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第百八十一回 学者の夢

 雪がほぼ融けた頃にチョモ爺が亡くなった。葬式にはユウトも参列した。街にきて三年くらいしかチョモ爺はいなかった。でも、葬儀には三十人以上が参列していた。無頼漢といった言葉が似あうチャドだが、この日ばかりはがっくりと気落ちしていた。


 なんと言葉を掛けていいかわからかないのでハルヒをこっそり呼ぶ。

「チョモ爺とチャドさんにお世話になった。遺品整理や身辺整理を手伝ってやってくれ」


 ユウトの言葉を聞いてハルヒがそっと教えてくれた。


「チョモ爺さんは死期を悟った時から身の回りを整理していました。あとはチャドさんの心の整理だけです。それとですが、チャドさんは街を出るかもしれません」


 チャドには街にいてほしいが無理強いはできない。発展する街の将来は外から見れば、バラ色。だが、流れによって街は死地と化す。


「チャドさんが街を去るなら教えてほしい。餞別の一つも渡したい」


 葬儀を後にするとユウトは鋼糸作成事業の準備をサイメイに命じる。サイメイの下には新規で登用したモルタを付けた。成功するかどうかわらかないが、考えながら走らないと街の経営はダメになる。


 雪がすっかり融けた春が訪れた。ウインが久々にユウトの前に姿を現した。


 ウインの顔は晴れていた。

「お喜びください、庄屋様。問題が一部解決しました」


 ユウトは成果を急がせてはいないが、ウインとしては心配だったとみえる。何も成果がなければ研究は打ち切られるのが世の常だ。庄屋が良い顔をしている間に何か成果を持っていきたかったのが丸わかりだ。


 得意げにウインが説明する。


「旗が機能を停止した理由がわかりました。旗の素材に問題がありました。旗の素材変更による費用増加はわずかですが、解決できます」


 ウインは学術的な理論を説明してくれたが、ほとんどユウトにはわからなかった。ただ、理解できた内容もあった。旗を二本同時に起動させるコストが二だとする。三本同時に起動させると、三では済まない。ロスが発生する。ロスは同時起動の本数が多くなるほど増える。


 キリンの旗を同時に多く起動させる方法は現在では三つ。一番目、ユウトの老婆・ロードの力を強化する。二番目、キリンの力を強化する。三番目、魔力発生塔を建設して旗に魔力を追加供給する。


 魔力発生塔についてユウトは聞いた覚えがなかった。どんなものかウインに尋ねる。

「魔力発生塔ってなんでしょうか? 旧王都にいた時も聞かなかった」


「旧王国では研究されていましたが、軍事機密でしたからな。大規模な魔法を使用するための建造物です。失われた古代帝国の遺物です」


 あればとても便利な物だが、現存しないのであれば何か理由がある。

「どうして旧王国は先の戦争で使わなかったのですか?」


「戦争で使用するとなると巨大な建造物になります。破壊された時の被害が大きい。出力が安定せず使いたい時に使えない。運用、保守、管理、保安維持ができないためです」


「ファンタジー世界によくある巨大魔導帝国が滅びる一因になる代物だな」とユウトは頭が痛くなった。


 現に山の中にあった古代帝国が滅んでいる。原因は魔力発生塔が引き金になっているかもしれない。ユウトは当然の指摘をした。


「説明を聞く限りでは魔力発生塔を作る案は不可能でしょう」


 部屋にはユウトとウインしかいない。でも、ウインは辺りに誰もいないかを確認する。それから、顔を近づけて小声で話す。


「それが可能なのです。山の中の戦争が進み山の民からの戦利品が市中に流れています。その中に魔力発生塔の建造に使える部品が多数あります」


 用途も価値もわかる者がいないので。ガラクタとして投げ売られている。いわばジャンク品だ。集めて修理すれば魔力発生塔は建造できる。キリンの旗に魔力を供給するだけならそう大きくもならない。


 困窮した時に限って危険な話が舞い込む。ユウトが困っていると、ウインが勧めてくる。

「どうでしょう? 我々で古代技術の復活をやりませんか?」


 いやにウインが推してくるのが気になる。

「知識欲ですか? 名誉欲ですか? なぜそんな危険なものに手を出したがるのか知りたい」


 ユウトの言葉にウインはガックリした。ユウトはウインが勘違いしないように尋ねる。

「金を出さないとは言いません。ですが、俺を騙そうとしているなら困る。街の利益にならないものに金は出せません」


 ウインは困った顔で吐露する。

「欲がないといえば嘘になります。現状では魔力発生塔の研究にお金を出してくれるところは庄屋様しかいません」


 金を有り余るほど持つ、新し物好きだと思われてはたまらない。

「俺だっておかしな研究には金を出しませんよ」


 上目遣いにウインは意見する。

「でも、庄屋様はパパラの肥料開発にお金を出したでしょう」


 政治に破れて本流から締め出された学者がいる。そんな傍流学者の認められない研究にお金を出す変わり者がいる。ユウトは街の学者連中から有名になっていると、認識した。


 説明とも愚痴ともとれるウインの言葉は続く。

「マオ帝国に持っていっても実用性なしとして、相手にされません。もし、認められても研究の根幹には関われない」


 ウインはキリンの研究家である。魔力発生塔の研究家ではない。


「学者のお仲間に魔力発生塔の研究をしたい方がいるのですか? それでキリンの研究に紐づけて予算獲得をしようとしていますか?」


 ユウトの言葉にウインがゴニョゴニョと口ごもってから、答える。


「正直にいえば、そうです。研究の補助として採用した学者から、相談を受けました。魔力発生塔の研究をしたいがどうにかならないか、と」


 ユウトはよく言えば理解のある後援者。悪く言えば夢見る金蔓だった。街を救う研究には投資したいが、いつ結果が出るかわからないのが辛い。


 見方を変えれば、東の地にいけば馬鹿げた研究もできる、と噂になっていたほうが街に人材は集まる。


 宣伝広告費とユウトは割り切った。

「少額ですが魔力増幅塔の研究について予算を付けましょう。建造までは無理でも調査くらいはできるはずです」


 ユウトの言葉にウインが顔をキラキラと輝かせた。


 間違いがあってはいけないので、ユウトはウインに釘を刺す。

「第一目標はキリンの旗の同時起動です。現状で四本を同時起動できないなら、魔力発生塔の研究予算は凍結します」


 ユウトの出した条件を聞いてもウインは怯まない。それどころか嬉しそうだった。

「仲間にもキリン関連として予算が付いたと報告できます。結局のところ、金がないと何も進みません」


「本当に世の中は金だよ!」とユウトも愚痴を叫びたかったが、堪えた。

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