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第百七十回 再会

 飛竜待機場所まで無事到着した。山の民は暗殺に気付かれないよう人数を絞ったためと思われる。本来ならユウトを始末した後で、フブキを殺す手筈にしたかった。


 無事に戻ってきたユウトたちの姿を見てダミーニが安堵する。

「誰も欠けずによかった。これで安心して帰れる」


 すぐにフブキから叱責が飛ぶ。

「まだだ! 飛竜を使用する場合、離陸と着陸時がもっとも危険だ。高度を確保するまでは敵の的になると思え」


 フブキの言葉にダミーニがハッとした。


 飛竜は一度に全て飛び上がらない。卵を持ったカオリの飛竜が最初に空に上がる。次いで、冒険者を乗せた飛竜が二番手、三番手で飛ぶ。コタロウとユウトは四番手になった。最後に飛ぶのがフブキとダミーニと冒険者の残りの隊を乗せる飛竜だ。


 コタロウが乗った飛竜が飛びあがると、そのまま街に向かって移動する。

 他の護衛隊の乗る飛竜も後に続いた。気になったのでコタロウに質問する。


「フブキさんの乗る飛竜はまだ下にいます。待たなくていいのですか?」

「ダメです。危険が近づいています。待てません」


 空を見回すが他の竜は見えない。雪山龍も見えない。危険がないようにユウトには見える。コタロウが何を危惧しているかわからない。コタロウが考えを教える。


「飛竜は馬よりも速いですが、他の竜種よりは遅い。後ろから追いかけられたらすぐに追いつかれる」


 コタロウの考えにユウトは同意できない。

「それならフブキさんの飛竜が群れから離れたら危ない」


「わかっています。わかっていて、やっています。もし、相手が飢えた竜なら群れから逸れた飛竜を狙う。竜士が操る竜でも個別に撃破します」


 驚きの発言だが、竜の卵を取りに行く作戦はコタロウとフブキで立てている。フブキは危険性を理解した上で隊を編成していた。ならば、これは予測できる事態の一つだ。


「フブキさんは危険な殿を引き受けてくれたのですか?」


「全ての事態を想定するのは無理です。ですが、現状に対処できないフブキ殿ではありません。任務の達成のために俺が判断しました」


 前回も死者が出た。今回も出るかもしれない。かといって、ここで引き返すわけにはいかない。ユウトが乗る飛竜にも卵が積んである。


 雪で視界が悪い。フブキの飛竜がどうしているか不明だった。

 街に着くが、やはりフブキの飛竜は従いてきていない。


 コタロウはカオリに命じる。

「俺はフブキ殿を迎えにいく。後は頼む」


 カオリが厳しい顔で頷く。コタロウは竜舎から氷竜を出しに行く。氷竜は飛龍より速い。また、雪が吹きすさぶ悪天候にも慣れている。風雪に富む環境なら、氷竜は力をいかんなく発揮できる。


 コタロウの氷竜が出している間にユウトは館に戻り、キリンを連れてきた。


 コタロウが飛ぶ前だったので申し出た。

「俺も一緒に行ってもいいか?」


 ユウトの申し出にコタロウは顔をしかめた。

「氷竜の卵は採れました。竜舎にはカオリがいます。俺が死んでも、竜はカオリが育成できます。ですが、庄屋様の代わりはいない」


 正論だが、ここで氷竜とコタロウを失うわけにいかない。さらにフブキまで帰らないなら、防衛態勢に大穴が空く。


 ここでカトウが口を出した。

「問題ないでしょう。儂も庄屋様と一緒にキリンに乗ります。一度、キリンには乗ってみたかった」


 カトウが一緒なら心強い。カトウの強さを知るコタロウが折れた。

「カトウ殿は庄屋様の安全を第一に行動してください。必要とあれば俺やフブキ殿は諦めてください」


「承知」とカトウは澄ました顔で応じた。

 空を駆け急いで現場に戻る。氷竜は寒くて、風が吹く天候でも喜んでいた。まるで雪原駆ける犬のようだ。


 悪天候のせいで前はあまり見えない。ユウトはキリン乗っているが、ユウトがキリンを操縦しているわけではない。


 キリンは迷いなく空を駆けている。さすがは霊獣だ。視界が悪くても氷竜の位置がわかっている。来た時には半日懸かりだった。冬は陽が落ちるのが早い。だが、氷竜とキリンなら夕暮れ時は山に戻れた。


 吹いていた風と雪が弱くなった。フブキが乗るはずだった飛竜はまだ現場にいた。


 カトウがフブキの姿を見て感心する。


「時に動かない選択は前に進む判断より難しい。まして敵地で、碌な装備もないのに慌てない。悪天候の中でも冷静さを失わず、部下も従わせるとは中々の御仁よ」


 無理に飛竜で飛べば全員が死んでいた。慌てた冒険者が従わなくても、誰かが死んでいた。フブキは判断力と統率力に優れた指揮官だ。そんな優秀な指揮官を政治で追い出せるのだから、マオ帝国軍の人材の厚さに驚きだ。


 氷竜が空中で旋回する。フブキは安全が確保できたと理解した。チャンスを逃さず飛竜で、空に上ってきた。無事に合流できたので街に向かう。どうにか、犠牲者を出さずに済んだかと安心すると、キリンがしきりにソワソワし出す。


 なんだと疑うと背後に乗るカトウが教えてくれた。

「山に神がおるとしたら、どんな神はかは存じません。ですが、山の神は我々を簡単には帰したくないようです」


 カトウの言葉にドキリとすると、ゴウゴウとなびく風の音がした。チラリと振り返ると、雪山龍が迫っている。雪山龍は小山のような巨体だが、動きは驚く速かった。


 全速のキリンや氷竜なら振り切れる。飛竜では逃げきれない。

 当初の予定ではフブキを捨てて逃げる予定だった。


 ユウト迷った。ユウトの迷いを感じたのかカトウが提案する。

「当初の予定とは違いますが、儂等で雪山龍を仕留めますか?」


 何を言っているんだと、抗議したい。相手は山のような大きな化物だ。いくら、伝説の暗殺者と霊獣がいても、倒せるとは思えない。カトウの言葉に冗談は感じられない。


「お願いします」とユウトは無謀とも思える決断をした。

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