【第2話】あの世とこの世の狭間にて②
「それはいったいどういうことでしょうか。」
「今回の特殊なケースだと、儂の力で巻き込まれた者を意思確認をした上で元の世界に留まらせることが出来るのじゃ。
だから、儂がお主の友達たちに状況を説明し、どうしたいかを聞いたのじゃ。
元の世界で生きるのかそれとも別の世界に召喚されてお主を支えるのかをな。だからな、お主が責任を感じることはないのじゃ。」
最高神の説明を受けて少し心が落ち着いた。
つまり、友達は元の世界で生きることが出来るということだ。
だが、少し心に突っかかりを感じていた。
先程最高神は『友達に会える』という様なことを言ってなかっただろうか。
それは僕の友達が僕が召喚される世界で生きていく事を承諾したということだろうか。
そもそも今の今まで誰が巻き込まれているのかも考えていなかったのだが、誰がそんな選択をするのだろうか。
「あの、その僕と一緒に召喚される友達というのは、いったい誰なのでしょうか。」
「ああそうじゃったそうじゃった。それを伝えていなかったのじゃ。今回召喚に巻き込まれたのは4人じゃ。颯太、隼人、瑞樹、力じゃ。」
それを聞いて納得がいった。
まず巻き込まれたのもバスの最後尾に座っている4人だった。
そして修学旅行で近くの席に座っているということはそれだけ仲の良い友達ということを表している。
力だけは本当に巻き込まれてしまったようだ。
つまり、僕を含めて力を除いたその4人は親友と言っても過言ではない関係だ。
「まず颯太じゃが、お主が死んで別の世界に召喚されると伝えたときには『まじ?魔法とか使えんの?じゃあ俺もその世界に行く。』と間髪入れずに答えておったぞ。」
颯太とは小学校からの幼馴染だ。
家が近所でよく一緒に遊んでいた。
そして、彼はライトノベルをよく読んでいたこともあって架空の世界への憧れが強かった。
颯太が異世界に行きたがるのは納得がいった。
「次に隼人じゃが、『この世界にも飽きたからちょうどいい。付き合ってやるかな。』といっておった。」
隼人は中学校からの同級生だ。
彼には所謂中二病だった時期があった。
その時期は読むマンガすべてに影響を受けていた。
ヤンキーマンガを読んだ次の日には髪を染めて登校し、泣きながら先生に怒られていた。
そんな彼だが高校に入るころにはすっかり落ち着きを取り戻していた。
でも心の底には中二病魂というものは存在していたのだろう。
「そして瑞樹は『あいつがいないと恩恵を受けられない…つまりあいつがいる世界の方が色々とやりやすいんだよ』と言っていたぞ。」
瑞樹は高校から仲良くなった友達だ。
彼は髪を茶髪に染めて、制服も着崩していて、所謂チャラいという様な見た目だった。
学校でもいつも女の子と話していて、友達の中では一番モテたんじゃないかと思う。
だから瑞樹が言っていることはあまりよくわからない。
僕から何の恩恵を受けていたのだろう。
「最後に力だが『あの親と離れられるならそれでいい』といっておったぞ。」
力についてはあまり僕は良く知らない。
ただ、学校では友達と話しているところはあまり見たことがなかった。
それでも目立たないということはなく、逆に注目の的だった。
学力は学年で1番、運動神経も良くていつも体育では目立っていた。
噂だと家が相当なお金持ちだという。
だからこそ力が異世界を選択したことが良くわからなかったが、彼には彼なりの事情があるのだろうと思うことにした。
「つまり、僕に巻き込まれた人たちは全員が異世界に行くことを決めたってことですか。」
「そういうことじゃ。そして、その選択は彼ら自身が決めたことじゃ。だからお主が責任を感じることはないのじゃ。」
「わかりました。」
話を聞き、やっと納得した。
取り乱していた心に平穏が訪れた。
そうなると異世界に召喚されるという事に目が行くようになった。
異世界ってどんなところなのだろう。
魔法ってどんなものなんだろう。
そんな世界で勇者って大丈夫なのだろうか。
少し楽しみで少し不安だった。
そんな僕を察してか最高神は世界の説明をしてくれた。
「色々と説明をしてやろうかのう。まずお主が召喚される世界というのはセフィーリアという世界じゃ。
セフィーリアは所謂剣と魔法の世界というやつじゃのう。
その世界は1つの大陸を中心に十字に5つの大陸が分かれておって、そのうちの西側の大陸の大国『聖王国ソルーニア』にお主らは召喚されるのじゃ。
聖王国は…いや、これはお主らの召喚をした国が責任をもって教えることじゃのう。
何か聞きたいことはあるか?」
「あの、僕たちは魔法は使うことができるのでしょうか。」
「それは大丈夫じゃ。そもそもお主がいた世界にも魔法を使うための魔力というものは存在したのじゃ。
そしてそれがない人間というのは生きることが出来ないのじゃ。
ただあの世界では魔力が循環しにくい構造になっておっての、人間の進化もその魔力が体外に放出しない様に進化を遂げておるのじゃ。」
「なるほど。それでは僕たちは召喚された世界では魔力を外に出せないのではないですか?」
最高神は僕の問いかけを聞き、とても愉快そうな笑顔を見せた。
「お主は本当に察しが良いのう。そのままの体で行ってしまうとその通りの結果になるのう。
だがこの勇者召喚の魔方陣にはお主らの体を作り変える機能が備わっておるのじゃ。
じゃからお主らは向こうの世界で魔法が使えるのじゃ。
そのうえ、その魔方陣によってセフィーリアに住んでいる人類の5~10倍の魔力放出ができる体に作り替わるのじゃ。
じゃから向こうの世界では少し優位に事を進められるであろうな。」
魔法が使えることを知り、何とかやっていけるかもしれないと思い始めたときにあることに思い至った。
そもそもなんで召喚されるのだろうか。
勇者となって何をしてもらいたいのだろうか。
「僕は勇者としてセフィーリアで何をしたらよいのでしょうか。」
「そうじゃの。勇者召喚の理由はな。魔王を倒してもらいたいのじゃ。」