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第百三話 東南村の会談

 ハーメルと戦った経験がフブキにはある。敵の実力は把握しておきたい。ダナムの家に行くと運よく二人がいた。ダナムとフブキは薪を割っていた。


 ダナムがユウトを見ると作業の手を止める。ダナムの機嫌はわかるほどよい。

 同じ元軍人で話がわかる人間ができて気分が良いのとみえる。フブキにしても、かつて一緒に戦場も駆け回った上官なので話し易いと見た。人は一人でも生きられるが、独りで生きていくには人生は長い。


「どうですか、フブキさん。ダナムさんと上手くやれそうですか?」

 フブキはダナムと打ち解けていたのか表情が幾分か柔らかい。

「目の前で元上官を悪くは言えないでしょう」


 ダナムも機嫌よく返す。

「裏表があればそんなに苦労しなかったろうに。よく言うな」


 二人は息ピッタリとは言わないが、上手くやって行けそうだった。

「フブキさんにさっそく軍事顧問として意見をお尋ねしたい。バンパイア・ロードのハーメルが俺に面会を求めてきています」


 ハーメルの名前を聞いてフブキの顔が引き締まる。

「止めたほうがいい。ハーメルは人間を馬鹿にしている。また、食糧程度にしか思っていない。まともな交渉にはならない」


 長命の吸血鬼が人間を見下す態度はわかる。だが、馬鹿にしているのなら会いたいと思うだろうか? 誰かに頼まれて俺を誘き出して始末する気か? それなら返り討ちにしてやろう。


「ハーメルを討てますか?」

「ハーメルには吸血鬼の取り巻きがいる。前回、大方は倒したがまた眷属を増やした可能性がある。また、バンパイア・ロードは魂の帰還場所である棺桶を破壊しないと復活する」


 広い山の中に棺桶を隠されると、止めを刺すのが難しいな。討伐するならハーメルを復活させる棺桶のある本拠地を潰さなければならない。山は人間の支配地域ではないので、ハーメルの本拠地を探すだけでも一苦労だ。


 アメイに探ってもらうとしても掛かりっきりの仕事になる。時間もかかるか。今回の会談が罠だった場合、ハーメルの撃退は可能だろうが、討伐は無理か。ハーメルも滅ぼされる心配はないと踏んだから会談を申し込んできた。


 冒険者を見捨てる決断は容易い。だが、俺になんとしても会うつもりならここで拒否しても手を打ってくる。強引な手に出られた場合は東南の村に被害が集中する恐れがある。東南の村に被害が出るとわかっているのに、みすみす手を打たないわけにはいかない。


「ハーメルが俺に会いたいと思っている理由はわかりますか?」

 フブキは素っ気なく意見を述べる。

「見当が付かないな。軍事的な視点から見れば、だが」


 軍事顧問なので、諜報や政治は聞くなとの態度だな。無理に知ったか振りされて、他の部署と衝突するより良いのかもしれないが、ちょっと冷たくはないか。


「ハーメルとの会談に行くとします。身の安全を確保するのであれば何人必要でしょうか?」

「軍事顧問としては、庄屋殿が行くのは反対です。ですが、どうしても行くというのであれば、手練れを六人用意してください」


 手練れが六人か、冒険者なら一チームだな。これに、フブキとママルを加えれば問題ないか。ダナムも連れていきたいが、ダナムも一緒だと街の守りが薄くなる。


「手練れの手配はフブキさんにお願いします。金は掛かっても良いです」

 密貿易と肥料工房の稼働が見えてきているので、金はどうにかなる。


 フブキはちょいとばかし考えてから口を開く。

「この街には冒険者や傭兵が多い。とはいえ、玉石混交だから選別には数日を要する」


「かまいません、あと宿に仲間をハーメルに人質に取られている冒険者がいるので会って話を聞いてください」

「人質は見捨ててもいいですか? 生きていても、吸血鬼になっていてもです」


「いいえ、できる限り助ける方向で考えてください。街のために命を張ってくれた冒険者を見捨てるのは忍びない」


 五日かけてフブキは六人の冒険者を選別した。人員が揃ったのならさっさと片を付けたい。六人は顔を見ただけでもできる冒険者の雰囲気が漂っていた。ただ、人質を取られたと報告にきた冒険者の姿は見えなかった。気にしているとフブキが教えてくれた。


