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第十一話 経営改善

 ゴブリン・ロードを打ち倒してからは、ゴブリンの群れを見ることもなくなった。

 ゴブリンによる被害はぱったり途絶え、斥候や冒険者にも発見されなくなった。


 気になることがあるとカクメイは言い、飛竜便でゴブリン・ロードの死体を街に送った。

 ゴブリン・ロードを倒した功績による恩賞が出た。ロシェは恩賞の二十五%を村に入れてくれた。


 兵士が村に落とす金もあるので、村の収支は改善され、美術品を売らなくても経営できそうだった。


 やれやれどうにかなった、と安堵しているとエリナが来る。

 臨時徴税かと暗くなったが、違った。

「領地を発展させるように領主様から命令があったわ。家を増やしなさい。村を大きくするのよ」


 人口構成は高齢者が多い。村では毎月のように亡くなる人が出る。戦争の後遺症とゴブリン・ロード騒ぎでいまも二割の空き家があった。空き家は維持費だけがかかり、経営的にはマイナスだった。

しかしながら、無理な拡張は反対だった。


「お代官様。家を増やす対応は可能です。ですが、入居希望者が減っています。現状の運営形態を考えると、拡張は考え直したほうがいいかと」


 エリナは強気な態度で鼻をならす。

「どうせ、ここは姥捨て村でしょう。なら、こっちから適当に見繕って老人を送るわ」


 エリナは勇敢な武将かもしれないが、経営には疎いな。

「村に入居する老人は誰でもいいわけではないんです。持参金を持ってきてもらわないと村の運営ができません」


 エリナはユウトをきっと睨んだ。

「村の拡張は決定よ。やらないと私が領主様に怒られるわ」


 同じ中間管理職だから気持ちわかるけどさ。

 あまり上ばかり見ていると、俺は愛想を尽かすよ。


 エリナが帰ると、ほどなく大工集団が木材を持ってやってきた。

 棟梁はダンと名乗った。


 不安だったので尋ねる。

「棟梁、手間賃ってどうなってます?」


 ダンがびっくりした顔で訊く。

「庄屋様からもらうようにお代官様に言われましたが」


 なんだよ。費用は村持ちかよ。先に相談してくれよ。本当にこういうのは困る。

 金の算段ができない上司に転生後も苦しめられると思わなかった。


 次々と材料がやってきた。怖くなったのでダンに質問する。

「材料費ってどうなってます?」

「街では違いますが、このような村で家を建てる場合、建材は買ってから運びます」


 ほっとした。着払いではない。着払いだったら最悪だ。

 温泉があるので大工さんは気持ちよく働いてくれた。


 ダンとはすっかり意気投合した。家に招いて酒を振る舞うほどの仲になった。

「棟梁、景気はどうですか?」

「いいですよ。兵隊も職人も百姓も三食食えて美味い酒が飲めます」


「全体的にいいんですか?」

「最近伸びているのがインテリですかね。いまこいつらが一番に金を持ってます」


「どんなインテリですか?」

「皆ですよ。役人も軍人も学者も技術者も頭の良い奴は収入がぐんと上がりました」


 商人、貴族、地主、軍人が力を失い、知識人層の収入が伸びた。

 新政府はユウトたちから金、権力、土地、軍事力を取り上げた。


 上と下を繋ぐ中間層として使うつもりだと思えた。

 新政府は官僚制度を整え、さらなる拡大路線を伸ばす。


 帝国の始まりとの言葉が頭に浮かんだ。

 まさに中間層というにぴったりな俺の立場は、新政府の方針に助けられているのかもしれない。


 ユウトはエリナに手紙を出す。

 子息に知識人がいる人を入居者のターゲットにするよう頼んだ。


 ユウトには読みがあった。

 貧しい中、教育を授けてくれた親に対し、子供は深い恩を感じる。


 金で親を引き取ってもらうことに負い目を感じてしまえば、入居者が来ない。

 だが、ここに強烈な出世競争が絡むと事情が違う。


 兄弟がいれば、老いた親は押し付け合いの対象となる。

 収入がある知識人層はこの村に親を送ると読んだ。


 結果は狙っていた通りだった。

 高収入の知識人層はきちんと持参金を用意した。


 空き家が減り、金が増える。増えた金を使って、新たな家を建てる。

 その家に人が入れば、また金を生む。好循環が望めた。


 世話人の給与も上げ、質を改善する。大浴場も第二浴場を作った。

 エリナがやってくる。エリナはすこぶる上機嫌だった。


「喜びなさい。領主様が代官たる私の功績を認めました」

 俺の功績じゃなくてか。部下の手柄は上司の手柄なんだな。


「そこで庄屋にも褒美を授けます」

 エリナが紙を差し出す。紙には新たな役料が記載してあった。


 額にして二倍。なかなかの増収だった。

 いきなり上がったな。前世でもここまで給与が一気に上がった経験はない。


 エリナはぴしっと釘を刺す。

「これからも領主様のために励むのよ」

「ははっ」と畏まる。


 ユウトの役料が上がると、カクメイがやってきた。

 カクメイがニコニコしながら尋ねる。

「庄屋殿、私の孫娘と見合いをする気はないか」


「どうしたんですか急に」

「庄屋殿もそろそろ年頃、結婚を考えてもいいじゃろう」


「そうじゃなくて、なぜいまなんです?」

 カクメイが当然のことのように指摘する。

「なぜって、庄屋殿、前は役料が少なかったじゃろう」


「俺の役料の額をご存じなんですか?」

 カクメイは教えた覚えのないユウトの役料をピタリと言い当てた。


 ちょっとした、ホラーだった。

 これか、これが、田舎の怖さか。個人情報が筒抜けだ。


 適当に言葉を濁すとカクメイは帰って行った。

 ハルヒの態度も少し変わった。


 一緒にいると、結婚やらお付き合いやらをアピールしてくる。

 気になったので直球で訊いた。

「俺と結婚したいんですか?」


 ハルヒは明るい顔であっけらかんと答える。

「庄屋様となら、ここに家族を呼んで仲睦まじく暮らせると思います」


「なんでいまになって?」

「だって庄屋様の役料って結婚して一家八人で食べて行くには少なかったでしょう。だから、恋愛対象じゃなかったんです」


 隣国では価値観より生活力重視で結婚まで行くんだな。

 てことは、何か。俺は老婆・ロードじゃなかったら結婚できなかったのか。


 いや、そんなことはない。前世は結婚できなかったけど。

 ちょっと複雑な気分になったユウトだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この物語は皮肉が効いて、かつ、ユーモアが感じられて良いと思う ワンパターンの強ぇええとかベタなザマアとかでは無いのが良いところだと感じているが、多くの読者はそういう安直な展開と分かりやすいキ…
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