第百五十三話 ドリエルの特技
外の見張りは武僧と村人と交代でする。ユウトは戦力にほとんどならないことはわかっている。ユウトは眠っていいとなったが眠れない。野外でも敵に襲われる状況下でも、眠れないといけない。だが、まだ慣れない。
部屋のドアをノックする音がする。返事をすると、ライエルが入ってきた。
「夜分遅くに申し訳ありません。援軍が到着しました」
本来なら嬉しい知らせだが、どうもおかしい。夜中の移動は危険である。
「夜明けまでは後どれくらいですか?」
「三時間です。援軍はサジ殿が率いています」
不自然だ。サジにも集団を纏めることはできる。だが、ユウトがピンチなら武僧を束ねてママルが来る。または軍事顧問としてやっといるフブキが指揮を執る。
経験の浅いサジが部隊を纏めるはずはない。
「なんか怪しいですね」
「同感です。サジ殿は至急、庄屋様に会いたいと行ってきました。町で異変が起きているとの報告です。ママル殿とフブキ殿は町での異変に対処するので手が回らないそうです」
サジの申告が正しいとする。ママルもフブキも来ない説明は付く。極東の国がユウトの不在を狙って動く事態もある。だが、信頼性に欠ける。
「どうしますか?」とライエルが方針を尋ねる。会って真偽を確かめるのがいい。
敵がサジに化けているのなら、ユウトが疑うのは敵も想定内はず。
「援軍の数は何人ですか?」
「急いできたので二十名とサジ殿は申告しています。今は夜なので兵を潜ませるの容易です。もしかすると、もっと闇に隠れているかもしれません」
襲撃は撃退した。だが、敵には兵力がまだ残っている。
「襲撃失敗から時間が経っています。敵が仲間を呼んで増えている可能性がありますね」
「敵が戦力を集めて再襲撃にきた可能性はあります。ですが、こちらも村人が防衛に加わっています。急ごしらえで集まる人数では館は落とせません」
敵の狙いがわからない。先の襲撃で敵は方針の違いから、足並みが揃わなかった。
もし、再びやってきたのなら昼には戦わない選択をした慎重な連中である。慎重な人間が一か八かや、明らかに失敗する作戦に踏み切るだろうか。
ユウトの疑念はライエルも抱いた。
「敵の目的がわかりません。夜明けまで外で待たせてから、真贋を確認したほうがいいでしょう」
妥当な案だ。明るくなれば周りの状況もわかる。
外のサジが偽者なら、本物が呼んだ援軍も到着する。本物の援軍がくれば敵は挟み撃ちだ。
ライエルに意見に従おうとすると、ドアが外から再びノックされる。
「リリアとドリエルです。お話があります。外からき来た援軍のことです」
「どうぞ」とユウトが入室を許可する。
扉を開けてリリアとドリエルが入ってきた。ドリエルはユウトにかなり近い恰好をしていた。
穏やかな顔でリリアは献策してきた。
「外の援軍と交渉しましょう。ただし、交渉役はドリエル兄様がユウト様に化けて行います」
ライエルが目を細めてリリアに尋ねる。
「なぜそんな身代わりを立てての交渉をする?」
「敵の目的はユウト様の暗殺でしょう。暗闇からユウト様を狙撃する気です」
邪教徒は極東の国の支援を受けている。極東の国は山の民と手を組んでいる。山の民には夜目が効く種族がいる。闇からの狙撃が得意な人材もいる。夜でも三十m以内の狙撃ならまず外さないと考えていい。
ユウトはリリアの提案には賛成できなかった。
「ならば身代わりを立てるなんて危険は冒さず、明るくなるのを待てばいい」
懇々とリリアは説得を続けた。。
「敵の立場で考えてください。庄屋様への狙撃を成功させたら敵はどうしますか?」
自分が敵ならどうするかユウトは考える。
「本当に狙撃が成功したか、確認するかな。その上で、次の行動に移る」
「私も同じ考えです。眼前の部隊は逃走するでしょうが、誰かが確認のために残るはずです。確認役を捕まえて敵の情報を得ましょう」
館には籠城する。だが、守勢には固執しない。勇ましいが、成功するだろうか?
ライエルもユウトと同じ疑問を抱いていた。
「敵の狙撃が成功したとする。敵が確認しなかった時はどうする。または敵の確認役が見つからない時は?」
「やることは同じです。空の棺桶を牽いてお帰りください。安全に帰れますよ」
「どうにかして俺の安否を敵が確認したいとするなら、俺たちの隊列を安全な位置から監視する。なら、捕まえるチャンスがグッと増える。確認を後日に回した敵なら、何もしてこないから、無事に帰れるわけか」
メリットはわかったが、リスクもある。
「リリアさんの策のメリットはわかりました。ですが、ドリエルさんが危険だ」
笑ってリリアがドリエルの肩に手をポンと置く。
「ご安心ください。ドリエル兄様はラッパと演技が得意なんです。金が取れるレベルです」
自身たっぷりにドリエルが勧める。。
「任せてください。狙撃された時は安全を確保しつつ死んだように見せかけます」
ラッパの演奏や死んだ振りは、普段なら大して役に立たない特技だ。だが、戦場となれば別だ。影武者なって死んだ振りができるのなら作戦の幅が広がる。
「やってみましょう」とユウトが決める。リリアはユウトの決断を喜んだ。
リリアがドリエルを褒める。
「良かったですね。ドリエルお兄様の特技が認められました。見事な死にっぷりを見せてやってください」
危険な役だがドリトルの士気は高い。
「トリスタン家はやられっぱなしはならないと、見せてやろう」