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第八話 ゴブリンの脅威

 村に届くはずの食料が届かなかった。何かの事情で遅れているのか?

 厳しい表情をしたロシェがやってくる。


「軍の伝令の話だ。ここに来る途中、襲われた馬車の痕跡を発見した」

「野盗が再結集しているのですか」


 だとしたらまずい。仕返しにここが狙われかねない。

 ロシェは首を横に振った。

「違う。伝令の話ではゴブリンの仕業との見解だ」


 ゴブリン、身長は人間より低く、体格もよくない。

 オーガやトロルと比べると危険度は低い。


 だが、ゴブリンは徒党を組む種族である。

 少数なら畑を荒らして家畜を盗む程度。


 されど、数が集まると村を滅ぼす。

 ゴブリンか、ここは屯所があって二百名も兵隊がいる。襲われる心配はない。


 近隣の村は不安だろうな。

「ロシェ閣下、なんとかなりませんか?」


「ゴブリンなぞ、我らが出ればひとひねりだ。だが、総督は今回のゴブリン退治を新兵訓練に使うと決めた。我らは手出しできぬ」


 総督の決定なら従うしかないか。でも、相手がゴブリンなら新兵でもどうにかなるだろう。

 初級冒険者でも退治できるくらいだからな。


 ユウトは襲われた商人は気の毒だと同情したが、政府からの討伐隊を待つ。

 数日後、書き物をしていると、ハルヒが慌てた顔で飛び込んできた。


「大変です庄屋様。村の外れに怪我をした兵が多数、きています」

 ゴブリン退治で怪我人を出したか。新兵さんには難しかったかな。

「村のために戦ってくれたんだ。村に入れて温かく迎えてあげよう」


 ハルヒは困惑した顔で意見した。

「いいんですか? 二百人近くいますよ」


 びっくりした。

「そんなにいるの? 精々五人とか十人だと思ったよ」


 ハルヒに案内してもらって村の外に行くと敗残兵の集団がいた。

 ちょうどロシェが騎士から事情を聞いているところだった。


 指揮官と思わしき若い女性の騎士は泣いていた。

「申し訳ありません閣下。ゴブリン相手に負け、兵の半分以上を失いました」


 半分も死んだ? ということは、兵士が四百人はいたのか? 

 新兵といったって軍人さんだよ。それが敗走ってゴブリン何体いるわけ?


 ロシェが苦い顔で訊く。

「指揮官のゾロフ大尉と副指揮官のミネダ中尉はどこだ?」

「死にました」


「では、トン曹長とハバネ軍曹は?」

「死にました」


 この若い女性騎士が現在は一番階級が高いのか。

 ロシェはいままで見たことがないほど苦い顔をしていた。


 ロシェがユウトに気が付いた。

「庄屋殿、負傷兵を屋根のある場所で休ませたい。ご協力をお願いできますか」

「わかりました。すぐに手配しましょう」


 村人と世話人にお願いして負傷兵の収容に当たった。

 ユウトの家でも五人の面倒を見る。客人の中にはロシェと話していた女性騎士もいた。


 女性騎士はやつれきり、怯えていた。女性騎士の名前はエリザと名乗った。

 ゴブリンって冒険譚の中でしか聞かなかったけどそんなに怖いのか。


 落ち着いてきたところで薬湯を薦めて話を聞く。

「ゴブリンはどれほどいたのですか?」

「数は二十か三十です」


 耳を疑った。なに、兵隊さんは十倍以上いて負けたの?

 ゴブリンってそんなに強いの?


 ユウトは事前の情報が間違っているのかと疑った。

 相手はゴブリンではないのか。

「敵の中にトロルやオーガがいたのですか」


 エリザは小刻みに首を横に振る。

「ゴブリンだけです」


 失礼だと思ったが、正直な感想を口にした。

「本当ですか?」

「やつら、どこにでも潜んでいて、いつでも襲って来るんです」


 エリザの目が恐怖に揺れる。

「奴らほど恐ろしい魔物はいない。奴らは毒を使い罠も使う。おそろしく頭が良いんです」


 なんか、思っていたのと違うな。本当に相手はゴブリンなのか?

 エリザは本当に怖がっていた。

「やつらはきっとやってくる。そうしたら皆、殺されるんだ」


 これは話にならんな。

「今日はゆっくりお休みなさい」


 エリザを休ませて眠る。

 深夜に村の外が騒がしくなった。敵襲を知らせる銅鑼が響いた。


 まさか、エリザの予告が当たったのか。

 逃げるか? いや大丈夫だ。こっちは無傷の精鋭二百がいる。


 ここは安全だ。ユウトが不安を振り切ろうとする。

「うわー、ゴブリンだ。ゴブリンが来た」


 預かっていた兵士たちが、狂乱状態になって泣き叫ぶ。

「ちょっと落ち着いて」


 兵士はユウトを突き飛ばして外に出て行った。

 エリザに場を納めてもらおうとエリザの部屋に行く。


 エリザは布団をかぶり丸まってガタガタと震えていた。

「使い物にならない。ダメだ」


 村の中に出て行くと、兵士が右往左往していた。

「落ち着いてください」


 叫んでも兵士たちの足音に声がかき消され無駄だった。

 やがて兵士たちの足音は消え、銅鑼が止まった。


 どきどきしながら家に戻る。

 しばらくすると伝令の兵がやってくる。


「ゴブリンの襲撃を撃退しました」

 ほっとした。

「ご苦労様」


 エリザの部屋に行ってそっと声を掛ける。

「襲撃は撃退しました。安心して寝てください」


 ユウトは眠った。朝起きて外に出る。

 ハルヒが客間のシーツを洗って干していた。


「どうしたの?」と訊く。

 ハルヒが曇った顔で「ちょっと」とだけ返してきた。


 ゴブリンって訓練を受けた兵隊さんがおしっこ漏らすほどに怖いのか。

 これ……まずいね。

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