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第百三十八話 戦う建築家 対 インセクト・マスター

 マタイは一人で充分との話だったが、信用が置けない。また、ユウトからあまりマタイが離れると老婆・ロードの範囲の外に出る。範囲から出ても効果はしばらく続くが、油断はできない。


 マタイに同行してユウトが捕まると困る。フブキにボディーガードを頼んだ。

「村に害を為すインセクト・マスターを討ちます。敵を討ち取るのはマタイさんがします。ですが、不安なので俺も行きます。護衛をお願いします」


 フブキはマタイと行動を共にするのを嫌がった。嫌悪感がフブキの顔にありありと出ていた。

「庄屋様の命令であれば従いますが、マタイを頼って大丈夫ですか? また村を燃やされても知りませんよ」


 不吉な予想をフブキは言うが、マタイなのであながち否定もできない。それでも、フブキは従いてきてくれた。また、フブキの従者としてダミーニも従いてくる。


 フブキはマタイを嫌っていたが、マタイは全く気にしていない。あまりにフブキがマタイを邪険にするので、ダミーニが場を繋ごうとして苦労していた。


 インセクト・マスターがいる場所は北の村から少し行った場所にある屋敷だった。


 マタイは真っすぐ屋敷にいかず北の村に寄った。

「何か準備があるんですか?」


 シレっとした態度でマタイは答える。

「いや、昼飯を喰ってから退治する」


 悠長なことを、とユウトは苦く思うが、これがマタイなので仕方ない。


 ユウトが文句を言わなかったが、フブキはきちんと釘を刺した。

「これで取り逃がしたら、タダではおきませんよ」


 カッカッカと笑ってマタイが応じる。

「いいじゃろう。インセクト・マスターが捕まらなかったら、この首をやる」


「そんな約束して面倒な展開にならなければいいが」とユウトは不安になった。


 さっさと腹ごしらえをしようと近くの料理屋に入ろうとすると、マタイが止める。

「こういう小さい店は窮屈で居心地が悪い」


 普段のマタイの態度から料理屋にはこだわりがないと思っていたので意外だ。


 次の料理屋を見つけると、マタイがまた文句を言う。

「看板がよくない。こういう店は大味じゃ」


 次の店が見つかる。再度のダメ出しがあるのかと思ったが。違った。

「ここがいい。良い匂いもする。こういう小洒落れた店が美味い」


 料理屋が決まった時にはピーク時で混雑していた。


 待たされてから、座る。混んでいたので料理を注文してもすぐに出てこない。


 待たされるのは仕方ないと諦める。食事が終わっても、すぐにマタイは料理屋を出ない。マタイは食後に茶を優雅に飲んでいた。捕り者には時間が掛かる。


 暗くなる前に帰るのなら、あまり時間がない。徒歩なので帰りを考えて欲しい。


 窓の外を見てマタイがポツリと漏らす。

「そろそろいいか、仲間と合流するかの」


 マタイが人を雇っているとは聞いていない。敵を騙すには味方からの考えかもしれない。だが、金欠のマタイがどうやって金を工面したかが気になった。


「何も聞いていなかったですが、誰を雇ったんですか?」


「ハンドラーじゃよ。犬遣いとでも言おうか。犬を野外に放してある。訓練された犬は厄介じゃぞ。馬でも追い込み仕留める。人の足では逃げられん」


 屋敷の近くに犬を待機させている。あとはマタイが乗り込んで敵を蹴散らす。たまらずインセクト・マスターが逃走すれば、野外で犬の餌食だ。


 作戦はわかったが、上手くいくかどうかは怪しい。

 賢く強いマタイの作戦なのでユウトは口を挟まなかった。


 茶をお代わりしてから、マタイが立ち上がる。


 やっと出撃かと思ったところで、マタイはユウトに頼む。

「儂としたことがうっかり財布を忘れたようじゃ。すまんが、庄屋殿に御馳走になる」


『立替』でもなければ『出してもらっていいか?』でもない。

 マタイだから我慢するが、本当に厚かましい。


 マタイの分だけ払うのもフブキとダミーニに悪い。ユウトは四人分の支払いをした。


 料理屋を出たところで、マタイはズンズンと歩き出す。

 インセクト・マスターが潜伏するアジトの位置とは方向が違った。


 さすがにこれはまずい。ユウトはマタイに注意する。

「そっちには農家しかありません。方向が違います」


 ユウトの指摘にマタイはのほほんと返す。

「農家で牛を借りる。牛に乗って敵のアジトに乗り込む。帰りには荷物を積むからな」


 敵のアジトから資金や物資をマタイは持ち出す気だ。あるかどうかもわからない戦利品を考えるなんていささか気が早い。それでもマタイがすることだからとユウトは口を慎んだ。


 農家で交渉してマタイが力の強い立派な牛を借りた。マタイがユウトに指示する。

「庄屋よ。牛のレンタル料を払ってくれ」


 牛を借りる値段は四人分の食事代より高い。だが、持ち合わせがあるので払った。


 マタイはヒラリと牛に乗る。

「楽ちん、楽ちん」とマタイは上機嫌だった。ここは我慢、とユウトは堪えた。


 フブキは食事の時から不機嫌な顔をして、口を利いていない。ダミーニもマタイとフブキの間に入るのを止めていた。ここまで空気が険悪になればダミーニとて、フォローのしようがない。


 牛は力が強いが足は鈍い。テクテクと歩く牛を見てユウトはモヤモヤしてきた。

「これは今日中に帰れるんだろうか?」と気が滅入る。


 マタイが急に牛を降りて走り出した。マタイは健脚なのでかなり速い。

 ユウトはマタイが逃げ出したと思い追いかけた。


 マタイはさきほどの料理屋に駆け込む。

「逃げるんじゃないのか?」


 不審に思ったユウトが料理屋に着く。中から、バタバタと騒がしい音がする。

「ウゲ」「グワ」「ブハ」「ギャ」の叫び声がする。店の中でマタイが暴れている。


 ここまで来ると、ユウトは頭が痛くなり。マタイの奇行にはユウトの寛容さもは限界だった。


 そっと料理屋の中を覗くと、倒れた三人の男と給仕の女性がいた。乱暴狼藉とはこのことだと、マタイを怒る前にやることがある。どうやって店の人に謝ろう。知恵を絞るしかない。


 料理屋の中に入ったユウトを見て、マタイが誇らしげに語る。

「この給仕の女性がインセクト・マスターじゃ」


 信じられない。だが、マタイの言葉が正しいのなら、マタイは見事に仕事を果たした。


 ユウトの後から入ってきたフブキは中を見てからユウトに尋ねる。

「それで、どうします庄屋様?」


 女性がインセクト・マスターだとフブキは認めていない。また、違うと否定もしない。

 店の客と給仕の女性が冤罪だったらどうしようと、ユウトは不安になった。

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