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第百三十二話 悪い庄屋になる

 ユウトにとってハルヒはなくてはならない存在である。町にとってもなくてはならない人材である。

 極東の国の間者を退けたが、ハルヒが街を去ったとなっては意味がない。


 アメイとセンベイを呼んで対策会議をユウトは開いた。


 センベイが報告をする。

「ハルヒさんに近付いたのはムドウと名乗る男です。ムドウはハルヒさんに結婚を餌に親密な関係になりました」


 頭が痛い報告だった。ハルヒは年頃の女性である。恋人もいれば結婚もしよう。

 ハルヒの結婚は祝福してやりたいが、相手が悪すぎる。


 センベイの話を聞いたアメイがユウトに確認する。

「庄屋様はハルヒ様のことを異性として見ていましたか?」


 以前にハルヒから結婚のアプローチがあった。だが、あの時は村を守るのが精一杯で考えもしなかった。ハルヒは好感の持てる女性だが、恋人に、とはユウトを考えていなかった。


 それにまだ領主様との見合いがどうなるか不透明だ。


「ハルヒと結ばれようとは考えていません。それに俺にはいま見合いの話がある。そんな状態でハルヒとの恋愛がどうのと言うのなら不誠実だ」


 アメイの視線はユウトの言葉を疑っていた。

「庄屋様は自らの結婚すらも政治に利用するお方と考えていいですか?」


 なんか棘のある言い方だ。物語だと成敗される悪徳権力者だ。

 反論はできない。結果として、アメイの指摘した通りに動いている。


「結婚に夢を見ていません。でも、自分を犠牲にしているつもりもありません。ただ、町のためを考えていたら、こうなっただけです」


 アメイの視線の厳しさは変わらない。

「町のため、は後付けの理屈ですね。結局、自分が可愛いに過ぎない。そういう男はたいてい結婚後に浮気と不倫を繰り返します。それでボロボロになっていくんですよ」


 まるで親戚のおばちゃんだなと苦く思う。

 ハルヒを奪還するための話し合いなのに、これでは俺のダメ出しの話だ。


 センベイが口を開いたので助けてくれるかと思ったが、違った。

「若い時に恋愛下手だった男は年取ってから遊びに嵌りますからね」


 ハニートラップにユウトが引っかからないための忠告だが、今の話題に相応しくない。

「俺のことはいいんで、ハルヒを助ける話をしましょう」


 お互いに通じるものがあるのか、アメイとセンベイは冴えない顔で見合わせる。

 まるで、ユウトがダメだからハルヒが敵に奪われた、といわんばかりだ。


 居心地の悪さを感じる。されど、重要懸案の会議なので、中止はできない。


 ダメ男を見るような目をアメイが向けてきた。

「ハルヒとムドウを別れさせましょう。権力者の不貞の後始末もするのも私たち間者の仕事ですから」


「言い方」とアメイに抗議したいが、言葉を飲み込む。

 やろうとしている作戦は男女の別れさせ工作と一緒。ならば、経験がある人に頼みたい。


 娘と他の男を切り離すために貴族が人を雇う。旧王国では時々、聞いた話だ。

 ならば、マオ帝国でも珍しくないはず。人の考えることはあまり変わらない。


「よろしくお願いします」とユウトは頭を下げる。


 アメイは条件を付け加えた。

「工作はかなり大掛かりになるのでお金が掛かりますよ。あと、マタイ老にも協力を求めます」


 アメイがユウトに告げた金額にびっくりした。小さな家が一軒買える。


 値切ろうかと考えるとアメイがピシャリと釘を刺す。

「安く上げろと命じるならできます。ですが、予算が足りない場合は覚悟してください。工作成功時でもハルヒさんが深く傷付くことになりますよ」


 男女の別れさせ工作の相場は知らない。だが、ハルヒと極東の国を切り離し、手元に置いておきたい心情はユウトの我儘でもある。


 ハルヒにすれば極東の国までムドウと一緒に行けるのなら、構わないかもしれない。

 お年寄りの世話はハルヒを中心に回っている。ハルヒの心が離れれば、お年寄りの心も離れる。


 ユウトには老婆・ロードの力がある。だが、働いてくれる人があっての能力だ。

「金はまた稼げばいいです。ハルヒを守ってください」


『金ならある』の態度は悪徳商人や悪徳貴族のようだが事実だ。金の使いどころは今だ。


 アメイの顔は芳しくないが了承してくれた。

「何から何を守っているのかは、知りませんけどね。私たちはこれが商売ですから」


 引き受けたからにはやってくれる。また、成果も期待できる。


 だが、勘違いしてはいけない。優秀なアメイが動いてくれるのは、亡くなった主のカクメイの孫のサイメイとの関係が良好だからだ。完全に人に助けられての町の運営だなと、しみじみと思った。


 アメイからは作戦の詳細は何も聞かされなかった。

 外に漏れるといけない。また、作戦成功後に何かの折にハルヒに知られた時のためでもある。


 ユウトは悪い奴からハルヒを守ろうとして動いた。だが、別れさせ作戦の成功に関わらず、作戦が露見すればハルヒとの関係は最悪になる。ならば、ユウトは知らなかったとしておけば、傷は浅くなるとのアメイとセンベイの判断だ。


「私は関与しておりません。全ては秘書がやったことです」と他人に責任を押し付ける政治家のようだ。責任を負わない人間は嫌いだが、止むを得ない。


 失敗した時の被害は最小限にする思考は諜報活動の基本とユウトも心得ている。

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