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第百二十話 グレート・ウィッチ 対 ジャイアント・スローンズ(茨)

 若竜になった氷竜は飛竜よりも格段に速い。ユウトは置いていかれはしないかと心配だった。だが、キリンは楽に従いていく。今までのキリンの速度は全力ではないと知った。


 追い風の影響もあって銀山まで夕方に着きそうだった。


 到着するのと、問題が解決するのは別の話。日が暮れる事態も考慮すると、捜索や戦闘に費やせる時間は一時間もない。


 どうするのだろう? とユウトは疑っていると先頭を行く氷竜が飛行ルートを変えた。

 銀山へ真っすぐ行くのなら道が違う。飛行ルートの変更はオオバの指示だが、どこへ向かっているのか?


 しばらくすると、低木の茂みが拡がる場所があった。茂みは円形で直径百mはある。

 ユウトは不審に思った。街道から外れるが、位置的には銀山と最寄りの最北の村の途中。


 ここら辺は完全に荒野地帯だ。あんなに青々とした茂みがあるとは思えない。

「荒野に緑か、目には優しいが」


 空を見上げると晴天。空気も乾燥している。茂みの周りには水がなく奇妙だった。

 茂みは円形なので、湖があったが乾季で涸れたとも考えられない。


 キリンが速度を落とした。キリンは茂みに近づくのを警戒していた。

 氷竜は高度を百m以上にする。氷竜は茂みの上空を旋回し出した。


 何かが起きる予感がした。

「あれはただの茂みではない。何かが潜んでるか、擬態しているのか」


 氷竜から松明のような火の塊が落下する。空気が乾燥しているので、前から自然にあるのなら着火して燃える。だが、幻影ないし、他から持ってきた低木なら燃えはしない。


 どちらだと、ユウトは見極めようとした。


 茂みがメキメキと音を立てて動き出した。低木が変化した。茂みから茨の生えた蔓が飛び出した。蔓は人間の腕の太さほどに編み上がる。うねうねと動く茨が形を取る。


「意思を持った茨か! あれが全部動くとなると巨大な魔物になるぞ」


 茨は編み上がり、人間の上半身のような形状を取る。最終的に全長二十mにもなる半身の巨人となった。


 茨の巨人が怒りの叫びを上げた。茨の巨人が腕を突きだす。腕から茨を鞭状に伸ばす。だが、氷竜の高度まで届かない。


「茨が太すぎるので上空の敵を狙うには不向きだ。細い縄状にすれば届くかもしれないが、成長した氷竜の力なら易々と千切れる」


 茨の巨人から氷竜への有効な攻撃はない。


 氷竜が霜の息を吐いた。冷気を帯びた白い吐息が発せられる。


 霜の吐息もまた距離があり過ぎて、茨の巨人の表面を軽く凍らせるだけだった。

「霜の吐息は距離が長くなれば威力が落ちる。茨は植物だろうが、荒野地帯で夜を越せるのなら冷気は効果を上げづらいか」


 氷竜が茨の巨人に近付かなければダメージを与えられない。されど、近付けば茨の巨人が伸ばす茨の蔓の射程に入った。


 茨の巨人は身体が大きいためか動きが鈍い。氷竜の機動力をもってすれば、一撃離脱戦法なら捕まらないかもしれない。


 されど捕まって地上戦になれば若い氷竜では勝てない。身長も体重も茨の巨人のほうが上回っている。獰猛な火竜種なら勝負を懸けたかもしれない。


 氷竜は火竜と比べれば気性は大人しく、コジロウが操っているので、知恵も回る。

 現に氷竜は焦って高度を下げる真似はしなかった。茨の巨人も無駄な攻撃は止めた。


 相手も馬鹿ではない。少なくとも獣並みには頭が回る。

「ここまでは両者に失策はないが、このままでは勝敗は付かない。決め手はオオバさんが何をするか、だな」


 ユウトが攻略するのなら無理に勝負せず帰還する。再度、飛竜十頭による部隊を編成して、油を積んでくる。空から油を落として火攻めを実行する。


 現在は油がないのでユウトの策は使えない。キリンがユウトをチラリと見た。


