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第五十四話 予兆

2025.7.13 読者さんの指摘によりカトウの奥さんは百十二話まで生存していることがわかりました。

なので、五十四話を修正してカトウの奥様が「亡くなった」ことが「なかったこと」として修正しました。

 夏の盛りに向けて暑くなる。

 庄屋の仕事は接待だけではない。村人の暮らしにも目を配らねばならない。


 お年寄りの世話人から報告が上がった。

「アイザックさんが亡くなりました」


 高齢のお年寄りを預かる村なので、葬儀は珍しくない。

「村の宝が、また消えたな。花を贈っておいてください」


 アメイがやってくる。表情は芳しくない。

「コボルド族が鉱山の開発を引き受けてくれました」


 簡単にいったので、ほっとする。取り分も山で取れた銀の三割でいいので妥協できた。

 だが、良い話はそんなにないもの。


 ユウトが警戒していると、アメイは言葉を続ける。

「北部の山でアース・ワームが異常繁殖しています」


 アース・ワームは全長四mにも達する巨大な肉食のミミズである。

 鉱夫の天敵であり、発生すれば鉱山主は頭を痛める。


「コボルドはアース・ワームに追われて棲み処を放棄したのか」

 幸い開発中の銀山ではまだ発生が報告されていない。


 アメイの言葉が続く。

「山ではワイバーンとバジリスクも異常繁殖しております」


 これはまずいな。危険度が高い魔物だ。数体でも村は滅びる。

 ユウトが困っていると不吉な報告は続く。


「暴食龍も出ています」

 暴食龍は悪食で何でも喰らう大型の肉食の恐竜である。


 魔法にも耐性があり、毒にも強い。

「暴食龍の対応を誤れば村の一つや二つは消えるな」


 アメイの報告はこれでは終わらなかった。

「不確かですが嵐龍の目撃報告もあります」


 胃が痛くなりそうだった。

「一つでも対処を誤ると村が消えるのに四つですか」

「最悪、次々と魔物は襲って来ます」


 戦争を見越して兵士は集まってきている。

 軍が協力してくれればいい。だが、山の民がこの機に乗じる可能性もある。


 駐屯軍のロシェとはいい関係なので協力してくれる。

 されど、五百名の駐屯軍だけでは同時に複数の村が襲われた場合は守り切れるかどうか。

「難しい局面だな」


 アメイが帰ると、東の村から伝令があった。

「東の村の境界にオーガのキャンプ地を発見。その数、二百。いまだ増加中」


 山の民が橋頭堡を作ってきたか。秋にマオ帝国から仕掛けるつもりだった。

 開戦はもう少し早いのかもしれない。


 伝令が帰ると、ラジットが来る。

 茶を飲みながらラジットはしれっと伝える。


「この地で極東の国の諜報活動が活発化しておるぞ」

「何を仕掛けてくるんですか」


「わからん。だが、奴らは西の村に目を付けておる」

 極東の諜報機関の支部が東部地域のどこかにはある。


 だが、場所が特定できていない。

 後方で破壊工作をして山の民を支援してくる確率は高い。


 西の村は馬産地。馬を奪って盗賊を指揮。補給路を攪乱する策は有り得た。

 いままで大人しかったから、準備は済んだのかもしれないな。


 ラジットが帰るとこんどはママルが来た。

 ママルの顔は険しい。

「僧正様。ここ東部地域で邪教の教えを説く者がいます」


 宗教には寛容ではありたい。だが、マオ帝国が認めていないと布教はできない。

 俺が人徳派の僧正だから、邪教が勢力を伸ばせばママルは面白くないか。

「なにか対処をします」


 ママルが帰るとハルヒが来る。ハルヒは困っていた。

「入居希望者から入居までに時間がかかりすぎると苦情が来ています」


 村の良さは伝わっている。家を建てているが間に合わない。

 村の収支において介護事業の儲けは小さくなっている。


 不動産は値上がり傾向。

 介護事業から手を引いて不動産事業に切り替えたほうが儲けは出る。


 だが、介護事業から下手に手を引くと老婆・ロードの秘密が漏れる。

 人材不足にもなる。

「わかった、何とかする」


 ハルヒはさらに問題を定義する。

「村の子供たちに教育の機会を与えてください」


 若者が増えてきたので、子供も生まれる。

 村では個人の塾はある。だが、学校がない。


 教育問題か。ハルヒは故郷で充分な教育を受けられず苦労したんだろうな。

 ハルヒが帰るとウインがやってくる。今度は何だ。


 ウインの顔は明るい。

「キリンによるロード職の強化の研究が進んでおります」


 良い話か。一つくらい良い話がなくては困る。

「それで、どこまでいきました」

「ロード職の力を強める魔道具が作れるかもしれません」


「それは素晴らしい」

 ここまでは良かった。だが、話には続きがある。


「それで纏まった研究費をください」

 ウインが提示した額は良い金額だった。傭兵百人を六十日も雇える。


 気になったので確認する。

「効果のほどはどれほどで、いつ完成するんですか」

「作ってみないことには何とも」


 下手をすれば貴重な金をドブに捨てる。でも、研究成果はほしい。

「予算繰りを考えるので少し待ってください」


 ウインが帰ると、北の村の遣いがやって来る。

「畑で野兎が異常繁殖しています。作物への被害が甚大です」


 立て続けに南の村の遣いもやってくる。

「村でネズミが異常に増えています。小麦の育成に影響がでます」


 北の村と南の村は農業が主要産業。農作物は兵糧になるので黙ってはいられない。

 全員からの報告が終わると夜だった。


 酒場で食事を摂ると噂話が聞こえてくる。

 若い商人が深刻な顔で語る

「南西の村と北西の村では今年は鹿の食害が酷い。木の芽や皮がどんどんやられている」


 どちらも林業主体の村だな。影響が出なければいいが。

 老いた商人が語る。

「ここらは、まだいい。旧王都では疫病の兆しがあるそうだ」


 本当ならまずいな。戦争に向かう兵の半分は旧王都を経由してくる。

 疫病を村に運ばれたら大変だ。


 翌日、ヨアヒムとエリナから手紙が届く。

 山の民が密貿易を今回で最後にすると通達してきたとの内容だった。


 山の民もいよいよ決心を固めたか。

 密貿易が終わったので村の秘密の収入は途絶えた。


 戦争が始まれば観光客もぐっと少なくなる。

 銀山がまだ稼働していない。何かまた金策を考えなければならない。


 苦しい状況になったな。

 午後のお茶を飲んでいると震れを感じた。震れはすぐに収まった。


 冷泉が湧くので村の下に火山帯があってもおかしくはない。

 だが、このタイミングでの地震に嫌なものを感じた。

 まさか、ベヒーモスがやってくるとかない、よな。

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― 新着の感想 ―
当たり年を引いたシミュレーションゲーム見たいで笑ってしまったwww
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