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第百六十七回 地徳派の進出

 ムン導師は儲け話を語り出す。

「カルラ商会がこの地に支店を出したがっております。許可を頂ければ、何かと役に立ちましょう」


 街で商売を始めるのにユウトの許可はいらない。現に一山当ててやろうと野心を抱く商人は街にどんどん入ってくる。不動産の取得なら、地主と話せばいい。銀行と取引したいならロックに話を持って行くべきだ。


「何かを独占的に取り扱いたいとの要望ですか? 残念ながら特定の商人や商会と組んで独占販売はしません。結果として俺が得をするかもしれませんが、街が損します」


「いいえ違います。カルラ商会は表向きには商人ですが、実態は異なります。地徳派が抱える諜報組織の教団の目の表の顔です」


 地徳派に監視されるようで嫌だ。

「何を調べる気です。ウンカイ様は俺をお疑いですか?」


 滔々とムン導師は説明する。

「いいえ、この街から極東の国への道が拓けるのなら、布教への足掛かりにしたいのです」


 極東の国では天哲教の勢力は無い。だからこそ、道ができれば勢力を拡大できる。マオ帝国も天哲教の布教名目なら、敵国への入国を制限しない。


 伝道師を送り込んで相手の国への影響力を得る。ソフトな侵略でもあるが、文化交流の一面はある。極東の国にも民ならメリットはあるが、政治的に極東の国がどう考えるかは未知数だ。


「許可します」とユウトがすぐに答えられないと、ムン導師が言葉を続ける。

「布教については帝国三軍師のシャガール様の後援も得ています」


 ユウトがテルマに取り入ったのだから、ウンカイが別の三軍師と組んでも非難はできない。だが、こうなってくると、増々政治が複雑化する。権力闘争とは無縁でいたいが現状では無理だ。


「事情は理解しました。それでカルラ商会の進出がどう街の利益になるのです」

「カウラ商会は郵便事業に強いのです。受け入れてくだされば、より安く郵便物が出せます」


 諜報機関が運営する郵便事業ならではの利点だ。カルラ商会は郵便事業での利益に固執しない。自分たちが運ぶ情報を盗み見ることが目的ならではの低価格だ。受け入れたくない気持ちはある。


 郵便事業は街の発展には必要であるが、現状はそこまで手が回っていない。これから他の事業に金を使うので、今ここで申し出を受けないと郵便事業への投資は後回しになる。


「受け入れましょう。街の地価は高騰しているのでは無理ですが、どこか纏まった土地を用意しましょう。タダではないですけど」


 ムン導師はニコリとする。

「決断が早すぎませんか? もう少し迷われてもいいのですよ」


「色々とやることが多いんですよ。決められる事はすぐに決めないと溜まっていくんですよ」

「ご苦労が絶えないですね。今後は地徳派も問題解決に協力しますのでご安心ください」


 地徳派との関係が進んだことで街にはプラスにはなる。だが、街の経営も人徳派の舵取りも難しくなった。


 ムン導師が帰ると、フブキがやってくる。

「庄屋様、氷竜の卵を取りに行く準備ができました。明日の早朝にでも出立したいのですがどうでしょうか」


 急な話だが、コタロウも待たせてはいけない。あまり前から予定を入れておくと、暗殺や妨害がある。年明けなので役所はほぼ動いていない。


 新年であれば「どこどこに挨拶を行く」との名目で留守にしても怪しまれない。

「明日の早朝にお待ちしています。さっさと終わらせましょう」


 フブキをさっと帰すと、ユウトが管理する村の年寄役たちが集まってくる。年寄役たちはそれぞれの村の名産品を持ってきてくれたので、ユウトもお返しの品を贈る。


 年寄役たちの代表である。北の村と庄屋が尋ねてくる。

「庄屋様、御領内での転封があるとの噂は本当でしょうか?」


 ユウトの代わりに村で暮らす年寄役にすれば当然に知りたい情報である。領主とユウトの結婚を機に、村に新たな庄屋や代官が来る可能性がある。今までユウトとよくやってきたが、次の権力者がどんな人間かがわかないと、不安にもなる。


「領内での転封や移動はあるよ。今のところは俺が知らない顔はトリスタン卿だけだ。でも、トリスタン卿の家族と会ったが良い人たちだった」


 領地内の権力者とは全てコネがあるとアピールしておいた。


 それでも北の村の庄屋は不安なのかユウトに質問した。

「私たちのような下々の者は知りませんが、領主様はどんなお方でしょう」


 正直に言えばトリーネの本心はわからない。だが、わからないと、正直に答えれば不安にさせる。かといって、適当な事を言って違えば、後で疑念からの混乱が予期できた。


「トリーネも俺も若いから時間をかけて分かり合って行きます。俺が領主の夫になっても皆さんとは今まで通り付き合っていきますよ」


 年寄役たちはまだ不安があるのか、質問が続く。


「この地に新たな城が建てられると聞きました。マタイ殿のお話では、天下に轟く名城になるとか。我々はどの程度負担すればよろしいのでしょうか?」


 マタイが余計な内容を吹聴している。悪意はなく純然たる理想を語っているのかもしれないが、ほどほどにしてほしい。新たに築城される城が立派であればあるほど、負担を求められる民は不安だ。


「最初から小さな城を建てるというと、トリーネが機嫌を損ねます。だから、話は大きくしているだけです。負担は発生すると思いますが、増収分で賄えるようにする予定です」


 ユウトの言葉も理想論であるが、不安を掻き立てる話はできない。消費者心理の落ち込みは馬鹿にできない悪影響が市場に出る。それでいて明らかな嘘を言えば、不信感が出るのだから匙加減が難しい。


 ユウトの言葉に年寄役は顔を見合わせる。不安半分といったところだった。築城と居城の変更は大規模事業になる。成功すればいいが、失敗したら一気にこの地が寂れる。

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