序章׳א:始まり
気がついたら、そこの景色は一変していた。
そこに広がっているのは喉かな風景。ああ、昨日の惨劇が夢のようだ。
なぜここまで悪夢のような毎日を過ごさなければいけないのだろう。これじゃあまるで昨日のことを夢にしろと言ってるようなもんじゃないか…。これを毎日、いつまで続ければ良いんだ……?
――そう。
ここは「昨日とは違う」異世界だ。
― ― ― ― ― ― ―
カアカアカア――。
烏に似た不気味な鳴き声は、俺の目を覚ました。
ここは森の中。草木が生い茂る、森の中だ。
なんでここに……?
どこか何とも表現しがたい、マイナスの感情と共に起き上がる。
この罪悪感のような、狂気のような、恐怖心のようなものはなんだろう? そう思っていると段々とそれは消えて、擦れていく。
そんな中視界に入るのはレジ袋。そうだ――俺はさっきまでコンビニにいた。
弁当を買って、なぜか周りが光って、そうしたら……。
周りを見渡しても、そこはコンビニのある都会どころか、田舎ですらない。
人間がほとんど手を加えてない、暗い森だ。
……俄に信じがたいが、どうやら俺の身に人知を超えた不思議なことが起きたに違いなさそうだ。ワープ、異世界転移、転生。大体このようなものだろう。
だとしたら俺は、なろう主人公?
「……なんてことはないよな」
あのようなご都合主義主人公に俺がなれるわけがない。
勿論全てがそうとは言わないが、このような超常現象が起きていると自然とそうなった気がしてしまう。
というかそうでも思わない限り、もう何も出来ないのだ。
えっと……それじゃあ何をすべきだ?
コンビニ袋を持ち上げ、持ち物を確認する。未だ進んでいる7時30分を指すアナログ時計、クッキーシューに弁当、そして財布。財布の中にはポイントカードとか何とか色々ある……と。
やっぱりコンビニに行って帰ろうとした矢先であることは間違いない。持ち物が明らかにコンビニに行く時のものだ。
――そんなところに現われたのは一匹の猫。少しずつこちらに歩み寄ってくる。
可愛らしくて愛らしいその猫を見た瞬間、心は休まる。
なのに……。
少しずつ、違和感を覚えてくる。あれ、猫ってこんなに大きかったっけ。猫ってこんなに目が鋭かったっけ。猫って――。
その時に目に入ったのは猫の目。
先程まで蒼い綺麗な目をしていたのに……
その瞬間目の色が、変わった。
比喩表現ではない、その名の通り。
人瞬きの間に目は、赤く染まったのである。
後ずさる。
次に出てくるのはれっきとした恐怖心。本能が、俺が逃げろと叫んでいる。
そして極めつきに猫はその場で鳴いた。
その鳴き声は異色な鳴き声だった。
獣のような気がして、耳障りな声だったのだ。
「――ッ!」
足が勝手に逃げはじめた。よく見るとそこにいる植物、動物、全てが不気味な見たことの無いものばかり。こんな生物、いただろうか?
いや俺はそこまで疎くない。こんな生物がいたら俺は知っているはずだ。つまりこんな生き物は俺が住んでいた世の中にはいない……!
もしかして――? いやまだ根拠として不十分だが。
異世界……異世界転移なのか!?
大きな声が響き渡る。
それは先程の猫の断末魔らしかった。
「え……?」
誰かに助けられたか、それとも偶然刈られたのか。それは分からないが、疲れや安心感によって速度は落とされた。しかしその安心も束の間。
不気味な高い笑い声が、耳に届く。
初めて自分が五感に優れていることに感謝しながら、分析を始める。
焦りを通り越して、俺は冷静だった。
方向からして、猫が断末魔をあげたあの方向。声は女性。明らかに俺の方向に進んでいる。
……ひょっとして召喚主、つまり味方なのかもしれない。
そんな思考は俺に存在しない。なら俺は訊こう。
なぜ知らん人を信じられる? 命の恩人とかじゃあるまいし。
そう。俺にとって知らない人は、敵なのである。
だとしたら……。
選択肢は一つ、逃げるしかないのだ。