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第四十一話 大出世

 残暑が厳しい昼にミラがやってくる。ミラの機嫌は良い。

「この度の英断と働き、総督と領主様はお喜びです」


 こういう褒め方ってなにか裏があるぞ。

 ユウトは用心しながら畏まる。


「もったいなきお言葉です」

「働きに見合った恩賞として、東の土地を与えます」


 恩賞の名を借りた、問題の押し付けだな。

 東の村は滅んだ地。砦の建設にも失敗した係争地だ。タダでもらっても嬉しくない。


「私はこの村の庄屋です」

「知っています。東に村ができたのなら東の村の庄屋の地位もユウトのものです」


 開拓事業をやれって話か、きついな。

 断りたい。けれども、下手に恩賞を断っては、面子を潰すことにもなる。


 相手が領主と総督なら拒否しづらかった。

 ミラは一晩、庄屋の家に泊まる。ミラは酒場に夕食を食べに出掛けた。


 狙ったようなタイミングでカフィアが訪問してきた。

 カフィアは改まった顔でお願いしてきた。


「東の村の土地を恩賞にもらう話がきただろう」

 まだ誰にも相談していないのに情報が漏れたのか。


「どこでそれを?」

「美味い話は素早く出回るものだ」


 不思議に思っているとカフィアが頭を下げた。

「話を受けてくれ。それで、我らを土地を守護する騎士に推薦してくれ」


 カフィアは東の土地を狙っていたのか。

「もしかして、カフィアさんは傭兵の前は貴族身ですか?」

「そうだ、旧王国の貴族だ」


 戦争に負け没落。新たな雇用主としてマオ帝国を仰ぎ傭兵として戦った。

 だが、貴族どころか騎士にもなれなかった。


 いつかは返り咲きたいと思っていたところ、俺の恩賞の話を聞いたというわけだ。

「いいんですか? 東の土地は係争地ですよ」


 カフィアは苦い顔で告げる

「わかっている。だが、いくら傭兵として戦っていても領地は回ってこない」


 まともな土地は厳しいから、いわくつきの土地でも欲しいか。

 村の東を固めておかないと、山からの脅威からお年寄りを守れない。


 カフィアたちのような戦える人間が壁役になってもらえれば、こちらとしてもありがたい。

「わかりました。では、庄屋は俺で騎士はカフィアさんでいきましょう」


 ユウトの言葉に希望が叶いカフィアは安堵していた。

 カフィアと入れ違いでミラが帰ってきた。


「恩賞を受け取ります。でも、俺は庄屋でいたいです」

「どういうことかしら?」


「村にいる傭兵団のカフィア団長を騎士として推薦するので、東の村を与えてください」

「いいでしょう。これで戦える二百名の村人が確保できたも同然ですね」


 すんなりいったな。

「ですが、条件があります。庄屋としてカフィアを見張りなさい」


 傭兵には信用が置けないか。二村での庄屋業なら問題なく行える。

「承知しました」


 翌日、ミラはお供の者と一緒に帰った。

 カフィアを呼び、決定を告げる。

「村を治める騎士として推薦しておきました。叙任されますよ」


 滅多に笑顔を見せないカフィアが笑った。

「よかった。これで領地を持てる」


 よほど貴族に返り咲きたかったんだな。

 カフィアが言いづらそうに頼む。


「それでだが、頼みがある。金と食料を貸してくれ」

 貧乏傭兵団に蓄えはない。ゼロから村を作るには金が必要不可欠。


 とはいえ武具や馬を売って金を作れば戦えなくなる。

 仮に貸したとしても、場所が場所だけに貸しても回収できるかどうかわからない。


 商人なら絶対に貸さないだろう。だがまあ、俺が庄屋なわけだし、どうにかするか。

「おいくらですか?」


 利子を考えてか、控えめな金額と食糧を要求してきた。

「いいでしょう。それくらいなら差し上げましょう」


 カフィアの顔が輝いた。

「貸す、ではなく、くれるのか?」

「でも一回きりですからね」


 何度も要求されては困るので釘をさした。だが、カフィアは舞い上がった。

 傭兵団は開拓に必要なものを揃えると、すぐに村を出た。


 カフィアを見送った後に、ヨアヒムが来る。見るからに困っていた。

「義理弟よ。困ったことになった。うちの庄屋が横領を働いた」


 欲に目がくらんで道を誤ったか。横領した庄屋は死罪だな。

「残念なことになりましたね」

