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第二話 清潔な暮らし

 老婆・ロードの能力に関してわかった知識があった。

 老婆・ロードの能力があっても人間の寿命は伸ばせない。


 伸びるのは健康寿命だった。お年寄りは健康のまま生きる。

 寿命が来ると次の日に突然亡くなる。限りある命ある者の悲しさである。


 健康になっているから本来の寿命までは生きられる。だが、無理な延命はできない。

 能力が成長すれば可能かもしれないが、下手にお年寄りと冒険に出れば全滅があるからな。


 ハルヒがやってくる。ハルヒはお年寄りの生活を第一に考える。

 だから、経営者であるユウトには常に要求をしていた。


 ユウトにとってはうっとうしくもあった。

 だが、現場の声が気になったので、できるだけ聞いた。


 下の者があってこそ、上の者の安泰が生まれる。

 ハルヒに尋ねる。


「で、今度は何?」

「大浴場と洗濯場が欲しいです」


 なんかとんでもない要求が来たな。

 姥捨て村は水事情が良くない。井戸はあるが河川がない。


 生活用水が豊富ではなかった。

 どうにか洗濯はできていたが、お風呂の回数は少ない。


「大浴場は無理だよ。そんなお金どこにあるの?」

「そこは庄屋様の力でどうにかしてください」


 無茶ぶりだな。

「お願いです。お年寄りたちに清潔な暮らしをさせてください」


 村には時折地震が起こる。地震があるのなら、火山地帯の上に村がある可能性があった。

 温泉があれば燃料費がかからないから、ランニング・コストは安い。


 お金があればやってもいい。だが、村にはそんな金がない。

 老人を働かせるにも限度がある。


 大浴場か。温泉付きの老人ホームって高級なイメージだな。

 でも、ここの入居者は貧困層ではないが、金持ちでもないからな。


「やっぱり無理だよ。村の財政が破綻しかねない」

 ハルヒは引き下がった。いやに諦めが早いなと思った。


 翌日に一人の老人を連れてきた。

 立派な髭を生やした学者風の老人だった。

「どうも庄屋様。アイザックです。この村の下には冷泉があります」


 ユウトは疑うと、ハルヒが明るい顔ですぐに声を上げる。

「アイザックさんは火と水に優れた学者です」


 

 アイザックは笑う。

「元学者ですよ」


 アイザックは図面を拡げて説明を開始する。話はよく理解できなかった。

 だが、掘れば高確率で冷泉が出るとアイザックは主張していた。


「温泉ではないのですか?」

「この国では二十五度以下は温泉とは呼びません。おそらく、ぎりぎり二十五度には届きません」


 二十五度はお年寄りには冷たい。

「だとすると、沸かさねばなりませんね」

「太陽光を利用した魔法の湯沸かし器を導入すればよい」


 簡単に言ってくれる。きっと、高く付くぞ。

 ユウトの考えを読んだのか、アイザックが数字の並んだ紙を出す。


「ざっくりとした見積書です」

 金額を見てびっくりした。


 温泉の掘削費用、大浴場の建設費、湯沸かし器の設置。

 村で蓄えている金額がすっかりなくなる。

「この金額はない。とても村で負担できる額ではないぞ」


 ハルヒは滾々と頼んだ。

「お願いします、庄屋様。村人に温かい風呂をお与えください」


 アイザックもお願いした。

「私からも頼みます。老い先短い老人にせめてもの清潔な暮らしをお与えください」


 なんか、モンスターと戦う方が楽な話だな。

「わかったから、頭を上げて。動いてみるから」


 税金は上げられない。産業もない。冒険に出て稼ぐわけにもいかない。

 ユウトは実家に泣きついた。手紙を出して金を無心する。


 駄目な商家の三男坊だと思われてもこれしかなかった。

 返事は時間がかかると思ったが、すぐに来た。


 返事は父のアンドレではなく、長男のエンリコからだった。

 手紙の内容を要約する。金はやっても良い。だが、将来的には親の面倒を見てくれ。


 これ、兄さんは親の介護を俺に任せる気だな。

 親の面倒を見るならもう冒険には出られない。夢は確実に終わる。


 ユウトは迷った。だが、自分の天職は老婆・ロードである。

 無理に頑張るのを止めた。


 返事を送ると、すぐに人、物、金が送られてきた。

 村で工事が始まった。


 現場に行くとアイザックが活き活きと指揮を執っていた。


 ハルヒがそっと寄って来る。

「アイザックさん楽しそう」


「前は違ったの?」

「いつも塞ぎ込んでいて暗い空を見上げて、ぶつぶつと文句ばかり口にしていました」


「人は必要とされてこそ活きるのかもしれないね」

 老人たちも働いた。大工や人足の飯を作る。ゴミを片付ける等の仕事がある。


 ユウトはハルヒに命じた。

「働きたいお年寄りにはどんな小さな仕事でもいいので振って。あとわずかでもいいので給金を払って」


 掘削の結果、水が湧いた。温度は二十度と当初の予定より低かった。

 水を飲む。仄かな苦味を感じた。また、しゅわしゅわとした喉越しがあった。


 得意げにアイザックが知識を披露する。

「成分はマグネシウムを多く含む炭酸水です。鉱泉水です。ここら辺では珍しいですね。味はちょっと悪いですが、身体にはいいですよ」


 あれ、これって、商売になるかも。

 露天風呂式の大浴場が完成する。男湯と女湯に浴槽が二つ。


 一度に二十人は入れる立派なものだった。

 大浴場と洗濯場の完成に老人たちは喜んだ。


 ハルヒも笑顔で礼を言う。

「庄屋様ありがとうございます。庄屋様が来てから村の生活はぐっとよくなりました」


 褒められて悪い気はしない。

「喜んでくれると嬉しいよ」


 ユウトは出入りの商人に丈夫な瓶を注文する。瓶詰の鉱泉水を売りに出した。

 売れると思ったが、それほど売れなかった。


 原因は道が悪く、瓶詰めでの輸送が難しかったことだ。

 村が僻地にあるので知名度もない。結果、有名どころからシェアを奪えなかった。


 鉱泉水の質は良いと思うのだが、そう上手くはいかんか。

 だが、思ってもいない副次効果があった。炭酸水で煮込むと肉が柔らかくなった。

 結果、煮込み料理が村での定番となった。

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[良い点] 新作楽しみにしてました ダジャレのようなタイトルですけど 内容は面白い [一言] 楽しみにしてます!
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