第六十八話 戦略物資その名は肉
サイメイを街の役人として採用した。学ぶことも多いだろうとリシュールの下につけておく。
一週間ほどして、ハルヒからの雑談でサイメイの話になった。
「サイメイさんはとても重宝しているとリシュールさんが喜んでいました」
天下の名宰相から褒められるとは、さすがはカクメイさんのお孫さんだ。
サイメイのサポートは不要なのでリシュールに任せておく。
秋は終わりに近づいてきた。今年は気温が高いので、まだ暖かい。
マオ帝国軍の進撃は順調で山の奥へと侵攻していた。
ここからが問題だ。侵攻が順調なら補給線は延びていく。厳しい冬も来る。
冬に戦線が維持できるかどうかで、戦いの成否が、はっきりする。
近隣の村の収穫は、あらかた終わった。マオ帝国の南部では米は大豊作だった。小麦も前年より収穫があった。だが、ユウトが管理している近隣四村では、食害や戦争の小競り合いで、小麦は不良。穀物価格は、全体的な豊作により値下がりしている。
エリナの村だけは被害を逃れたが小麦は豊作はといかない。救いは中央にある街の経済が順調な状況だった。観光客は減ったが、思いの他に減少幅が少ない。
検討の結果、街が他の四村を支えることができる見通しとなった。厳密には街と村の会計は独立している。だが、庄屋が全て同じなので、やりようはあった。本来は有り得ない貸付処理を使い、実質マイナス金利で街が村を支える形を採用した。
帳簿を見ると見えてくる。密貿易が止まったのは、やはり痛かった。ただ、銀山と造幣局による収入が想定以上に大きかった。嬉しい誤算だ。戦時下なので貯えがないと不安だった。余剰金を確保するために、街が所有する不動産を民間に払い下げる。
とりあえず、余剰金を確保したので、今期は乗り切れる。
だが、安心はできない。人が増えてくるので、水とゴミの問題で頭を痛める。既にリシュールから指摘があった。別の水源地から水道をもう一本、引きたいが、工事は金が掛かる。
「水もタダではないし、金は、いくらあっても足りないなあ」
気晴らしに評判の良いレストランに食事に出かける。利用するレストランの客層は軍人が多い店だった。これより先の戦地に赴く前に、兵士が部隊長のおごりで美味しい料理を食べる。
なにせ、ここより先に美味い飯はなく、戦闘も激化する。
運悪く席が満席だったが、ユウトを呼ぶ五人の集団がいた。集団の中には、キリクがいた。
「庄屋殿、こちらとの相席で良かったら一緒にどうですか?」
店を新たに探すのも面倒だったので、お言葉に甘える。
「これは有難い。御一緒させてください」
キリクとは親睦を深めておきたい。
「ほんのお礼ですよ」
ちょっぴり良い赤ワインをボトルで注文して皆で飲んだ。
世間話があるていど進むと、キリクが少々困った顔で愚痴をこぼした。
「庄屋殿、この付近で、肉を安く調達できる場所はありませんか。上等な肉でなくても良い。臭い獣の肉でもいいし、廃鶏でも良いんです」
ピンと来た。グリフォンの餌代に困っているのか。
「グリフォンは肉食ですか?」
「グリフォンは雑食に近いですが、肉を喜ぶ。特に馬肉が好きですね」
戦争で物資の運搬は増えており、馬は重要な輸送手段になっている。食べるなんてもったいなくて、できない。ユウトは危機感を持った。
飢えたグリフォンが馬を襲い出したら、物流が大混乱する。他の隊とも、いざこざを起こす。飼いならしたとはいえグリフォンは魔獣。餌がなくなれば制御が効くか不安だった。
山の民にはドラゴン・ティーマーが率いるドラゴン・ライダー部隊がいる。
街では対龍抗槍が制作可能だが、全ての村には配備できない。対抗するには機動力があるキリクたちのグリフォン騎士団の協力がないと、いいように荒らされる。
肉は戦略物資だな。人間は高ければ穀類でいい。魔獣に近いグリフォンに「芋でも食っていろ」とは命令できない。コジロウからの支援要請はいまだない。
とはいえ、竜舎の氷竜も成長中なので肉は必要。竜が暴れたら問題だし、皇帝のお孫さまの乗騎なので、怪我もさせられない。氷竜が暴れれば制圧は困難かもしれない。
食害を出すほど増えていた鹿も今はニュースにならない。大半が猟師に捕まって消費されている。前に山でアース・ワームの異常繁殖の話があった。アース・ワーム狩りをして肉を確保するか。
「グリフォンはアース・ワームを食べますか?」
キリクは考え込む。
「私たちの故郷にアース・ワームは、いませんからね。似たような魔獣もいない」
テーブルを囲む兵士が意見する。
「グリフォンは腐肉の臓物を食べても腹を壊しません。喰えるとは、思いますよ。ただ、味を好むかは、わかりません。飼われたグリフォンには偏食な奴もいますからね」
グリフォンの話になると、兵士たちは「ああだ、こうだ」と持論を語る。
キリクたちにとってグリフォンは騎士が馬に想い入れる以上の感情があるんだな。
食事が終わってキリクたちとレストランを出る。キリクの部下たちは飲み足りないので酒場に足を延ばす。
キリクはもう充分だったので、ユウトと一緒に帰ることにした。
気持ちの良い夜なので人通りはまばらにあった。街になってから街灯も整備していたので、足元が危険でもない。満月がくっきり見えた。
酔いもあって気分が良かった。キリクがいきなりユウトを突き飛ばした。
何事かと思うと、ユウトがいた場所を男が突っ切る。
キリクは躊躇いなく剣を抜くと、男を斬った。血飛沫が飛ぶ。
「何をするんですか、キリクさん? 街中ですよ」
キリクが怖い顔で命令する。
「庄屋殿、私の後ろに隠れて」
キリクの視線の先には剣を抜いた四人がいた。
強盗ではない。これは暗殺だ。目的がキリクなのかユウトなのかは不明。
キリク一人なら切り抜けられる。だが、ユウトを庇ってとなると怪しい。
どちらかが怪我をする危険性はあった。
敵の手にした剣は月明かりに怪しく光っている。毒が塗られている可能性があった。




