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百七十三回 妖しきヤクシャ

 モルタを伴ってリシュールは退出した。代わりにアメイと一人の女性が入ってきた。女性の年齢は二十代後半くらいに見えた。異民族ないしは異種族の血が入っているのか顔立ちがハッキリしている。


 体格は痩せ過ぎず、太り過ぎず。黒髪で褐色肌。顔立ちは美しく。怪しい魅力があった。服装は体にピッタリした衣装を着ており踊り子のようだった。


 澄ました顔でアメイが女性を紹介する。


「先日、街で捕まえた手癖の悪いコソ泥のアクシャです。放っておいても悪さしかしません。殺したほうが世のためだと思いますが、庄屋様にはちょうど良いかと思い連れてきました」


 アメイの意見は辛らつだがユウトは否定しない。アメイがお似合いだと評するのなら充分に雇う価値がある。だからといって、すぐに飛びついていけない。


「アメイさんが俺の事をどう評価しようと、アメイさんの勝手です。ですが、アクシャさんを紹介する理由がわかりません」


 ユウトの言葉を聞いて、アクシャが芝居懸かった憐れみを出す。


「庄屋様、アメイが私を虐めるのです。私を助けてください。私を助けてくれるのならなんでもします。夜のお相手も含めて」


 揶揄っているのか、馬鹿にしているのかわからない。アクシャの顔を見れば男ならその気になるのかもしれない。


「俺はこれから結婚する予定なんですけど」


 ユウト意見するとアクシャが妖艶に笑う。

「おめでとうございます。ならなおのこと、私と遊んだらいい。結婚したら遊べなくなりますよ。歳を取ってから遊びを覚えるのなら、火遊びで済まないですよ」


 アクシャにはぞくりとする魅力があった。アクシャがユウトに近付こうとする。


 アメイが後ろからヤクシャの頭をガシッと掴んだ。アメイの顔は怖い。

「そこまでにしろ、綺麗な顔が熟したザクロのように飛び散るぞ」


 アクシャはおどけて答える。

「怖いわ。アメイさんならできるんでしょうね。握力的にも心理的にも」


 アクシャが身を引く。アメイも何事もなかったかのようにアクシャの頭から手をどけた。


 二人の関係性が見えない。友人のようでもあり、敵のようでもある。アクシャは美しい女性だが、遊びといえど付き合えば身を持ち崩す。であるなら、敵を篭絡したり破滅させたりするのに使える気はする。


 ユウトは女性を使った奸計は嫌いだった。アメイもそれなりにユウトの性格を知っているはず。なぜアクシャを推薦してきたのかわからない。わからなければ聞くしかない。


「アクシャさんに質問です。貴方は街にどのように貢献できるのですか?」


 ユウトの問いにアクシャが軽く目を開いた。

「今の流れからそれを訊くんだ。まるで就職の面接みたい」


 アクシャは人材登用の面接に来ている気はないのか? ユウトには不思議だった。

「訊かれたことを答えろ、女狐」とアメイは不機嫌に促す。


 小首を傾げてアクシャは回答する。

「男の相手はできるけど、夜のプロではないわ。騙すのは得意だけど、よく騙されもするの。人をからかって遊ぶのは好きだけど、それって役に立つのかしら?」


 モルタもそうだが、街にはおかしな人しか来ない。わかってはいる。若くて、立派で、人格者で、礼儀正しく、有能な人を待ってはいられない。贅沢は言えない。どこかで妥協しないと、いけない。だが、こうも見てくれだけで、役に立つかどうかわからない人材も珍しい。


 何かを思い出したのか、アクシャはポンと手を叩く。

「数を数えられるわ。あと人の言葉を聞くことも得意ね」


 馬鹿にしているのかと、思うが怒りは沸かない。そんなどうしようもない人間ならアメイは連れてこない。


 アメイにしたらユウトはどうなってもいいかもしれないが、サイメイが困ることはしないのがアメイだ。


 謙遜の線があるのでユウトはアクシャに聞いた。

「複雑な計算が得意で、いくつもの言語に精通しているのでしょうか?」


 笑ってアクシャがパタパタと手を横に振る。

「ないない、計算は不得意だし、外国語なんて呪文よ。読み書きだって字が汚いわ」


 不思議な女性だ。まるで役に立つようにはみえない。

「サイメイさん、アクシャさんの能力ってなんですか?」


 さらりとサイメイは答える。

「彼女が答えた通りです。不要なら言ってください。ゴミとして処理します」


「やだ、怖い」とアクシャは見え見えな態度で怯えた。


 まるで使い道がわからない人材がきた。武力枠、統率枠、知力枠、政治枠、商業枠、諜報枠、文化枠のどれにも当て嵌らない人材だ。本来ならお帰り願うところだ。だが、アメイの推薦なら無能ではない。


「悪事を清算するのには罰金の支払いも必要でしょう。また、賠償金を払う事案を抱えているのなら、金がないと困るでしょう。給金はいくら欲しいのですか?」


 ユウトの言葉にアクシャがパッと顔を輝かせた。

「なら、村が一つほしいわ。友達と一緒に楽しく暮らすの」


 強欲なのか、馬鹿にしているのかわからない。

「役に立ったら村を一つ任せます。ただし、現状ではなんの実績もないので、給金は役人一人分です」


 アクシャは目をパチクリさせた。

「この街の役料ってどれくらい?」


 町役場で働く人間の給与を教えた。額を聞いてアクシャは驚いた。

「人間って働いてもそんなものしかもらえないの?  可哀想」


 アクシャの言葉にできるだけ反応をしないようにユウトは努力した。今のアクシャの言葉は心から出たものだ。アクシャは人間ではない。少なくとも、アクシャはマオ帝国の人間ではないと白状した。


 見た目からしてアクシャには異種族の血が入っている。ならば『ダーク・エルフが親戚にいました』がある。下手をすると山の民の有力者の血縁かもしれない。扱いには注意が必要だ。


 給与が悪いので不満そうだが、アクシャは同意した。

「少ないけど、ないよりはいいわ。街なら生活にお金がかかっても、どうにかなりそうだし」


 何を、どうやって、稼ぐのかは疑問だ。副業で済む範囲でお願いしたいところだ。

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