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第三十四話 老婆ロード 対 エレメンタル・サマナー

 カクメイは目をしょぼしょぼさせて語る。

「こんなこともあろうかと、大浴場を改修したときに仕掛けをしておいた」


「どんな仕掛けです?」

「第一浴場と第二浴場の緊急放水栓を抜け。村が水浸しになる」


 水を地面に吸わせて地層を重くする。だが、どれほど効果があるのか。

 アイザックがポケットからメモと鉛筆を出して計算する。


「大浴場は使えなくなる。じゃが計算上、村は吹き飛ばずにすむはずじゃ」

「緊急回避できるんですね」


「これは急場の策だ。敵がこちらの対処法に気付けば火力を上げてくるぞ」

「明日中に敵を始末しないと危険か」


 村は発展した。おかげで、以前より人の出入りが多い。

 日帰りの湯治客や商人がたくさんやってくる。


 その中から確認にきたエレメンタル・サマナーをどうやって見つける。

 カクメイはもう一度あくびをした。


「カトウがおるじゃろう。奴が始末する」

「無理ですよ。仕事はもうしないと釘を刺されています」


「これも読んでいた」

「というと?」


「アメイをカトウと接触させるに当たり、私も依頼を出しておいたのじゃ」

 カトウは二件の依頼を受けていた。


 なるほど、金は要らないとカトウは以前に断ったのはそういうことか。

 もう一件仕事が入っていたから金は足りていた。


「俺の仕事はついでだったんですか」

「そうとも言える。わかったら、さっさと放水栓を開けてきなされ」


 湯釜番を無理やり起こした。

 緊急放水栓を抜くと、水が大浴場の外に流れ出した。


 湯釜番の男はびっくりした。

「なにをなさるんですか庄屋様。大浴場が使えなくなります」

「いいか、お前は寝てたことにするんだ。湯はどんどん外に流し続けろ」


 湯殿番は驚いた。

「朝になったらばれますよ」

「朝になったら栓が抜けていてお湯が貯まっていないから休業だと謝れ。栓は隠せ」


「そんなの、利用者が怒りますよ」

「いいから、黙ってやるんだ。これは極秘の庄屋命令だ」


「庄屋様の命令ならやりますが、俺が怒られるんだろうな」

 第二浴場の緊急放水栓を抜いた。同じように湯釜番を言い包める。


 次の日、朝起きるとハルヒが困った顔で飛んでくる。

「大変です庄屋様。誰かが大浴場の栓を抜いて持ち去りました」


 すっとぼけて対応する。

「参ったな。子供の悪戯か」


「でも、これでは大事なお風呂が使えません」

「今日一日、我慢してもらおう。栓は俺が職人に発注しておく」


 ハルヒはぷんすか怒っていた。

「悪戯でも、これは許せませんよ」

「ここは俺に任せてくれ」


 ハルヒは怒っていたが、ユウトに従った。

 御免ね。でも、村を守るためなんだよ。


 村は一日中混乱した。ユウトは黙って待った。

 夕方になると澄ました顔のアメイがやってくる。


「カクメイ様より伝言です。風呂に入りたいから、明日は大浴場を開けてください」

 カトウが仕留めたか。一時は心配したがどうにかなった。


「エレメンタル・サマナーはどんな人ですか」

「妖精族の男でした」


 極東の国には妖精族が多く住む。

 近隣のどこかの村に極東の諜報機関のアジトがあるな。


 いったいどこにあるんだ。

 気にはなるが考えてもわからない。


 第一浴場の湯釜番に会いに行くと困った顔をして話しかけて来た。

「庄屋様、明日はどうするんです」


 財布から金貨を取り出し湯釜番に握らせる。

「栓を戻してくれ、明日からは通常通りの営業だ」


 湯釜番は安堵した。

「皆にお風呂を楽しんでもらえてなによりです」


 第二浴場の湯釜番にも金貨を渡して労う。

「ご苦労だったね。全ては上手くいった。明日からは通常営業です」

「わかりました。庄屋様の言葉を聞けて助かりました」


 第二浴場からの帰りだった。村の酒場から出てきたカトウ夫妻を見つける。

