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第十五話 ウォー・ロード

 説得中の村に、黒騎士を討ち破ったと伝令を出す。

 バルカンを含む十人の捕虜を連れて村に帰還した。


 捕虜を閉じ込めたあと、もぬけの殻になっていた黒騎士団の陣を撤去した。

 これで流れが変わる。


 風呂に入って昼寝をする。

 夕方にアメイがやってきて説明する。

「村の一つが態度を変えました」


 良い流れに期待が持てた。気になっていたことを尋ねる。

「もし、黒騎士がここを襲ったらどうしたんです?」


 アメイは涼しい顔してすらすらと答える。

「襲撃はありません。黒騎士には雇用主がいます。雇用主の命令で黒騎士は戦います」


 カクメイさん、黒騎士側の情報をどこかで手に入れていたのか。

「黒騎士の雇用主は裏切りへの制裁を優先したか」


 アメイがにこりと笑って説明する。

「仮にこの村を落とせても、裏切った村が残れば敵の戦略が崩れますから」


 指摘されりゃ納得だ。

「優先すべきは、最初から仲間にならなかった村よりも、後から態度を変えた村への対応か」


 次に気になった疑問を訊く。「でも、これからどうするんです? こちらに寝返った村が増えれば防衛しなければならない場所が増える。ロシェ閣下にここを離れてもらうわけにはいかない」


「それについてはカクメイ様に考えがあります」

 すでに策があるのか。どこまでも先を読んでいる婆さんだな。


 二日後、カクメイが一人の女性を連れてやってきた。


 短い髪に白い肌。年はまだ若く、凛々しい顔つきをしている。体格がいいわけではないが、よく鍛えられ引き締まった体をしているのが、服の上からでもわかった。格好は簡素な緑の服で、武器は携帯していない。


 カクメイが女性を紹介する。

「こちらは黒騎士のリーダー。ロード・カフィア殿じゃ」


 突然の言葉に驚きを隠せなかった。

 黒騎士の団長? いいの? そんな人を村に入れて?


 テーブルを囲んで座る。カフィアの顔は冷たい。

 カクメイは気にせず話す。

「庄屋殿にお願いがある。黒騎士を雇ってくださらんか」


 驚きの提案だった。

「ちょっと待ってください。カフィアさんにだって立場があるでしょう」


 カクメイは平然と口にしてのける。

「この度の戦は決した。傭兵は貴族とは違う」

「どう違うんです?」


「負け戦に付き合う傭兵はおらん。そんな真似をしていたら、傭兵は生き残れん」

 カフィアは不愛想に手を差し出す。

「カフィアだ。よろしく」


 握手を返す。

 戦国の世を生きるって綺麗ごとじゃないんだな。


 カフィアはむすっとした顔でユウトを見る。

「仕事の内容は近隣の村の解放でいいんだな」


「お願いします」

「報酬だが、足りない。騎士九人とバルカンの身代金では仕事が割に合わない」


 カクメイがあっさりと頼む。

「というわけで、金をくれ、庄屋殿」


 カフィアがすぐさま付け加える。

「兵糧もだ。もう、我らに補給をしてくれる村はない」


 またか、と嘆きたくなる。

 お金をいくら貯めてもみんなが寄ってたかって持って行く。

 泣き言の一つでも言いたい。だが、ケチって村に損害が出れば馬鹿者だ。


「おいくらですか?」

 カフィアが額を告げる。払えない額ではない。ただ、払えば金はほぼなくなる。

 ユウトは席を立つ。蔵から国宝級の茶碗を持ってきた。


 茶碗をカフィアの前に置く。カフィアは不機嫌に尋ねる。

「なんの真似ですか。喉は乾いていませんが」

「報酬はこの茶碗です。売ればこれ一個でも提示額を超えるでしょう」


 カフィアは露骨に疑った。

「こんな薄汚い茶碗がか?」

「その茶碗には国宝級の価値があるんですよ」


 カフィアは価値がわからないのかうんと返事しなかった。

 ユウトは噛んで含むように言って聞かせる。

「黒騎士は帝国に敵対した。そんな立場の黒騎士に、村から金が流れていたとわかるとまずいんですよ。」


 カクメイがさらりと発言する。

「嫌ならいいよ。明日にでもバルカンの首を刎ねて塩漬けにする」


 カフィアは不承不承に納得した。

「凡兵は得易く勇者は得難い。わかった、契約しよう」


 黒騎士は帝国の敵である。だが、兵士は黒騎士が村に入ってきても見ぬ振りをする。

 黒騎士は黒騎士で、当然のように村に入ってくる。


 昨日まで戦争していたのに躊躇いはない。

 村に入った黒騎士は塗りつぶした紋章を温泉で洗い流す。黒騎士は白騎士になった。


 ユウトは洗濯場で鎧を洗い白騎士になっていく姿をみる。

 官軍だから身分を隠す必要はなしか。


 戦争って強い奴じゃなく、要領の良い奴が生き残るんだな。

 白騎士は三泊の休養を取って鋭気を養う。酒と兵糧を渡した。


 アメイを伴って白騎士は村を出た。

 食糧が乏しくなったので、寝返った村から購入する。


 農村だけあって食糧備蓄は充分だった。

 村が平和になった。五十日後、やっと反乱鎮圧の帝国軍がやってきた。


 帝国軍が来た時には恭順の意を示していない村はドリューの村だけになっていた。

 来るのが遅いな。もう、反乱は沈静化したよ。


 物流が戻り、制限された生活から開放される。大半の難民も元居た村に戻った。

 ドリューの行方は知らないが、もう生きてはいないだろう。

 白騎士が逃げるように帰る。入れ違いでエリナがやってきた。


 エリナが不機嫌に宣告する。

「監査よ。この村には敵の黒騎士に金を渡した嫌疑がかかっているわ」


 やはり来たか。どこの誰かは知らんが、お見通しだよ。

「滅相もない。いいがかりですね。我が村は徹頭徹尾、帝国のお味方です」

「我が庄屋殿に限ってないとは思うけど。調べさせてもらうわよ」


 監査は開始された。

 帳簿に不備はない。金もきちんとある。証拠は出なかった。


 調べ終わったエリナが安堵する。

「帳簿と村にある金にズレはないようね」


 ユウトは白々しくも言ってのける。

「おかしな支出をすれば金が残りません。金は黙っていても増えませんから」


 エリナは騙されているとも知らず安堵する。

「いいわ。疑って悪かったわ」


 エリナは帰って行った。

 防衛成功だね。

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