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第三十一話 密談

 会談の当日。マオ帝国側からミラを含む四人がやってくる。

 山の民はホークを含む四人。


 山の民の種族構成は、バード・マン、ダーク・エルフ、トロル、ゴブリンだった。

 会談場所は村の集会場だった。ロシェが中心となって警護を固めている。


 次の日に持ち越しても良いように、宿泊場所と食事の手配もした。

 会談の内容を庄屋が立ち聞きするわけにはいかない。


 だが、給仕の人間が部屋にいないと困る。

 ハルヒには給仕長を務めてもらい、内偵をお願いした。


 会談は昼の休憩を挟んで行われる。

 夕食の準備を始めようとしたとき、給仕長の格好をしたハルヒがやってくる。


「会談が終わりました」

 思っていたよりも早いな。決裂か。


 見送りに出ると、ゴブリンだけが見当たらない。

 使者が一人足りないことを不思議に思うと、ハルヒが教えてくれた。


「ゴブリンのルルブさんは、温泉に入りたいから一泊します」

 温泉なら、山の中にもありそうなものだが。ゴブリンの支配地域にないのかな。


「気持ちよく温泉に入って帰ってもらおう」

 夜になると、ルルブとミラがやってきた。


 ミラの髪が濡れているので風呂上りだということがわかった。

 ミラが機嫌よく告げる。

「一杯ごちそうになってもいいかしら」


 ルルブと温泉で親交を深めて、俺の家に寄ったのか。

 村の酒場じゃゴブリンは歓迎されないだろうから。俺の家でもてなそう。


 俺にとっては大事なお客さんだ

「どうぞ、簡単なツマミと酒を用意します」


 三人でテーブルを囲む。山羊のチーズ、サラミ、ナッツをツマミに出す。

 酒はワインではなく村で作っているビールを選んだ。


 ルルブは顔をほころばせビールをのみツマミを食べる。

「人間の料理は塩っ辛いが、酒と合う。ビールは山にはないが美味い」


 山では果実酒が一般的なんだろうな。

 ミラがにこにこして相槌を打つ。

「気に入っていただけて嬉しいですわ」


 ルルブはママルをちらりと見る。

「三人だけで話がしたい」


 危険はないと思ったのかママルが下がった。

 三人になると、ルルブが改まって語る。

「マオ帝国の方針はわかった。だが、山の民はマオ帝国に屈しない」


 当初の予定通りか。でも、なんでいまそれを言うんだ。

 ユウトが疑念に思っていると、ルルブはミラを見て言葉を続ける。

「だが、ミラの主である伯爵殿とは良いお付き合いをしたい」


 ミラも微笑み返す。

「我が主もゴブリン一族とは手を結びたいと考えています」


 山のゴブリンと領主は秘密裏に独自外交をする気か。

 気になったので確認しておく。

「領主様は帝国とは別の道を模索するのですか」


 ミラは怪しく微笑む。

「領主様は未来を見ておられるのよ。ここは力を蓄える時。無駄な争いをしてはいけないの」


 現皇帝のダンワット帝は四十歳。皇太子の他に五人の王子がいる。

 権力争いの噂は聞かない。

 表向きには仲が良くても、裏で何があるのかわからないのが権力者だからな。


 ルルブはにやりと笑う。

「我らは我らで仲良くやりましょう」


 チンと音を立て、二人は軽く乾杯する。

 ミラがユウトを優雅に見て命令する。


「そういうわけだから、庄屋殿もよしなにね」

 こういときに態度を曖昧にすると危険だ。嘘でも賛同しておこう。


「上手くいった暁には、私はなにがもらえるんですか?」

「貴族の地位、なんてどうかしら?」


 ヨアヒムを見ていて思ったが、貴族も大変だからな。

「私は筆頭庄屋です。だが、現実は名前だけ。名実ともに筆頭庄屋になりたい」


 ミラはユウトを笑う。

「欲のないこと。大庄屋くらい言えばいいものを」

「若いうちからでしゃばると反感を喰らうもの。じわじわ大庄屋を目指しますよ」


 ルルブが満足げに発言する。

「では、我ら三人の明るい未来に」

「乾杯」と三人で声を合わせる。


 翌日、ルルブとミラはご機嫌で帰った。

 情勢は段々と混沌としてきた。現状は静かな海に似ている。


 氷山がいくつも存在する海だ。舵を切り間違えたら容易に沈む。

 ミラが帰ってしばらくすると、ヨアヒムが部下を連れて遊びに来た。


 名目は湯治だった。ヨアヒムは騎士であり、叔父なので庄屋の家に泊まる。

 二人だけになった時にこっそり訊く。


「領主様が山のゴブリンと独自外交をしている話は知っていますか?」

 ヨアヒムは身を乗り出して密談に応じた。

「領主様はおおっぴらに認めていないが、麾下の貴族と山の民の取引を黙認している」


 山の民は人間を嫌っている。だが、強大な帝国が相手となると、情報も味方もほしい。

 帝国とは距離をおきつつ、領主は抱き込むか。硬軟織り交ぜた対応だ。


 ヨアヒムの態度を確認しておく。

「義理兄さんの村も取引をしているんですか?」

「帝国には内緒で、トロルと密貿易をしたいと考えている」


 ヨアヒムの村は山に近いから可能なのだろう。

「問題もある。俺の村には商品を仕入れても売り先がない。そこで、だ」


 目線を少し反らして、ヨアヒムは膝を手で撫でる。

 これは危険な話があるな。


 ヨアヒムはそっけなく頼んだ。

「俺の村で商品を仕入れる。お前の村で捌いてくれないか」


 ユウトの村はヨアヒムの村より規模が大きく、近隣十一村への道もある。

 商人もヨアヒムの村より多く来る。珍しい品なら高くても売れた。


「どんな取引をする予定ですか」

「皮に毛、それと薬草を仕入れる。こちらが売るのは鉄器だ」


 危険な香りがした。

「鉄はまずいでしょう。武器に転用できます」


 ヨアヒムは楽天的だった

「相手はモンスターだぞ。鍋や釜から武器は作れない」


 ヨアヒムは甘いな。きっと作れるぞ。

 鉄を山の民に渡している事実が総督に露見したら、間違いなく大問題だぞ。


 だが、鉄が欲しいからトロルが貿易する気になったのだろう。

 領主は黙認だ。ただ、ここのすぐ東には国軍がいる。駐屯軍もいる。


 国軍は欺くとして、ロシェが納得するかだな。

「少し返事を待ってください」


 ヨアヒムを帰すと、まずは知恵袋のカクメイに相談する。

「山の民との密貿易の話がきています。やりたいんですけど、どう思いますか」


 カクメイは澄ました顔でさらりと言う。

「庄屋殿がやりたいのなら、おやりなさい」

「山の民は鉄器を求めています。ロシェさんが知ったら怒りますかね」


「鉄を渡したら怒るでしょうね」

「なにかよい方法がないでしょうか」


 カクメイは冷静な顔で忠告する。

「全てにおいて良い顔をすると、結局は全てから嫌われますよ」


 ヨアヒムかロシェ、どっちかを選べって話か。

 ユウトが考え込むと、カクメイは優しく微笑む。


「なにが一番大事かが見えていれば、自ずと道は決まります」

 俺にとって大事なのはヨアヒムでもなければロシェでもない。

 一番は村だ。わかった、村のために密貿易に手を出そう。

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