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第百十八話 戦う建築家

 ダナムの家に行くと、珍しくラジットがいた。二人は共に宮廷からやってきたので、顔見知りだ。でも、村だった時に一緒に来た時以外はダナムとラジットが一緒にいるところを見た記憶がない。


 ラジットはユウトを見ると微笑む。

「こんにちは庄屋殿、良いお天気ですね」


 当たり障りのない挨拶だが、ユウトはラジットの表情に裏がある気がした。何を企んでいるかはまるでわからない。


 ラジットが先に呼んでいたのかフブキが出てきた。預けたダミーニは出てこないので鍛錬に耐えられなく逃げたのかもしれない。フブキの指導はきついので止むなしだ。


 フブキがユウトに尋ねる。

「庄屋殿、悪いが先にこられたのはラジット殿だ。ラジット殿の用件の後でいいだろうか?」


「いいですよ」と了承する前にラジットが勧める。

「いやいや、それでは庄屋殿に申し訳ない。庄屋殿が先にお話してください」


 譲り合って先に進まないのも馬鹿らしいのでユウトは切り出した。

「南東の村で資材の大規模盗難事件が発生しているので対処をお願いします」


 すぐにフブキは反応した。

「お年寄りの保養所を追加で作ろうとしていた場所ですね」


「場所が場所だけに官吏に冒険者を付けるだけでは不安です。なにせあの村はハーメルとの支配地と隣接している」


 ハーメルが関与しているかどうかは不明。だが、何も知らないわけはないし、面白そうだと思えば手を出してくる。ハーメルの性格なら利益になると思えば平気で人間を襲ってくる。油断ならない相手だからこそ、腕利きを送らねばならない。


 ちょっとばかし困った顔でフブキが意見した。

「ダナム様はいま出掛けております。帰りはいつになるかわかりません」


 ダナムが家を長期で空ける報告は聞いていない。街から給与をもらい水道を管理する仕事をしているので、許される留守ではない。


 何か理由があるのだろうが、フブキが言わないのなら、聞いても無駄だ。


「長期休暇の理由は後で聞きましょう。でも、困りましたね。フブキさんの腕は信用していますが、あのハーメルが絡んでいるのなら手こずるでしょう」


 顔を輝かせてラジットが口を挟んできた。

「それならば推薦したい人間がおります。建築家のマタイです。我が友にして中々に狡猾な男ゆえ役立つでしょう」


 建築資材に関することだから推薦は理解できる。建築家がいれば運搬に詳しいから、消えた資材の調査に役立つ。建設に関する知識を持っているから山の民が何かを建造していれば正体がわかる。


 でも、ラジットをして「狡猾」として評価させるのが気に懸かる。


 名前を聞いてフブキはピンときたのか、声を挙げた。

「まさか、アイバ・マタイですか?」


 フブキが知るのならマオ帝国の有名人だ。だが、フブキの顔は嫌そうに歪んでいる。

 これはまた問題老人だなとユウトは悟った。


 シレっとした顔でラジットは推挙してくる。

「マタイに双剣を持たせればダナム、レルフの二人の強者を同時に相手にできます。お二人にロシェ殿が加われればマタイは斬られるでしょうが、簡単にはいかないでしょう」


 触れ込み通りなら今までの中で最強の武人だ。

 武人枠は欲しいところだが、そんな逸材をマオ帝国は手放すだろうか?


「ただ、問題が多き人物です」とフブキの顔がちょいと曇る。

「やっぱりな」が正直な感想だ。


 とてつもないプラスの能力を持つが、恐ろしいほどにマイナスの影響も出るとみた。

「フブキさん。詳しく聞かせてください」


「建築家のマタイは山の民です」

 敵国人の受け入れは公にはしていないが、既に銀山の前例がある。


 ラジットも知っているので、話を持ってきたのだろう。

「それぐらいなら……」とユウトが答えるとフブキは言葉を続ける。


「殺人の前科もあります。詳しくは知られてはいませんが、他にも前科二十犯はあるでしょう」


 犯罪者か、でも単なる外道ならロシェがいた時代に叩き切られているはず。


 生きているのなら、なにか事情があったのだろう。

 東の村の領主のカフイアにしても敵の傭兵から貴族になった。


 戦争で村を襲うのは良くて、殺人はダメというのも杓子定規過ぎる。

 かくいういうユウトも村のため、街のためと、犯罪をしている。


「フブキさんが道義的に問題ないと言うのなら多目に見ましょう」

「あと……」とフブキが続けるので、まだあるの? と思うが言葉を飲み込む。


「邪教徒であり信仰を捨てていません」


 さすがにここまで来ると「いいですよ」とは即断できない。改宗者なら受け入れてもいいが、邪教徒となればママルが黙っていない。寺院の武僧にわかれば、ユウトは糾弾される。


 フブキと対照的にラジットはニコニコしているのでラジットに尋ねた。

「他には?」


 苦笑いしてラジットは続ける。

「後はまあ、借金しているとか、不倫しているとか、博打好きとか、浪費家とか、決闘好きとか、酒乱とか、煙草好き、気分の波が激しいとか、珍品骨董に入れ込んでいるとか、些細な問題ですよ」


「それは些細か?」と突っ込みたいが黙る。おおよそではなく、全く持ってのダメ人間ではないか。ここまでのマイナスを打ち消すほどのプラスが出せる人間なんているのだろうか。


 拒否したいが、ラジットが推薦するので「ダメです」では能がない。


「フブキさんの命令に従ってくれるのなら連れて行っていいですよ。今回の件で手柄を立てたら面接をして有用なら取り立てましょう」


 フブキはびっくりした。

「ダメです。そんなの、マタイ老を使いこなすのは龍を従えるより難しい」


 フブキは拒絶したが、ラジットは対照的に穏やかに告げる。

「マタイを連れていくのなら。この事件は解決したも同然でしょう」


 怒ってフブキは抗議した。

「ならばラジット殿がマタイ殿と一緒に行けばいい。私は御免願いたい」


 エホエホとラジットはわざとらしく咳をする。

「近頃は年のせいか体の調子がめっきり悪い。たとえ隣の村までとはいえ体が保ちません」


 完全な小芝居だ。ラジットはマタイを推挙したいが一緒に働くには嫌だと見えた。


 ここまで来ると、マタイなる老人の働きをみたくもある。

「フブキさん、マタイさんと一緒に南東の村まで行ってください。仕事を受けていただけるのなら今回のダナムさんの不在の件は責任を一切問いません」


「わかりました」と不承不承でフブキは受けてくれた。 


 ユウトが帰ろうとするとラジットが引き留めた。

「お待ちを庄屋殿、今回のマタイへの報酬ですが私に払ってください。マタイは私に借金がありますので、回収できるうちに返済させます」


 ラジットが今までマタイをユウトに合わせなかった理由が理解できた。マタイは問題があるので薦められる人材ではない。だが、借金を取り立てる上で働かせる必要があり仕事を斡旋してきた。ラジットにい良いように乗せられた気もするが、ここは様子を見よう。

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