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第十八話 重装歩兵密集陣

 無事に朝になったので、ほっとして散歩をする。

 輜重隊を連れた軍隊がやってきた。輜重隊が兵糧を食糧蔵に運び込む。


 量は多く、とても二百名分の兵糧ではない。

 大規模戦闘の予感がした。


 三日後、二千人からなる兵隊が到着した。

 ゾンビが強いといっても、二千人も動員するなんて驚きだ。

 いったいなにが起きているんだ。


 大規模な軍事行動を前に世話人たちの不安も高まった。

 軍が終結して三日後。四人の煌めく鎧を着た将を先頭に、二千名の部隊は出撃した。


 一日、二日、と待つが帰ってこない。三日目の朝に二十騎だけが帰還した。

 煌めく鎧を着た将の姿はなかった。


 まさか、二千名が全滅? 絶望の香りがした。

 手痛い敗北では済まされない。


 ゾンビがゾンビを生むなら、ゾンビが二千は増えた。

 ここは安全な僻地だったはずなのに事件が起きすぎだ。


 村を捨てお年寄りと避難するかどうか思案した。

 ゾンビは生者に容赦がない。襲われれば全滅だ。

 逃げるならいまだ。


 ロシェが渋い顔をしてやってきた。

「庄屋殿、ゾンビを退治するために力を貸してほしい」


 ロシェには協力したい。だが、俺は軍人ではなく、庄屋だ。

「協力したいのはやまやまですが、今回はさすがに無理です」

「庄屋殿がいないとこの度の戦は勝てん」


「戦って勝てるとは思えません。優先すべきは村人です」

「ここが落ちればゾンビはどんどん数を増やして街に迫るぞ」


 ロシェが言いたい内容はわかる。だが、もう兵は二百しかいない。

 お年寄りを逃がすために共にユウトが逃げれば兵は弱体化する。


 踏みとどまって戦うには老婆・ロードの能力が必要だった。

「お年寄りは犠牲にできません」


 ハルヒがなにかを決意してやってきた。

「庄屋様、ここは踏みとどまって戦いましょう」


 ハルヒの言葉にびっくりした。

 ハルヒはてっきり「逃げましょう」とせがむと予想していた。

「今の状況はわかっているのか?」


 ハルヒは力強く答えた。

「村を守る。これがお年寄りと世話人が出した結論です」


「本当か?」

「疑うなら庄屋様の目と耳で確かめてください」


 ハルヒの言葉に嘘はないと感じた。

「でも、勝ち目はないぞ」

「勝算はあると、カクメイさんがお年寄りに話していました」


 カクメイがここに来ないと思ったらお年寄りを説得していたのか。

 俺の心を読んで、先手を打ったな。


 お年寄りが第一。だが、そのお年寄りは村を守れと命じている。

 村の意見を庄屋一人が覆していいわけない。

「少しでいい、考えさせてくれ」


 ユウトは一人になる。

 お年寄りは本当に村のために戦いたいんだろうか。

 老婆・ロードの能力が及ぶから、やる気になっているだけではないか。


 人を死地においやるロードの士気向上能力は危険だ。

 だめだ、やはりお年寄りを危険に曝すわけにはいかない。


 ユウトが逃げる決断をしようとした。

 椅子から立つと、カクメイが来た。


 カクメイの顔には微塵も不安がない。

「庄屋殿。スプリンクラーが届いた。いまをもって我が軍の勝ちが確定したぞ」


 相変わらず、凄い自信だが、いくらなんでも今度は嘘だろう。

「どうしてそんなことわかるんですか。相手は強化されたゾンビの軍団ですよ」


 カクメイは冗談でも聞かされたように笑った。

「ははは、そんなにたいした相手じゃないよ」

「でも、二千名の兵が負けました」


 カクメイはさらりと見解を述べる。

「軍の鼻たれ小僧共は儂の意見を無視したからのう。当たり前じゃな」


 納得がいかない。

 ユウトは喰ってかかった。


「いくら策があっても、こっちの十倍もいるアンデッドの大軍には勝てません」

「敵の兵力は現在四百くらいじゃ。今ならまだ勝てる」


 信じがたい情報だった。

「馬鹿な! 四百体のゾンビに二千人の軍人が負けるなんてありえない」


 

 カクメイが冷たい顔で言ってのける

「型に嵌れば大軍とて容易く負ける。それが戦じゃ」

「戦場でなにが起きたんですか」


「ゾンビ・マスターは決戦場所の地面の下にゾンビを隠していた」

「奇襲を受けたんですか? でも、それくらいで負けますか?」


「隊はゾンビ・マスターの策により挟み撃ちにあった」

 ありえる展開だが、兵が倍以上いるなら二つに分けて対処できそうなもの。


 カクメイは説明する。

「後方の部隊は対バンシー用の銅鑼部隊じゃった」


 出現するアンデッドの中にバンシーがいる状況は予想できる。

 バンシーの金切り声を消すための対策は当然してある。


 銅鑼部隊がゾンビに襲われれば、バンシーの声に対して隙ができる。

 戦場を飛び回るバンシーの声に士気は低下、隊は瓦解。


 統率が執れなくなったところで撃破されたのか。

 状況は見えた。また、俺が必要な状況もわかった。


 老婆・ロードはお年寄りが受ける精神的マイナス効果を打ち消す。

 老兵の集団に俺が混ざれば、銅鑼はいらない。


 バンシー対策はできた。だが、肝心の強化型ゾンビはどうする。

「混乱をきたしたとはいえ五倍の兵を破ったんです。ゾンビは手強い」

「ゾンビ・マスターが強化できるゾンビは百くらいじゃ」


「それだけ?」

 意外だった。老婆・ロードの恩恵効果は範囲だけど、ゾンビ・マスターの恩恵効果は数なのか。ロード職といってもロードごとに効果のあり方は違うんだな。


 カクメイが知的な顔で教えてくれた。

「ゾンビ・マスターは最前線のゾンビだけを強化しておった」

「密集体形で前線を構築。壊れたぶんだけ後ろから前に押し出して強化を維持するのか」


「庄屋殿の指摘通り。それで最大攻撃力と最大防御力を維持した」

 手の内はわかった。悪い戦法ではない。


「厄介な戦法ですね」

「重装歩兵密集陣のゾンビ版じゃな」


 歩兵が重装歩兵相手に正面からぶつかれば破れて当然。

 指揮が乱れ恐慌をきたしているなら敗北は必定。


「それで、カクメイさんが携えてきた必勝の策とはなんですか?」

「水責めじゃ」


「はあ?」と、悪いが素っ頓狂な声が出た。

 村の周辺には河もなければ湖もない。

 どうやったって水責めなんてできない。


 カクメイがしたり顔をする。

「ゾンビ・マスターも庄屋殿と同じ心境じゃろうよ」


 カクメイの顔には勝利の余裕が浮かんでいた。

 勝てるのか?


 ユウトは覚悟を決めた。勝って村を守る。

「カクメイさん、村を守ってください」


 ユウトの言葉を聞くとカクメイは満足気に頷く。

「任せておけ」

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