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百四十一話 降って湧いた問題

 年寄役の家に赴いた。家は村の一般的な百姓の家よりは大きいが、立派ではない。

 権力を利用すればもっといい家に住めるのだろうが、今の年寄役は質素に暮らしている。


 年寄役は恐縮しながらユウトに茶を出す。

「庄屋様をこのようなみすぼらしい家にお招きして心苦しいです」


「村が豊かでないのなら俺の力が足りない証拠です。今後は力を入れましょう」


 倹約は美徳である。だが、村の繫栄はユウトの仕事である。

「催促したようで申し訳ない」


「気になさらずに、問題を教えてください。早急に解決しなければいけないものですか?」

年寄役は困っていた。


「村の裏にある山に竜が出ました」


 注意が必要な報告だ。町の東側の山には竜が住んでいる。だが、北西の村と隣接する山は竜の生息地ではない。西に連なる山々は竜が住むには適さない地のはず。


 年寄からの報告は続く。

「最初、村人から見たと報告を受けた時は飛竜と見間違えたのではないか、と疑いました。飛竜であれば時折、山で見かけます」


 気になる情報だ。飛竜も村人にとっては恐ろしい魔物のはず。

「飛竜は危なくないんですか?」


「ここらへんに住む飛竜は警戒心が強いのです。繁殖期に縄張りに入らなければ襲ってきません。飛竜の繁殖期は春です」


 飛竜と村人が共存できているのなら問題ない。無理に手を出すと状況が悪化しかねない。

 本来の生息地を捨てて竜が移動してきたのなら危険だ。場合によっては北西の村だけではすまない。


 西の村や南西の村にも影響が出る。


 深読みもできる。山の民が起死回生の策とばかりに、凶悪な存在を呼び出したとする。凶悪な存在に竜が生息場所を奪われたのなら脅威である。必ず町にも被害が出る。


 問題は西の三つの村だけではなく東の地、全土に及ぶ。

「見かけた竜の種類はわかりますか? また頭数は?」


「飛竜と違うので、竜だとはわかりました。ですが、この地に竜はいないので、正確な種類まではわかりません。頭数は一頭です」


 一頭と聞いて少し安心した。一頭なら討伐も可能だ。また、凶悪な魔物が呼び出された可能性は低い。


 急ぐのならコタロウに頼んで氷竜を使って追い出せばいい。


 竜種なら縄張り争いに負ければ、逃げて行く。

「なんらかの理由で群れから逸れた迷い竜でしょうかね。迷い竜ならすぐに追い払いましょう」


 年寄役は気味悪がっていた。

「いえ、それがですね。動きが妙なんですよ。人を恐れず村の近くまできます。ですが、人も家畜も襲わないんです。また、竜が出てから米や野菜が盗まれるようになりました」


 竜は雑食であるが、米や野菜を盗む竜は聞いた記憶がない。とすると、誰かが操る竜である可能性が高い。


 山の民が偵察にきた線は薄い。奇襲ならわかるが、偵察では姿を見られないほうがいい。また、戦略物資や秘密裏に栽培している植物を持って行くのならわかる。


 普通の農作物を持っていっても役には立たない。

「謎ですね」


「襲って来ないのは嬉しいんです。盗まれるといっても少量なので被害は知れています。ですが、不気味でしかたない」


 村人にしたらいつ襲ってくるかわからない竜は脅威でしかない。しかも、農作物を盗みに来るのなら、子供がバッタリ遭遇して、竜に襲われる危険もある。


「竜の件は早急に対処します。次に俺が来た用件を伝えます。キャベツが不作だと聞いたからです。生活に困っていませんか?」


 年寄役の顔が暗くなる。

「正直に言えば困っています。秋に村ではキャベツを売って塩を買います。塩を村に持ってかえって漬物を作るためです。このままでは塩が買えません」


 町ではキャベツが不足して、村では塩が買えない。よろしくない状況だ。

「村では野沢菜を栽培していると聞きました。野沢菜の育成状況はどうですか?」


「キャベツも野沢菜もダメです。夏の高温でかなりやられました」


「待ってください。農作物にかなり影響が出ていますね。納税には問題ないと聞いていますが」

「去年から作付けした米は暑さに負けませんでした。だから、米と小麦を全部、納めて納税します」


 年寄役の義務感かもしれないが、これはいけない。

「それだと、お百姓さんの手元に何も残らないでしょう」


「仕方ありません。納税をしないわけにはいかないですから」


 恐れ多くて困窮している事態を言い出せなかった。または、前にいた領主が厳しくて税の減免を言えなかった影響なら問題だ。


「納税を免除するにはもう遅すぎます。次から無理な時は先に相談してください」

「でも、相談されても庄屋様も困るでしょう」


「それをどうにかするのが庄屋の仕事です」


 強がって見たものの、村に支援金を送る措置は難しい。他の村との不平等になる。ミラも特例は認めない。


 検地が入ったので、税収にもミラの目が光っている。町で裏金を使う分にはリシュールが工作できる。だが、素朴な村人は査察が入った時にうっかり余計なことを話しかねない。


「今年も町に水産物を運んで収入が上がるようにします。他に何か売れる物はありませんか?」

「暑かったのでスッポンはよく育ちました。河蟹や魚も育っています。あとは夏に採れたワラビやウドですかね」


 夏は終わっている。山菜は食べつくしたのではないのか。

「夏に採れた山菜があるとはどういう状況です。保存はどうしてます」


「去年買った塩があるので塩漬けですね」

 今年の町での漬物造りは根菜を推奨しよう。それでも葉物野菜を食べたい人は出る。


 富裕層にはワラビとウドの漬物を売ろう。ロックに宣伝させればいい。儲けになると見ればロックは動く。


「ワラビとウドの塩漬けは俺が買います。売りたいだけ用意してください。俺が町で売って金に換えます」


 ユウトの案に年寄役は懐疑的だった。

「ウドやワラビの塩漬けなんて売れるんですか?」


 地元でしか消費されていないから、商品価値があるとは年寄役は考えていない。だが、ユウトは売れないとは考えない。むしろ、町には色々な人が集まってきているので、やってみる価値はある。


 竜も漬物の件も急ぎ対応しなくてはいけない。こういうことがあるから、庄屋業は油断できない。しかもどちらが失敗しても影響は大きい。

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