第百七十七回 グレート・マンモス 対 グリフォン隊プラス憤怒のメリカ
グレート・マンモス狩りを行う日がきた。参加するグリフォン部隊は百を超えている。街に配備された時のグリフォン隊は二百を超えていたので目の前にいる人間が全部ではない。だが充分な数だ。
グリフォン隊は整然と並んでいる。多過ぎると統制を欠くのが普通だが、規律が取られているのだからさすがは訓練が行き届いた軍隊だ。キリクが指揮を執るのであれば混乱はない。
出発前にキリクと会い、素直に賞賛しておく。
「壮観ですね。グリフォンはよく訓練されている。これだけ参加させるとは凄い」
キリクはちょいと首を竦める。
「誰しも騎乗するグリフォンは可愛いのです。空腹にさせたグリフォンに申し訳ない思いがある」
グリフォンが百もいれば、倒したあとにグレート・マンモスをその場で解体しても街まで運べる。空を飛ぶなら雪による足場の悪さは関係ない。グレート・マンモスといえど、倒せる。
ユウトが自信を持っていると、氷竜に乗ったオリバがくる。氷竜はコタロウが操縦していた。オリバはメリカと一緒だった。オリバがユウトに頼む。
「グレート・マンモスを倒すにあたり、メリカ殿の力を借りたいのですがよろしいでしょうか?」
現状でも充分な戦力だと思うが、ユウトはグレート・マンモスを直に見ていない。事前に偵察に出たオリバが必要と判断するのなら、必要なのだろう。ここでまで戦力を揃えて負けたら、再出撃には金も時間も要する。
「メリカさんが手伝ってくれるのなら安心です。よろしく、お願いします」
ユウトが頭を下げると、メリカはユウトに要求した。
「タダではないよ。グレート・マンモスの肝を半分もらうよ。あれには価値がある」
増援なら冒険者に金で払ったほうが安い。だが、メリカほどの腕を持つ人間は金では動かない。グレート・マンモスの肝は高価かもしれないが、渡すだけの価値はある。
ケチってグレート・マンモスを倒せなかったら愚か者だ。
「約束しましょう。解体を現地でやる予定なので、その場で切り取ってもいいです」
ユウトの提案にメリカは気を良くした。
「よくわかっているね。臓物は下処理が悪いとすぐに悪くなる」
オリバとメリカは氷竜に乗る。ユウトはキリンに乗って出動する。氷竜はグリフォンと一緒に空を飛ぶが落ち着いていた。グリフォンも氷竜やキリンと一緒だが興奮しない。
氷竜もグリフォンも訓練が行き届いてる証拠だ。
北東の村を超えたところで、オリバが手振りで合図を出す。ここら辺にいるので探してくれの合図だ。
グリフォン隊がサッと散会した。百を超えるグリフォンが空から捜索する。一時間とかからずにグレート・マンモスの場所が特定された。
「獣を狩るのを生業にするオリバ。多人数を整然と統率するキリク。この二人の追跡から逃れるのは人だとしても、至難の業だな」
空から一団となって近づくと、雪原を動く、大きな白い物体が見えた。グレート・マンモスは白い体毛を持つ巨大な象だ。空から見ても威圧感を感じる。まるで雪原を移動する戦艦だ。
グレート・マンモスは移動していたが、部隊が集まって来ると動きを止めた。逃げるのも隠れるのも不可能と思い戦う気だ。グリフォン部隊から弓矢による攻撃が開始される。
四方八方から次々と矢が飛ぶ。グレート・マンモスは空への攻撃手段をもたないので一方的な展開になった。
圧勝かとユウトは安堵したが、すぐに戦況は覆った。矢は命中しているが、ほとんどは剛毛と体皮で止まっている。
「矢には限りがある。全て撃ち尽くしても倒せないのではないか?」
ユウトが不安に思うと、グレート・マンモスが移動を再開した。グレート・マンモスも空から攻撃では簡単に倒されないと判断した。
グレート・マンモスは渓谷のような場所に逃げ込むつもりだ。上手くすれば山肌にある突き出した岩が天井になる。守りに入ってやり過ごそうとグレート・マンモスは考えている。
空からの攻撃ができなければ地上に下りなければならない。そうなると、グリフォン部隊の優位は消える。グレート・マンモスの防御力と耐久力を甘く見ていた。
グリフォン部隊は数はいるが、狭い場所なら不利だ。かといって、空中から接近戦を挑んでは犠牲者が出る。
ユウトは氷竜を見る。氷竜にはメリカが乗っている。メリカはグリフォン部隊が攻撃を開始してから未だ動いていない。氷竜が空中で旋回を開始する。オリバからの信号だ。
各自、氷竜から離れるようにと指示を出している。氷竜を中心にグリフォン隊が輪を描く陣形に変わった。ユウトが乗るキリンも従った。氷竜の上で何かが光った。
空に四つの火球が現れる。火球は牛車ほどの大きさがあった。火球がグレート・マンモス目掛けて落下し命中する。グレート・マンモスの叫び声が響く。
火球はグレート・マンモスの体毛と体皮を焼いた。
「ダメだ。あれでも弱い」とユウトは苦く思った。火球は効果を上げている。弓矢よりも効くが決定打にはならない。
グレート・マンモスが走った。早めに狭い場所に隠れて身を守るつもりだ。再度、火球が四つ現れる。火球はグレート・マンモスを大きく外れた。
「メリカさんが攻撃に失敗した?」
メリカらしくないと、失敗を疑うと、火球は斜面に命中すると爆発する。衝撃で小さな雪崩が起きた。雪崩がグレート・マンモスを飲み込む。上から見れば、雪の下敷きになったグレート・マンモスが雪の下で動いているのがわかる。
小さな雪崩ではグレート・マンモスを止めらない。失敗かと思うと、空が明るくなる。上空で物凄い勢いで炎が集まっていく。グレート・マンモスより巨大な火の玉が形成される。明るく輝く火の玉は命中すれば、城壁も吹き飛ばすほどの威力があると感じた。
雪の中から顔を出したグレート・マンモスも、火の玉を見て動きを一瞬止めた。グレート・マンモスは火の玉から逃れるように雪の中へ逃げようとした。火の玉が落下を始める。
雪の中に隠れたグレート・マンモスの上に巨大な火の玉がさく裂した。ユウトのいる上空にまで熱風が吹いた。熱風の後には異常な湿気を感じた。
目を開けるとグレート・マンモスが燃えていた。グレート・マンモスは動いているが生きているわけではない。熱で水分が飛び、体皮が収縮している。即死だった。
雪の下に逃げた程度ではメリカの火の玉から逃げられなかった。もし、グレート・マンモスが雪の下へ逃げる選択をしなかったとする。代わりに這い出し全速で走ったなら、直撃はなかった。結果、即死は避けられたかもしれない。
現場にいたからわかる。メリカが作った火の玉の巨大さと明るさは自然界では見られない大きさだ。雪の下へ逃げる選択をしたグレート・マンモスを愚かだとは笑えない。