「こんばんは」と挨拶を軽く交わす。


 カトウからは血の匂いも殺気もしない。

 本当に伝説の殺し屋なのかと疑う。


 だが、どうでも良かった。今のカトウは守るべき村人だ。

 翌々日の昼に、不安に顔を曇らせたハルヒが来る。


「村の郊外で死体が発見されました」

「獣に襲われたか、運がない」


「違います。刺殺されたんです。剣で一突きで殺されたようです」

 そういや、カトウは杖を持っていたな。仕込み杖が武器か。


 とぼけておく。

「野盗が出るのか、物騒だな」

「検死した兵隊さんの話では、凶器は鋭く尖った細い剣です」


「野盗が使う武器にしては妙だな」

「暗殺者用の武器だそうです」


「仲間割れからの殺し合いかな、なら村に危険は及ばない」

「本当にそうでしょうか、なにか悪い事件が起きる気がします」


 事件はもう終わったんだけどね。

「わからんことをあれこれ考えてもしかたない。あとは軍に任せよう」


 ハルヒは不安な顔のまま部屋を後にした。

 暗殺計画は上手くいった。村の危機は去り、密貿易の障害も排除された。


 これで村はしばらく安泰だ。戦力を補強しよう。

 ユウトは領主に手紙を書いた。


 この村を帝国一老人に優しい村にしたい。

 お年寄りが住む家と役料を用意する。帝国に貢献した功労者に住んでもらいたい。


 ユウトの手紙は領主を動かし、総督に献策された。

 総督は領主を褒めて、三人の国家功労者を預けると快諾してくれた。

 ここまで聞けば美談。だが、そんな美談を信じるほどユウトは楽天的ではない。


 政府の実情を知るアメイに訊く。

「一人目、ダナム中将ってどんな人」

「ロシェ閣下の後輩に当たる武人です。一騎打ちではロシェ閣下より強いでしょう」


 それは素晴らしい。武人枠がロシェだけでは不安だった。

 戦力補強としては申し分ない。


「欠点とかないの?」

 アメイは冷たく評価した。

「短気です。歳を取ってから、ますます気が短くなりました」


 熱くなり易い性格か。智謀で討ち取られるタイプだな、気をつけないと。

「それぐらいならいいか」

「酒好きですよ。噂では、することがないので日中から飲んでいます。あと荒くれ者です」


 短気で、アル中で、乱暴者か、困った人だな。

 でもなあ、完璧な人は村にこないからな。

 採用でいいか。


「二人目の賢者ラジットさんはどんな人?」

 アメイが嫌悪感を込めて発言した。

「皇太子の家庭教師でした。温厚な紳士で博識な魔術師でした」


「でした、か。いま違うんですね。どんな人?」

「エロ爺です。宮廷では、ああはなりたくないと陰口を叩かれています」


 年取って分別がなくなったお爺ちゃんか、問題あるね。

 世話人には女性が多い。世話人と問題を起こすと、村では生きていけないんだよな。


「魔術の腕はどれくらい?」

「たいしたことないですよ。知識で賢者の称号を取った人ですから」


 知識人枠だな。頭の衰えは俺の能力で消える。

 女性関連で問題を起こさないか不安だが、採用だな。


「三人目のリシュールさんはどんな人」

「平民出身でありながら宰相に昇り詰めた政治家です」


 南方でも、家柄と血筋は重視されている。

 そこで宰相まで上り詰めるにはかなりの実力が必要だったはず。


 これは一番の大物か。

「凄いね。で、いまはどうなの?」

「大病を患ってからは、体が動かくなり、言葉も不自由になりました」


 病気持ちか、病気は老化と違うからな。老婆・ロードの能力では治せない。

 自然治癒力が若者並みになれば薬で治療できるかな。


 パメラさんの薬をもってしても難しい可能性もある。

 リシュールだけが不安だった。

 だが、ここでリシュールだけ入居を断るのは不自然だった。


 まあいいか、ここは総督に恩を売りつつ、領主様に華を持たせよう。

 ユウトは三人の国家功労者を村の相談役として招いた。

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