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第百四十八回 引く時か、進む時か

 村人に恐れられ、憎まれているのなら長居は無用だ。領主様の人柄を聞きに訪問したが話ができる雰囲気ではない。餅搗きなどしてトリスタン一家や村人と心温まる交流をしたかったが無理だ。


 西の村人にしてみればユウトは同胞を虐殺した異教徒の首領。肩を並べて、餅なんて喰いたくもないだろう。


「一度外に出てもいいでしょうか。武僧たちが餅を搗いて振舞う気でいるので相談します」


 ドリトルは丁重に頼んだ。


「当方としてもせっかく持参していただいたお土産を突き返すようで心苦しいです。ただ、受領すると村人に私が懐柔されたと、誤解されかねない」



 狭い村なのであらぬ疑いがかかれば運営に支障も出る。規模は違えど村と町を管理する立場なのでよくわかる。


 話を終えてユウトが席を立つとドリトルは玄関まで見送ってくれた。

 ユウトが外に出るとドリトルも外まで出ようするとした。


 サジがキッとドリトルを睨む。

「ここからの対応は天哲教の問題です。仲間の武僧と話すのでドリトル様はご遠慮ください」


 随分と冷たい言い回しだ、とユウトは苦く思った。サジは若いので、もう少し他の宗教に理解があるかと思った。仕方ないのかもしれない。武僧と戦ったカタリナ教徒は敵だ。


 気分を悪くしたかも知れないドリトルだが、礼儀は忘れなかった。

「カタリナ教と天哲教はわかりあえないかもしれません。それでも、お帰りの際は一声掛けてくれると助かります」


 段々と場が冷えていく。帰るしかないかな、と諦めつつ武僧の元へ行く。


 武僧たちはドリトルとユウトの会談内容を知らない。だが、表情が曇っている。使用人に何か嫌味でも言われたかと予想できた。


「僧正様、これは二階の窓から飛んできた石です」


 石まで投げられるとはかなりの嫌われようだ。だが、石として差し出された物は紙だった。紙は丸まっている。中を開けると石が入っているのだが、気になったのは紙だ。


『助けてください』

 助けを求めるトリスタン家のメッセージだった。


 内容には驚いた。もし、メッセージが本当なら、トリスタン一家に危険が迫っている。


 怖い顔をしてサジが小声で話す。

「僧正様、先のドリトルですが何か妙です。よからぬ気配を感じました」


「カタリナ教徒だからサジに敵意があった。敵意が目を曇らせたのではないのですか?」


 力がこもった眼差しでサジは言い切った。

「いいえ、あれはよからぬ事を考える者の目です」


 ユウトにはわからなかったが、サジは何か違和感を持っていた。

 ライエルの表情もまた渋い。


「私もドリトルの態度が気になった。ドリトルはユウト様に殺されるかもしれない告白をした。だが、言葉には恐怖が滲んでいなかった」


 サジの指摘だけなら異教徒への敵意だと考えた。だが、ライエルまでドリトルが怪しいと勘が働いたのなら別だ。もしかすると、知らない間に西の村が誰かに乗っ取られたかもしれない。


 西の村が乗っ取られたのなら先の村人の反応もわかる。余計な事を言ったり、秘密がばれたりしたら、殺される。


 事態は重大かつ危険な様相を孕んでいる。

「村は既に敵の手に落ちているのでしょうか?」


 表情を曇らせてサジは言い切った。

「敵の解釈によりますが、この村で我々に協力する者はいないでしょう」


「村の家々に敵は潜んでいるのでしょうか?」


 怖い顔をしてライエルが警告する。

「殺気は感じなかった、多くの兵がいる気配もない。だからといって、村の家の中にいるのが単なる百姓だと考えるのは危険です」


 引くべきか、それとも進むべきか。サジやライエルだけでなく、武僧もまたユウトの判断を待っている。組織の上に立つ者にとして采配を振るわなければならない。


「馬車から馬を切り離します。サジさんは町に援軍を求めてください。駐屯軍が無理でも武僧なら集められる。人数が足りないと思ったらフブキさんを動かしてください」


 武僧は軍の精鋭に匹敵する。フブキが冒険者を金で雇って人員がさらに加わるのなら、戦力で負けることはない。


 問題は村にいた敵が予想より多い、ないしは強かった場合だ。キリンに乗ってきていないので、空には逃げられない。


 サジもユウトの心配をしたのか、確認してくる。

「よろしいのですか? 僧正様、今なら安全に撤退できますよ」


 気付かない振りをして、帰るのなら今しかない。だが、ユウトは逃げない決断をした。

「ここで引けばトリスタン一家も西の村も危ない。戦うべきだ」


 サジも覚悟が決まったのか表情が引き締まる。

「なるべく早く帰ってきます」


 方針は決まると、ライエルがユウトに提案した。

「私も気になることがあります。もう一度、ドリトルに会いましょう」


 サジが一人で馬で帰れば、敵は危機感を持つ。ならば、多少険悪な空気になろうとドリトルを問いつめたほうがいい。


 ドリトルが偽者なのか。カタリナ教徒として家族と敵対したのか。邪教徒に身内を人質に取られているのか。内容によって対応は変わる。


「会いに行きましょう」とユウトは決意した。


 ライエルが武僧に頼む。

「屋敷の中で騒動が起きれば、皆さんは速やかに館の門を閉鎖してください。中の敵を逃がさず、外からの敵を防ぐためです」


 常に心身を鍛えてきた武僧に尻込みする者はいない。武僧は僧ではあるが戦いの経験があるので制圧ができる。また、武僧同士なら連携も容易だ。


 十二人の武僧が頷き了承した。ユウトは館の入口に戻る。

 入口には若い男性の使用人が待っていた。


 意図を隠して、ユウトは頼む。

「要件を一つ忘れていました。ドリトルさんにもう一度、お会いしたいのですが、いいですか?」


「畏まりました」と使用人はユウトを中に入れてくれた。再び館の中にユウトは足を踏み入れる。だが、今回の危険度は先より高い。

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ドリトル、ドリエルが混在しています。
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