人生の岐路っていうのかな。もしもの話をしたら切りがないけど、もしも私が分別を持ったイイ子だったら、この先の進路は大きく変わっていたんじゃないかと思う。それが、幸せなことか不幸なことか、どうかはわからないけど。だけど、もう一度同じ状況に陥ったら、私は同じことをする。自ら選んで、部屋から抜け出して、同じ進路を、同じ道を進む契機をつかみ取る。



現場より報告。報復活動及び、第一次通告完了。なお、6名捕縛。これより捕虜として連行する。尋問班待機願います。勇者救出部隊、救出および報復活動、第一次通告任務完了。帰還します。


本部より伝達。尋問班待機完了。本件より異世界番号Ⅹを危険指定番号4と認定。異世界番号〇〇四と改定す。帰還時、聖水を散布後帰還せよ。


現場より報告。了解。聖水を散布後帰還します。



楽しそうな笑い声がした。物々しい装備をまとった険しい顔をした大人たちがいる、緊迫した空気が流れる場で、とても不釣り合いな妹の楽しそうな声。一緒に聞こえたのは、弟のすすり泣く声。きゃはは、きゃはは、ひなはね!おーじさまとけっこんするのー!それで、いっぱいあかちゃんをうんで、ほかのくにをほろぼすの!ひなのあかちゃんはいいぶきになるんだって!あははは!きゃはは!あ、おねぇちゃん!ひなねぇ、すごいの!ひなはね、ひなはね!あ、あ、あ、ひ、ひ、ひ、ひぃひぁ、あ、あー……やぁぁぁ!いやぁぁ!おねぇちゃん、たすけ、あ、あ、あ、あははは!きゃは!ひなはね!ひなはねぇ!おーじさまとけっこんするのー!何かが、私のなかで何かが、確実に壊れた音がした。



受験番号と名前をお聞かせください。はい。受験番号103番、平 サチです。よろしくお願いします。平さん、お座りください。はい。失礼します。では、勇者救出部隊への志願動機をお聞かせください。はい。私の志願動機は―――。

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