「交渉が決まったので先の冒険者は使者として出しました。ハーメルが本気で交渉に臨むのなら、冒険者は東南の村で待っているでしょう」


 ユウトはキリンに乗り出掛ける。早期に決着させるために、飛竜を用意して村まで空路を使った。空からいけば半日で夕方には村に着いた。村に到着すると、現地を仕切る年寄り役が出迎えてくれた。年寄役の老人はユウトたち一行を見ると安堵した。


 一行は年寄の家で持て成された。

「庄屋様、自らお越しいただけて嬉しいです。警備の兵がいるとはいえ、相手はバンパイア・ロード。夜が不安でたまりませんでした」


「明日か明後日には決着をつけるつもりです」

 年寄が持て成しの料理を準備させていると、兵士が駆け込んできた。

「申し上げます。魔物が出現しました。数は一体。相手はオーガです」


 オーガが一体で村を襲う事態は珍しい。東南の村は前線に近い。防衛用の塀もあれば、兵士も駐屯している。どんなに強かろうと一体で来るのは自殺行為だ。


 険しい顔でフブキが立ち上がる。

「食事の前に片付けるぞ」


 冒険者たちも立ち上がる。ユウトも気になったので席を立った。

「気になりますね。俺も行きましょう」


 兵士に先導してもらい現場に向かう。現場には警戒のためか篝火が焚かれていた。


 夜目が効くはずのオーガだが、ご丁寧に松明を持っていた。オーガは門から矢が届かないギリギリの距離に立っていた。なにかの使者だろうか? ユウトが訝しむと、冒険者の一人が厳しい口調で警告する。


「オーガはアンデッド化している。もしかしたら、吸血鬼化しているかもしれない」

「ハーメルの使者だろうか? 向こうからやってきたのか?」


 厳しい顔でフブキは注意する。

「用心することです。段取りでは明日の昼に山で会う予定になっていました」

 奇襲にしては数が少ない。村の周りは闇に覆われているから隠れる作戦は取れる。


 ママルが真っ暗な闇を見渡し、進言する。

「油断なさるな、僧正様。闇に紛れて二十ばかり気配があります」

「のこのこ出て行く我々を奇襲するつもりでしょうか?」


 フブキが暗闇を見渡し考えを語る。

「奇襲するなら、ここは村から近く場所が悪い。増援が来れば吸血鬼が二十や三十いても討ち取れる」


 ハーメルには何か考えがありそうだ。

「とりあえず、近づいてみますか? 俺は戦力になりませんが、冒険者とフブキさん、ママルさんがいればやられる心配はないでしょう」


 ユウトが決断すると、フブキは従った。ユウトを囲むように村から出てる。オーガはユウトたちが近づいていっても動かない。距離が十mまで来た時に事件は起こった。突如、オーガが無言で走り寄ってきた。


 フブキが前に出て、オーガを迎え撃つ。オーガが振り下ろす松明の一撃をフブキはさっとかわす。フブキが剣で斬り上げる。なんの変哲もない攻撃だが、一撃でオーガの首が半分千切れた。


 本来なら勝負有りだが、オーガは倒れない。血も流れず苦痛の声も上げない。無言で松明を振り回す。完全にアンデッド化している。


 フブキは二撃目に突きを見舞う。フブキの剣が心臓を一突きするとオーガは崩れ落ちた。ママルが平然と解説する。


「ゾンビのようなアンデッドならあそこまで機敏な動きはできません。吸血鬼なら可能ですが、吸血鬼は心臓が弱点なので心臓を貫くと死にます」


 フブキは一撃でオーガを倒せたがあえて吸血鬼化しているか確認するために首を斬ってから心臓を突いたのか。


 フブキが剣を納めず暗闇を見据える。暗闇から拍手が聞こえてきた。暗闇がぼんやりと薄青く光る。


 外套を着た人物が現れた。さっきまで男の気配をユウトは感じられなかった。だが、いまならわかる。目の前にいるのは人間ではない。強者の圧を放つ人外の存在だ。

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