 キリンに雷を落とさせる手もある。垂直方向の落雷なら、氷竜の霜の吐息より射程は長い。時間がかかれば茨の巨人を倒せるかもしれない。


 とはいっても、キリンにも限界はある。茨の巨人が耐え切る可能性もあった。

 ユウトはキリンに対して首を横に振った。オオバを信じて待つ。


 氷竜から白い粉が落ちだした。霜や雪の類ではない。

「あれはなんだ?」と疑問に思った。氷竜は茨の巨人の上空で旋回を続ける。


 茨の巨人は粉を避けない。もっとも、広い荒野では隠れる場所はない。茨の巨人は苦しみもしない。ただ、ぼんやりと降り注ぐ白い粉を眺めていた。


 オオバが何をやろうとしているのか、ユウトにはわからなかった。茨の巨人も体にかかる白い粉の正体がわかっていない様子だった。


 氷や雪の類と違うなら薬の類と予想ができる。除草剤系なら茨の巨人には有効だ。だが、オオバは薬を持ち込んではいない。また、茨の巨人が枯れる様子もない。謎の戦いだ。


 茨の巨人の足元がピカッと光った。突然に茨の巨人の表面が白くなっていく。茨の巨人はここで苦しみ出した。全身が真っ白になると茨の巨人の動きが止まった。


 そのまま、塩の塊のようになって茨の巨人は崩れた。何が起きたかわからない。茨の巨人も何をされたかわからなかっただろう。確実なのはオオバが期待に応えて勝利した事実だ。


 氷竜が高度を下げる。氷竜が動かなくなった茨の巨人の残骸を蹴とばす。茨の巨人がボロボロと崩れた。白い粉塵の山ができると氷竜は翼で吹き飛ばした。


 氷竜が降り立ったのでユウトも近くに下りた。オオバはひょいと氷竜から下りると、まだ、少しだけ残っている粉塵の山に入って袋を見つけてきた。


 オオバはユウトに袋を渡す。

「これは庄屋殿の分じゃ。中は見ないでおくよ」


 意味が分からないが、中身を確認した。袋の中には密貿易品の召喚石が入っていた。

 ユウトは背負ってきた袋に何事もなくしまう。


 コジロウの興味を引かないように、オオバに話しかける。

「白い粉はいったいなんですか?」

「なんの変哲もないコウジカビじゃよ。移動中に増やしておいた」


 オオバが持ち込んだのは生酒の搾りカスだった。原始的な生酒であれば特定の微生物だけで構成されていない。おそらく、酒粕のなかのある種の微生物が魔法で爆発的に増殖して茨を枯らした。


 動物には無害でも植物には致命的な被害を出すカビは自然界にいる。今回の茨の巨人の死因は病死だ。だが、腑に落ちない。


 植物には色々な種類がある。微生物も多岐に及ぶ。偶然に効果を上げる組み合わせが成立する確率は百億分の一以下ではないだろうか。


 茨の巨人が相手ではなかったら、今回の作戦は成立しない。


 ユウトが怪しんでいると、オオバは平然と薦める。

「庄屋殿、道が使えるようになったと銀山に報告せい。むこうも困っておるじゃろう」


 茨の巨人は倒れた。だが、茨の巨人が隠れていた場所は街道から離れている。

 どうして、ここで隠れていた茨の巨人が銀山の荷物を襲っているとオオバは知っていたのだろう?


 怪しい、凄く怪しい。だが、追及はできない。オオバは密貿易について既に知っている。

 この場で下手に追及してコジロウにまで密貿易の話を聞かれるのはよくない。


 秘密を知る人間は少なくしておいたほうがよい。


 問題は解決したが、オオバの近辺を探っておく必要はあるな。

「銀山へはコジロウと報告に行ってください。銀山からの荷物が届いたのち、問題は解決したと判断して、報酬を払います」


 ムッとした顔でオオバは釘を刺した。

「さっさと金を渡せばいいものを。しみったれた庄屋殿じゃな。値切ろうと思ったら怒るぞ」


 オオバは愚痴った後にコジロウと銀山に向い、ユウトは街に戻った。

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