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雨蛙

作者: 口羽龍
掲載日:2022/07/03

 6月の梅雨の時期の事。大きな雨音を立てて、ここ何日も雨が降り続いている。多くの人は傘を広げて歩いている。いつになったら梅雨が明けるんだろう。彼らは梅雨が1日も早く明けるのを待っている。


 ある1件家を雨蛙が見ている。雨蛙はとても寂しそうな表情をしている。その雨蛙の名前はケイタ。この家の庭に潜む雨蛙だ。この家の庭は雑草がなくて、しっかり手入れしている。女の人が定期的に雑草を取っているようだ。


 ケイタはこの家にいる1人の娘の事が気になった。その女はいつもあの家の同じ部屋にいて、ケイタを見つけると声をかけてくれる。ケイタはそれが何よりの楽しみで、生きる力だ。


 だが、ある日からその部屋はカーテンが閉まったままで、どうなっているのか見えない。一体何があったんだろう。


 ケイタは雨蛙でわからないが、その女の子、すみれは難病を患っていて、1週間前に亡くなっていた。その事を知らないケイタはただじっと見ているだけだ。


 カーテンが閉まったままになって次の日の夜、たくさんの人が家を出入りしている。彼らは黒い服を着ている人が多く、みんな悲しそうな表情だ。一体何があったんだろう。ケイタはその様子をじっと見ていた。


 更にその翌日になると、茶色い桐の箱が家の中から出てきて、ワゴンに載せられていた。昨日と今日にこの家で何が起きているんだろう。ケイタは首をかしげた。


 ケイタにはわからなかったが、棺の中にあるのはすみれの遺体で、告別式に向かうために霊柩車に載せられていた。


「あの子、どうしちゃったのかな?」


 ケイタはあの子が気になる。何が起きたのか、その目で確かめたい。だが、入ると踏み付けられて殺されるかもしれない。庭の中で、ケイタは悩んでいた。


「入ってみよう」


 ケイタは外から家を見て回った。雨が降っているせいか、窓がみんな閉まっている。どこから入ればいいんだろう。わからない。中を確かめたいのに。


 ケイタは色々見まわった。だが、なかなか見つからない。どこも閉まっている。


 しばらく辺りを回っていると、1か所だけ開いている所がある。風呂場だ。風呂場は清潔で、換気扇が回っている。風呂場を洗った直後らしく、床などが少し濡れている。


 ケイタは風呂場に入った。風呂場には誰もいない。向こうでは何か音が聞こえる。何かを動かしている音だ。だが、ケイタには想像がつかない。

 と、誰かが部屋に入ってきた。その女はすみれの母だ。すみれを失った悲しみに打ちひしがれていたが、徐々に持ち直してきたようだ。リビングの掃除が終わり、これから風呂場の掃除に入るようだ。


 母は降り続く雨を窓から見ている。まるですみれの死を悲しんでいるかのようだ。もう泣かなくていいのに。短いけれど人生を一生懸命生きたのに。もう泣かなくてもいいのに。


 風呂場の床を見て、母は驚いた。そこにはカエルがいる。どこから入ってきたんだろう。気味が悪い。


「キャー! カエルー!」


 母はケイタを踏み付けた。ケイタは一瞬で踏みつぶされた。ケイタは自分の身に何が起こったのかわからなかった。悲鳴を上げる女の声だけだ。


「うぅ・・・」


 ケイタは意識がもうろうとしている。部屋の様子を見ようとしたのに。ここで命を落としてしまうのか。無念でしょうがない。できれば部屋の様子を見たかった。


 母は何事もなかったかのように去っていった。薄れゆく意識の中でケイタはそれを見ている。どうしてこんなにあっさりと殺されなければならないんだろう。どうして自分は生まれてきたんだろう。


 ケイタが意識を取り戻すと、そこは不思議な場所だ。何が起こったんだろう。ケイタは首をかしげた。だが、少しずつケイタは感じてきた。自分は踏みつぶされて死んだんだと。ここは天国なんだと。


 ケイタが前を向くと、目の前にはすみれがいる。元気そうな表情だ。とても病弱そうに見えない。だが、ここは天国だ。病弱な体から解き放たれたから、元気な姿なんだろう。


「す、すみれちゃん?」


 ケイタは驚いた。まさか、ここで会えるとは。僕を待ってくれていたような表情だ。


「うん」


 すみれは笑顔で答えた。ケイタと再会できて嬉しそうだ。


「大好き!」


 すみれは手のひらを差し伸べた。すると、ケイタは手のひらに飛び乗った。ケイタは生前、すみれに会う事ができなかったが、天国で会う事ができた。とても幸せだけど、できれば生きている時に会いたかったな。


 雨蛙として生まれてきたけど、今度生まれてくるとしたら、人間がいいな。そして、すみれのような女に恋をして、結婚できたらな。


 雨蛙を踏み付けて間もなく、雨が止んだ。そして、雲が切れて青空が見えてくる。母はじっとそれを見ていた。

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