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第九十九話 身内からの持ち込まれた難題

 ユウトが戻って、一夜が明けるとパヤがやってくる。パヤはにこにことしている。対外的な微笑みだと思う。パヤの感情は顔には現れない。ユウトが報告する。


「テルマ様からの宿題は終わりました。これでよろしいですね」

「テルマ様はお喜びでしょう。銀山の運営と交易については頑張ってください。また、何か問題が起きましたらテルマ様を助けてください」


 少しの間は何もいってこないが、またしばらくするとこちらを試してきそうだ。将来の試練についていま不安に思っても仕方ない。街は発展しており、問題は次から次へと起きる。起きた順に処理しておこう。


 庄屋の仕事に戻ると、リシュールがやってくる。リシュールが書類を手に報告する。

「下水道の整備は順調です。村の外れに作っている肥料工房も形が見えてきました」


 住環境の整備と新たな産業育成も大事な仕事だ。肥料工房はまだ稼働できない。早く稼働させて、周りの農家の収量を上げたい。


リシュールが書類を提示して説明する。

「肥料工房ですが当初の予算規模より工事費が増えております」


  来たよ、金の話が。空気中の窒素からアンモニアを作って、硫酸アンモニウムを作る画期的な方法だから金がかかるのがわかる。どれほど、費用が増えたのだ。額を確認すると、当初の予定の二倍近い。だが、想定利益は二倍を超える。


「いかがいたしましょう?」とリシュールは畏まって尋ねる。


 密貿易が開始できそうなので、金は増える予定だ。肥料工房も稼働できれば金にはなる。投資先として肥料工房は有望だ。街では農業従事者が占める割合は減ってきているが、付近の村では農業が重要な産業だ。お百姓さんの収入を増やしておかないと東の地全体で見た時に貧富の差が大きくなる。


「予算の増額は認めてください。この地の経済力を上げましょう」

 ユウトの言葉にリシュールは満足して帰って行った。夕方には別の訪問客があった。久しく会っていなかった、次男のニケがきた。ニケはユウトの出世を喜んでいた。


「お前が大庄屋になるとは大したものだ。俺なんか旧王国が倒れてから低い役職のまま喘いでいる」

 旧王国の高級官僚だったのでニケは優秀な人材だが、運が巡ってきていない。街が大きくなってきたので、役人として雇い入れは可能だが、ニケのプライドを傷つけかねないので、言い出すべきかユウトは迷った。


  襟を正してニケが切り出す。

「そこで今日は、頼みというか、お願いというか、良い話をもってきた」


 何か身内から問題が来た予感がした。ユウトは顔には出さないように気を遣いつつ、尋ねる。

「兄弟は助け合うものです。できることなら、協力しますよ。なんなりと申してください」


「実は今この地方を治める領主様の元で働いてる。身分は低く、税務官吏だ」


 領主に掛け合って、上の地位を得たいのだろうか? 筆頭代官のミラとは上手くやっている。頼めば兄の役職を上げてもらう対応は可能だが、それでもより高い地位に兄に就いてもらうなら、それなりのお土産をミラに渡さねばならない。身内びいきだが、ミラには身内の引き立てくらいしてもらってもいいぐらいの働きをしている。


「では、私から筆頭代官のミラ様宛てに推薦状を書きましょう」


 ニケはバツが悪そうな顔で言い出す。

「いやそうじゃないんだ。ユウトも良い歳だ。そろそろ結婚がどうかと思って縁談を持ってきた。相手は家柄、身分、財産、共に申し分ない」


 おや? なんだか話が怪しいぞ。結婚はまだ考えていない。だが、兄貴がこうしてわざわざ遠出してきたので、即答で断るのも悪い。


「相手によりますが、お見合いくらいしてもいいですよ」

「このお見合いは会えば断るのがとても難しい。ユウトの将来にも大きく影響する」


 権力者が相手か、大庄屋まで出世してから金があると思っているな。わからんでもない。同世代の若い男性と比べればユウトは金持ちだが、没落商家の家柄なので血統は良くない。将来を見ての縁談なら、金がなくなれば即離婚もある。


 でも、気になったので尋ねる。

「それでどこの良家の子女なんですか?」

「この地を治める領主様だ」


 とんでもない縁談が来たな。領主との見合いを引き受けたなら、ユウトから断るのはほぼ無理だ。領主は顔も知らないし、街に来た経験もない。性格も知らない。とんでもない性格破綻者だったとなれば、ユウトの残りの人生は悲惨なものになる。


 改まった態度でニケは打ち明けた。

「今日、来たのは筆頭代官のミラ様の命令だ。この縁談に成功すれば俺は代官に引き上げられる」


 そりゃそうだ。領主の夫の兄となれば、代官くらいにはなれる。端役の税務官吏から一気に大出世だ。上の役職を手に入れられれば頭が良いニケのこと、裁量の大きな仕事も任され、部下も増える。嫌な上役に苦労していても、今度は顎で使える。収入だって増える。ニケにとってはまたとない出世のチャンスだ。


 立場はわかるけどさあ、その相手は本当に大丈夫なの? が、ユウトの本音だ。領主については女性だと聞いていたが、詳細はまるでわからない。旧王国の貴族で先の大戦でマオ帝国側についてこの地に転封してきた以外は表だった情報がほとんど出ていない。


  悪い噂を聞かないが、庄屋として税で苦しめられている。民を思いやる人徳家ではない。面倒な縁談が来たなと思う。筆頭代官ミラが自ら出向いてこないのも気になる。ミラなら話を纏めて手柄にしたいはず。もっとも、近親者が適任とニケに役目を譲った可能性もあるがどうも怪しい。


 うん、と即答しないとニケが押してくる。

「どうだろう、色よい返事をもらえないだろうか」


「待ってくださいよ。兄さん。これは安易に返事ができない話ですよ。そもそも、領主様の情報を俺はほとんど知らない」


「実は俺も顔を見た記憶がない。年齢は今年で二十六になる。領主様は基本城から出ない。あと、領主様は初婚ではない。前に二度結婚し死別している。二人の夫の死因は不審死と噂されている」


 曰くつきだな。戦乱の世なので戦死はあろう。二人続けて事故死もあろう。

 まさかとは思うが、気に入らない夫を殺しているとかないだろうか? これ公になっていないだけで、裏でもっと死んでいるなら確実に受けてはいけない縁談だ。


  ニケの表情は芳しくない。

「領主様には子がいない。このままでは家が絶える可能性もある。なので、婿を探している。どうだ、受ける気はないか?」


「すぐに受けますとも、断りますとも返事ができません。数日、考えさせてください」

 なんとも厄介な話がきたものだと思うが、これもまた人生なのかもしれない。

続きは2023年3月中旬予定。

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― 新着の感想 ―
[一言] 難題難題また難題ですが、婚姻となると適当にやりすごすわけにもいきませんね・・・
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