「うちには前庄屋以外に会計に明るい人間がいない」


 帳簿に詳しい人間は自分だけ、と高をくくって横領に走ったか。

「でしたら、街から人を雇ってはどうでしょう」


 ヨアヒムは渋い顔で首を横に振った。

「ダメだ、頭の良い人間は辺鄙で危険な場所で働こうとはしない」


「ではどうするんです?」

「俺の村の庄屋もやってくれ」


 やってみてわかったが、庄屋業とはなかなか大変である。

 だが、義理兄なので断るのもどうかと思った。


「わかりました。では義理兄さんの村の面倒もみましょう」

「恩にきる」とヨアヒムは感謝して帰った。


 ヨアヒムを見送ると、エリナがくる。

 エリナも困った顔をしていた。


「うちの村の庄屋が高齢で亡くなったわ」

 なんか嫌な予感がした。


「それはお気の毒に」

「それで跡目争いが起きたのよ」


 庄屋は役料が払われる。恩恵もあるので理解できる話だった。

「大変ですね」


 エリナはげんなりする。

「だけど、後継者候補が揃いも揃って呆れるほど無能なのよ」


 後継者不足か。この一帯は識字率が低いからな。

 エリナは上目遣いに頼んだ。


「役料を弾むから、庄屋業をお願いしていい?」

 エリナとはかつて知ったる仲だ。だが、これで請け負えば実質四村を仕切る大庄屋だ。


 いきなり業務量が増えるぞ。

 でもなあ、無能庄屋が密貿易に絡んでヘマをすると、全てがパーになる。


「わかりました。兼任で庄屋をやりましょう」

 エリナは素直に喜んだ。

「ありがとう助かるわ」


 一気に大庄屋になった。だが、流れはこれで終わりではなかった。

 北の村の庄屋が訪ねてくる。北の村の庄屋は泣きそうな顔をしていた。

「村を助けてください。このまま領主様に税を払えば、村で一揆が起きます」


 本当に問題ばかり起きる村だな。だが、ここは忍耐だ。

「税の減免を願い出てはどうでしょう」


 北の庄屋は悲し気に首を横に振った。

「ダメでした。ミラ様は認めない、と。必ず税を納めろとの厳命です」


 苦しいのはわかる。けど、ほいほいタダでお金をあげるわけにはいかない。

「残念ですが、村のお金をあげるわけにはいきません」


「もちろんタダで救ってくれとは言いません。私の庄屋の地位を差し上げます」

「庄屋の地位の譲渡はまずいでしょう」


「でも、もう私には渡せるものがないのです」

 北の村はいちど滅んで、入植した。


 けれど、すぐにエリナが移動になって立ち上げに失敗したのか。

 サポートが薄かったのかもしれん。


 いままでの傾向を見ても、災いは北からくる。

 ここも助けたほうがいいのか。

「わかりました。庄屋の地位を買いましょう」


 退職金代わりに提示した額に、北の村の庄屋は驚いた。

「そんなにもらえるんですか?」

「村のナンバー二の年寄の地位も約束しますよ」


「ありがたい」と北の村の庄屋は涙を流して帰った。

 これで終わったと思ったが違った。


 次に南の庄屋がやってくる。南の庄屋もほとほと困っていた。

「北の村の庄屋から聞きました。私の庄屋の地位も買ってください」


「どうしたんです」

「うちの村は、小麦の穂に実がほとんど入らなかったのです」


 小麦の値下がりに凶作が重なれば農村は立ち行かない。

「でも、村の貯えがあるでしょう」


 南の庄屋は暗い顔で首を横に振った。

「領主様の築城計画でほとんど持っていかれました」


 あったね、そんな事業。俺は乗り切ったけど、南の村はダメだったかの。

 南の庄屋は泣きそうな顔で頭を下げた。

「村を助けてください。お願いします」


 なんかなあ、いっぺんに重責がのしかかって来たぞ。

 断る判断もあった。


 だが、南の村はユウトの村が反乱軍に包囲された時に一番先に寝返ってくれた。

 そのおかげで包囲網を崩すことができたのも事実だ。


 ユウトは悩んだが、結局南の村の庄屋の地位も買った。

 密貿易で貯め込んだ裏金はすっかりなくなった。


 村の余剰金もごっそりと減った。

 だが、ユウトは一気に六村に影響力を持つ大庄屋になった。

第一部はここで終わりです。面白かったと思うなら、評価をお願いします。まだ判断ができない方は次の第二部を読んでからでもいいです。

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