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第七十一話 養育費と対外経費

 鶏の価格上昇に注意をしていると、気になる噂話を聞いた。鶏が産む卵の量が少なくなっている。また、近隣の村では子ヤギや仔馬も出生数が減っているとの話だ。


 統計を取っていないが、気になった。時間のある時に、街にある家畜市場に行く。

 街は人で賑わっているが、家畜商の一角は人が少なく感じた。


 商売の邪魔にならないようにと混雑時は避けたが。それでも少ない気がする。

 顔を知った家畜商の女将に尋ねる。

「家畜が仔を産まなくなったって本当ですか?」


 女将の表情は、ちょっぴり困っていた。。

「全く産まなくなったわけじゃないですけどね。減ってはいますよ。減っているといっても街の隣村だけですね。今じゃあ遠方からの売り手が来るようになりましたね」


 道は整備されてきている。街道も女性の一人旅でなければ安全だ。

 高く売れるなら、少し遠くから家畜商や馬商人が来てくれるのか。


 ありがたいことではある。

「商売への影響はどうですか?」


 女将は不満を口にする。

「そりゃ、料理人や肉屋からの視線が痛いですよ。でも、こっちも仕入れ価格が上がっているので値上げしないと、やっていけません」


 高値で止まるならいい。家畜は生き物。供給が安定しない状況も、ままある。

 ユウトは次に産婆を尋ねた。

「何か苦労していませんか? 子供は街の宝ですからね」


 産婆はにこにこして答える。

「この街は、綺麗な水やお湯が潤沢に使えるのがいいです。街の温泉の産湯に浸かった子供は、それは元気ですよ」


「子供の数が減っているとか――は、ないですか?」

産婆は、わははと笑った。


「男も女も、みんなやることをやってますからね。こちとらは忙しいくらいですよ」

 人間には影響していないのか。だとすると、俺の杞憂だろうか。


 原因不明の悪い影響があるのなら人間の赤ん坊にも影響が出そうなもの。

 だが、現状、影響はなし。夏の暑さのせいで家畜が減っただけならいいんだけどね。


 産婆の家からの帰りに軽い揺れを感じた。地震だった。

 街の建造物は木造が多い。石造りの建物より揺れには強いので、この程度では被害はない。


 街には遠くから訪れる人間も増えた。地震のない地方出身の人間からすれば、少しの揺れでも驚く。前は街の人間も驚く側だったが、今では慣れていた。


 屋敷に帰るとサイメイが待っていた。サイメイは明るく頼む。

「庄屋様、下水道を作りましょう」


 提案は理解できる。村から街に発展して住環境は悪化している。騒音や臭いに対する不満は、ユウトの耳にも聞こえていた。下水道ができれば住人は喜ぶ。


 だが、地下を掘る下水道は金が掛かる。いつ襲われるかわからない村では、金が尽きるとまずい事態になる。なので、先延ばしにしたかった。

「今は財政に余裕がないので、後にしましょう」


 サイメイはユウトの拒絶を跳ねのけた。

「ダメです。街が大きくなればなるほど下水道の整備は難しくなります。やるなら今です」


 理屈は、わかる。されど、下水道が完成して下水道料金を徴収しても額は知れる。下水道は、金を産まない。


 ユウトがうんと返事をしなくてもサイメイは計画を続ける。

「最初から全てを上手くやろうとしなくてもいいんです。計算では、公費で大きな下水道を五本掘るだけで、街の衛生状態はずっと改善します」


 サイメイがテーブルに図面を拡げた。見易く、わかりやすい図面だった。五本の町営の本管を作り、必要な市民が私費で、細い枝管を連結する。これで下水道復旧率は二十%を超える。


 図面は良いが、お金が気になる。工事費を見ると良い金額が記載されていた。

 小規模な傭兵団二つを一年は雇える金額だ。街の余剰金では足りない。ただ、銀の採掘量をもっと増やせば達成できる金額だった。


 金欲しさに鉱山労働者を酷使するなんて、ますます悪徳庄屋になる。それに、異種族のコボルドが反乱を起こせば大問題になる。領主も軍も黙っていない。


 鋳造している銀貨の銀含有比率をこっそり落とす手もある。そうすれば少ない銀で多くの銀貨を鋳造できる。やりたいが、やってはダメな政策だ。


 悪貨を量産すれば、街の経済を緩慢に殺す愚策となる危険性が大だった。

 やりたい事業は多いが、放漫財政に舵を切りたくはない。

「考えておく」と渋るサイメイを帰すと、コジロウがやって来る。


 コジロウもまた困っていた。

「庄屋様、竜の餌代を増やしてください。今年の暑さで氷竜は食が細くなっており、成長が遅れています」


 今まで餌代の値上げがなかった理由は夏バテか。これから氷竜には嬉しい冬だ。元気になれば餌が増えるのか。素人でも納得の理屈だ。


 龍の所有者たる皇帝のお孫様は気紛れ。いつ遊びに来るかわからない。ふらりと寄ったら、氷竜がげっそりしていた。そんな状況を見られたら、お咎めを受ける。


 悪くすれば「街から氷竜の餌代を出しておいて着服した」と、あらぬ噂が立つ。

「どれくらい値上げですか?」

「できれば、三倍で」


 噴き出しそうになった。成長期の竜はそんなに喰うのか。大きくなってほしいけど、食費が大変だぞ。これ、大人になったら、どれだけ喰うんだ。


 コジロウが真摯に頼んだ。

「竜は今が一番食べて成長する時季なのです。今を逃せば骨が丈夫にならず、強くなれません」


 竜の親って大変だな。竜があんなに大きい理由がわかった気がする。体が小さいと、子竜が大きくなるに連れ、子育てで親は痩せて行くからだな。


 金があるなら街の住人の暮らしを良くしたい。されど、竜の育成は外交経費と防衛費を兼ねている。こちらも切れない。


 これは金策を考えないとダメかな。庄屋といえば聞こえはいい。だが、実態は金の苦労が続く中小企業の社長と変わりない。

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