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第百三十五話 魔神の壺

 食事会は和やかに開始される。料理は異国風だった。

 大きな皿で提供され、各自が小皿に盛る。


 地球でいう中華料理の形式に近いな、とユウトは思った。


 料理は全体的に甘酸っぱい。旧王国料理とは違う。また、マオ帝国からきた武僧が持ち込んだ料理とも違う。


 東の地では珍しい料理だった。味は悪くないのだが、常連にはならない、と思った。

 味付けが濃くユウトの好みには合わない。料理に使っている香辛料の匂いも好きになれない。


 会話はハルヒとマタイにより進んで行く。マタイの話は笑いを誘う。ハルヒは楽しんでいた。ユウトとムドウは相槌を打つだけだった。


 ユウトからムドウに話題を振っても、話題が膨らまないので、立ち消えになる。

 ユウトはムドウを警戒していた。ムドウもまたユウトを警戒していると思った。


 極東の国の工作員が倒すべき敵国の重要人物と席を同じくしている。なので、無理もない。


 前菜が終わったところで、一度、皿が全て片付けられた。マタイが持ってきた袋を開けて、木箱を取り出す。木箱の中には怪しげな古びた青銅の壺が入っていた。壺にはコルクの栓がしてあった。


 自信たっぷりにマタイがユウトに壺を見せる。

「見事な壺でしょう。この価値がお分かりになりますか?」


 壺を観察する。壺は古い物ではある。だが、美術品的な価値があるとは思えない。

「正直に言うとわかりません。旧王国時代の品でしょうが、誰の作品ですか?」


 ユウトの答えにマタイはがっかりした。

「わからないとは残念です。ムドウさんはこの壺の価値がわかりますか?」


 ムドウにならわかるのか、と思ったが。ムドウの顔は渋い。

「いや、わからないですね。私が作るのは磁器なので、青銅の作品は詳しくない」


 しょんぼりした顔でマタイは首を軽く横に振る。いかにも残念だとの素振りだ。


 ここでマタイはハルヒに顔を向ける。

「ハルヒさんはどうです? これの価値がわかりますか?」


 ジロジロとハルヒは壺を見る。

「まるで、バララジャの壺みたいですね」


 バララジャの単語は知らない。旧王国系の地名ではない。また、有名な作家でもない。


 だが、ムドウは違った。ムドウはバララジャの壺と聞いて笑った。

「あれは御伽噺ですよ。魔神が入った壺なんて存在しない」


 気になったのでユウトはムドウに尋ねた。

「私はまるで知らないんですが、どんな話なんです?」


「壺を開けると魔神が出てくるんです。魔神は壺を開けた人間に質問する。正直に答えると魔神は願いを叶えてくれる。ただし、嘘を吐くと魔神が壺の中に人を引きずり込むんですよ」


 よくありそうな話だなとユウトは納得した。魔法がある世界なので御伽噺で出てくる壺が存在してもおかしくはない。だが、そんな簡単に手に入る品ではない。そんな便利アイテムがあればもっと噂になる。


 マタイが何をやろうとしているかはわからない。


 楽しそうなのでユウトはマタイに提案する。

「なら、開けてみればハッキリしますね。開けてみましょう」


 わざとらしくマタイが慌てる。

「それは危険だ。もし、本物だったら大変だ」


 よくやる老人だな、とユウトは心の中で笑った。


 でも、場を盛り上げるのにはちょうどよい。

「本物なら買いますよ。いくらですか? 本物ならね」


 マタイが提示した値段は古びた青銅の壺にしては破格の値段だった。だが、本当に魔神が入いっていたら、安過ぎる値段とも言えた。ただ、ユウトには払えない額ではない。


「買う」とユウトが答えられないと、マタイはムドウに尋ねた。

「ムドウさんはどうですか? 買いませんか?」


 半笑いでムドウは言葉を濁す。

「私も本物なら、買いたいですけどね」


 当然の反応だ。偽物の壺に大金を払うのは馬鹿らしい。


 ユウトはマタイに尋ねた。

「壺には封がしてある。封を解いて結果を知ってから買ってはいけませんか?」


 渋るかと思ったが、マタイを軽い感じで承諾した。

「いいですよ。自信がありますからね」


 ユウトは壺に手を伸ばした。マタイがさっと壺を取り上げた。

「止めてください。この壺は本物なんです。ここで庄屋様が壺の中に消えたら、誰がお金を払うんですか?」


 うまい事じらすな、とマタイの態度にユウトは苦笑いした。


 ユウトはムドウに話を振った。

「ならムドウさんが開けてみませんか? 本物だったら私がお金を払いますよ」


 ムドウは乗り気ではなかった。

「本物だったら庄屋様に悪い。庄屋様はお金を払っただけで願いは叶わない」


 本心かどうかわからないが、こういうやりとりも面白い。

「ならこうしましょう。壺を開けるのはムドウさんです。魔神が出てきたら、ハルヒのためになる願いをしてください。それならどうでしょう」


 軽い気持ちでの提案だが、ハルヒが慌てた。

「ダメですよ、庄屋様。壺が本物だったらムドウさんが危ないです」


 ハルヒがこんな子供じみた話を信じるとは意外だった。


 話の流れが面白いのでユウトはおどけて見せた。

「俺が開けるのもダメ。ムドウさんも開けたくない。ハルヒには開けて欲しくない。困ったねえ」


 マタイががっくりした態度で発言する。

「ならば仕方ない。私が開けましょう。もし私が消えたら、お金は恵まれない子供たちに寄付してください」


 なんともマタイらしくないセリフだ。だが、壺をどうするかの話はこれ以上に膨らみそうもない。そう思っていると、ムドウが言い出した。


「マタイさんも人が悪い。ならば私が開けましょう」


 その場の乗りで「どうぞ、とうぞ」とマタイとユウトが勧めた。

 ムドウは笑うと壺を開ける。すると、部屋が真っ暗になった。


 壺の中から半裸の光る女性の魔神が現れた。

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